アスパシオンの弟子 その言葉を、あなたに。(中)
- カテゴリ:自作小説
- 2016/03/06 20:06:50
「フィリア、ありがとう!」
ウサギがメニスの混血の娘に叫びます。かわいらしいお嬢さんに。
ありがとう。でもごめんなさいね。少し時間を下さいね。私、アイテリオンと話したいんです。さあ、彼の前に追いつきましたよ。
「リオン……!」
「オマエ、ハ」
「リオン、私です」
「ダレダ」
……!
「小ザカシイ真似ヲ! 我トテ大精霊ヲサラニ繰リ出ソウゾ!」
「リオン、あの……私……です」
「オ前ナド知ラヌ!」
どうしましょう。こんなこと言われるなんて。たとえ魔天使化していても、意識や記憶は変わらぬはずなのに。思い出すようにちょっと痛めつけてみましょうか。
彗星パーレー召喚!
「アイダさん、これで三体目だよ? 制御しきれるの?!」
「ええ、大丈夫ですよ。行け! パーレー!」
まずは翼をひっこぬかせて――「グハアアアッ」
胸に大穴開けさせて――「グフウウウウッ」
右手を一本、吹き飛ばしてもらいましょうかね――「ガアアアアッ」
これで、思い出すでしょうか?
「オ……オノレ! 何者ダ!」
そんな……。
私。メニスの里から出される時に、この人に泣いてすがったんです。
白い衣をつかんで、必死にお願いしたのです。里から出されるぐらいなら……
『いらないなら、殺してよぉっ!!!』
泣き叫ぶ私を見下ろしていた、冷たい紫の目。私、決して忘れません。なのに……
「アイダさんにはカラウカス様の魂がついてる。魂の性質が変化してるから、あいつにはわからないんじゃないの?」
なるほど。でも、認識してもらわなくては。この時のために「私」は心血を注いで我が身を……。
「出デヨ! 惑星アーナ!」
あらまあリオン。苦しまぎれに惑星の大精霊など出しても無駄ですよ。
「出でよ! 超新星ノビリテ!」
私の超新星が焼き尽くします。鳥たちよ、ちょっとどいてくださいね。この人の胸倉をつかませてくださいな。
「うふふ……つかまえた♪」
「放セ! 化ケ物メ!」
「震えてますね。私がこわいのですか? あら、あなたの精霊は、一瞬で尻尾を巻いて逃げてしまいましたねえ」
素敵! 私の超新星が、この太陽系の第五惑星の息吹を消しました。まったく勝負になりませんね。
リオンたら、きれいなお顔がこわばってますよ? いい表情です。もう出せる精霊はなくなりましたか? あなたが持っている大精霊はたった三つ? あとどれだけ下位のものをもっていようが、どれだけ出そうが無意味ですよね。私の超新星が、すべて焼いてしまいますもの。
「ねえリオン、どうして私にこんなに魔力があるかわかります? 私、自分の魂を造り直したの。転生するたびにおのが魔力が陪乗されるようにしたんです。一回では大したことはないけれど、何回も転生を重ねれば……。だからレティシアからハヤトになる間、ウサギに会うのを我慢して、虫やら小動物になって、短い転生を幾度も繰り返しました。だからこんなに魔力が増えたんです」
ウサギに会えない期間は本当に辛かったです。でも、強くなりたかったから我慢しました。
「ふふふっ。カラウカス様が、ハヤトの魔力がかんばしくないから分霊して魔力をひっつけたなんて、真っ赤な嘘なの。あの方は、凄まじすぎるハヤトの力を抑えるために、おのれの魂の魔力で封印したのです。こんなに魔力がある子なんて、だれからも警戒されて敵視されますからね。だからお優しいあの方は、ハヤトの力を隠してくださったのですよ」
カラウカス様の魂は、「私」が顕現したらすんなり魔力の封印を解いてくれました。うれしいことにあのお方も、私に味方してくれているみたいです。
さて。
では、言ってやりましょう。アイテリオンに今こそ言ってやりましょう。
そうしたらこの人は、私のことを思い出すでしょう。
「それにしてもアイテリオン。あなたにはがっかり」
きっと脳裏に浮かぶはず。あわれな魔力なしの、貧相なメニスの姿が。
『いらないなら殺してよぉっ……!』
あの時。
私は泣きじゃくりながら、わざとこの人を攻撃したのに。そうして反逆罪で処刑してもらおうと思ったのに。
あなたは冷たく、私にこう言ったのです……。
――「こんなちんけな魔力しか持ってないとはな」
「……オ……キア?!」
ああ。
ああ。
あああ!
やりました。やりましたよ、ウサギ!
「ごらんなさいウサギ! アイテリオンのこの顔を! 思い出しました! この人、私のことを思い出しましたよ!」
なんて顔。なんて顔なの!
鳩が豆鉄砲くらったような阿呆面。口をぽかんと開けて。目を見開いて。
私を見てる。アイテリオンが私を見てる。涙をこぼしながら微笑する私を、紫の瞳に映してる……!
「やったわウサギ! 見て! ねえウサギ!」
「よ、よかったねアイダさん。ぎゅふ。き、きつい。腕きつい」
ああ、感無量です! 私、この瞬間を、ずっと夢見ていたのです。愛するウサギと一緒に、この瞬間を迎えることを!
思い切って我が魂に改造をほどこした甲斐がありました。
前世の記憶を保ったまま転生する――これは黒の技の応用でさほど難しくありませんでした。
転生すると魔力が陪乗になる――これも人工魂と吸魂石の原理を応用しましたから、さほど苦労せずにできました。
転生体の中で冬眠する――これが難しかったのです。転生体が「私」だと知れたら、ウサギは結婚どころか、普通に話すらしてくれないでしょう。だから私はわざとおのれが多重人格者になるようにしました。これは大変な作業でした。なぜなら、おのが精神を切り分けねばならなかったのです。
でもそのおかげで……ああ、もう涙がとまりません。ウサギよ、私は今最高に幸せです!!
さあ、世界を閉じましょう。にっこり笑って、アイテリオンに別れを告げましょう。
「さようなら……私を棄てた人」
「うわわ。鳥たちがアイテリオンと魔人たちを下に押し込んでくよ? なんてすごい勢いなんだ」
あらまあ、アリスルーセルは、魔人たちも新次元に放り込むつもりですね。なんておそろしいこと。
「アミーケ! 鳥たちを退かせてっ。次元を閉じたら鳥たちも一緒に飲み込まれるっ……」
――「ぺぺ、このままでいい! たむけだ! あいつらに話相手をくれてやる!」
勝ち誇ったお顔。さすがですね。新次元に監視役兼調査団を送り込もうという腹づもりでしょうか。新次元と私たちの世界の疎通ができるかどうか、調べるおつもりなのでしょう。実に抜かりのないことです。
では鳥たちはあのままで、振動箱を止めましょう。
さあ、ウサギ。箱のそばへ来ましたよ。
「よし、アイダさん一緒に!」
ええ。一緒に。
「箱の停止ボタンはこれですか?」
「うん! ねえ、この箱から鳴ってるアイダさんの歌声、ほんときれいだよねえ。うっとりしちゃう」
「ありがとう。あら、このボタンかわいい。ハート型なのですね」
「俺の気持ちだよ。アイダさんへの俺の……」
え――?

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- 優(まさる)
- 2016/03/06 21:16
- 好きであることの証ですかな。
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