Nicotto Town



アスパシオンの弟子 その言葉を、あなたに。(後)

 





 あ……ら? 




 私どうしたのかしら。地に横たわって。
 新しい次元は……閉じましたよね? 振動箱のスイッチを、二人で押したはず……。

「う……うん。新次元はちゃんと閉じられたよ」

 ウサギ? どうして、はらはら泣いているのですか? 私たち、アイテリオンに勝ったのでしょう?

「うん。勝ったよ」

 ではそんなに哀しい顔をすることはありませんよ。大団円、ですよね。

「で、でもアイテリオンが最後っ屁で光弾放ってきて……あ、アイダさん、俺をかばって……し、心臓打ち抜かれてっ……」

 あらまあ。だから胸がとても痛いのですね。

「あらまあ、じゃないよぉ! 大精霊ぽんぽん出してたくせに、どうして自分に結界張ってなかったんだよ?! しかもなんで俺をかばうの?! 魔人の俺を!」

 だってかわいいウサギに大穴が開くなんて、私の心臓が哀しみで吹き飛びます。

「冗談じゃなくてほんとにアイダさんの心臓が吹き飛んだんだよぉ!」

 どうか泣かないでください。たぶん大丈夫ですよ。最悪これで死んでも、大丈夫ですよ。記憶は保持されますし、また転生すれば、魔力がさらに倍になって生まれてこれますから。

「だめ! 死なないで!」

 引きとめてくださるんですか? 私はレティシアやハヤトとは別物ですよ? あのアイダですよ。あなた、私がこわくてたまらないでしょう? 

「そんなことない! 逝かないで! 俺、まだ言ってないっ。アイダさんに言ってない!」

 ウサギ。なぜそんなに血相変えて迫ってくるのです?

「あ、あ、あ、あ、愛し、てる……!!」

 え……? その言葉は……

「レティシアには何度も言ったよ。お師匠さまにすら言ったのに、アイダさんには唯の一度も言ってない。でもこの言葉、ずっと言いたかったんだ。ずっとずっと、アイダさんに言いたかったんだ。なのにひとことも俺の気持ちいわせてもらえないで、アイダさんたらひとりで勝手に島降りて死んじゃって……。それでまた俺を置いてくなんて、許さないからっ!」 

 ウサギ……。ピピちゃん……。泣かないで。
 ありがとう。これで本当にもう、思い残すことは……

「だめ! アイダさん!! 消えないで! アイダさんこそ俺の、俺の……」

 また会えますよ。私たちの魂は不滅です。
 きっとまた、ひと目でわかりますよ。

「だめええっ! 俺の、伴侶なんだからぁああっ!!!」




 ……お……? おや?
 なんだ? 腹がぬくいぞ。
 あれ? 腹の上でウサギが泣いてる。こいつは……

「ぺぺ?!」
「うぁああああん!!」

 ひ?! なんて泣き声だよ。ていうか、ここどこだよ。
 うわ?! 俺の周り、ウサギだらけ?! 

「大丈夫う? ヴィオ、すごく心配したよぉ?」

 これ、俺が集めたウサギたちか? なんでヴィオとウサギがここに……
 ひええ、あたり一面すっげえ廃墟。残り香的に漂ってる魔法の気配のすさまじいこと。肌がぴりぴりするわ。だれか大精霊召喚したなこれ。すげえ。だれよこんな、節操なくぼんぼん破壊活動こいたの。

――「おまえだよ」

 あ、エリク。って、おまえ大丈夫? 今にも死にそうにうっすら輝いてるぞ? 両脇から支えてるアミーケとフィリアがすっげえ心配顔だ。

「ちいっと無理しちまってな。近いうちにお迎えが来そうだわ」

 ええ?! 一体どんな無理をしたんだよ?!

「本調子じゃねえのに六翼の女王になって暴れたからなぁ。寿命かなりちぢんだわ。まあ、ピンクウサギの着ぐるみ頭のバカが暴走したせいだわ。つまり、おまえのせいだわ。勘弁しろって」

 え?! えええ?! 俺が一体何したっての?!
 ぺぺは、時の泉にぶちこまれたんじゃないの? いつ出てきたの? プトリちゃんまでいるじゃないか。なんでこんなところにみんなでいるのよ?
 俺、今まで一体どうしてたんだ? ぺぺが処刑されたのがショックで、ベッドに身を投げ出して泣き濡れて……それからずっともやもやと夢を見てたような気がするんだけど……。
 そんでさっき突然目の前に銀髪のお姉さんが現れてさ、起きろとかいわれて、平手打ちビシャッて夢の中でくらったんだよなぁ。あの人、ほんと絶世の美女だったわ。おかげで目が覚めた……んだけど。
 俺の目の前にはでっかい穴がある。どうやら神殿のような建物があったらしいが、その床がすっぽり抜けて、深くえぐれている。
 深く。深く。地の底にまで届きそうなぐらいに。その底は真っ暗だ。
 ここで何かが起こり、そしてどうにか落着したようだ。
 漂っているすさまじい魔力の余韻が、びりびりと空気を震わせて響きわたっている。
 それはまるで、歌のようだった。輝かしい勝利を、言祝ぐような……。

「戻ってよおおっ」

 え? ぺぺ、なんだって? 

「アイダさんに、戻って!! 今すぐ戻ってええっ!!」

 うわ、きたねえ。鼻水だらだら垂らして泣くんじゃねえよ。胸が濡れるだろうが。って俺の胸何これ。宝石が埋まってる? ぴかぴか点滅してるぞ。

「ぺぺがおまえに、自分のオリハルコンの心臓を与えたんだ。この場で緊急手術してやったのはこの私だが……まあ、適当に血管繋いだにしては、ちゃんと稼動しているようで何よりだ」

 アミーケが俺にペペの心臓を? なんてこった。心臓提供したペペは大丈夫なのか?! 

「アイダさぁああん! うぁああああん!」

 ひ。胸に大穴開いてるのに元気に泣いてやがる。魔人ってほんとすげえな。
 でもアイダって誰よ。おい、そんなにギリギリ俺を睨むなよ。戻れって、どういうことよ。

「こんなむさいおじさんはやだっ! 俺は断固拒否する!」

 俺だと? なんだこのウサギ、ちょっと見ない間にずいぶん柄が悪くなってるぞ。

「ハヤト! 今すぐアイダさんに戻れ!」 

 しっ……師匠に命令?! なんだそれは! なんて口のきき方だこいつ!

「銀髪がいい! 目は紫にして!  今すぐ腰の下まで髪伸ばせ! 百歩譲って赤毛の長髪でもいい! だがスズメの巣みたいな黒髪に不精ひげとか! おまえはダメだあっ!」

 な?! 弟子にダメ出しされるいわれはねえわ! このや――

「ぺぺ!? お、おい大丈夫か? こら、いきなり倒れるな! ぺぺ!」
「まあ、泣きたい気持ちはわかる。本当によくわかる」

 エリクを支えてるアミーケがしみじみとため息をついてやがる。
 つまりアイダってのは……俺とは正反対のもの? 綺麗な女、とかなのかぁ? と、ととととにかく!

「たのむ! ぺぺをなんとかしてやってくれ!」
「ああ、すぐに新しい心臓を造って入れてやる。その心臓とおそろいのやつをな」

 アミーケの言葉に俺はホッとして、意識を失ったウサギを抱きしめた。
 この毛ざわり。ほんと最高だ。やっぱりこのウサギは抱きがいがあるよ。
 きめこまやかな白いふわわふの毛。血統にアンゴラが入ってるのかな。
 しかしなぜだろう、心の中にはちきれんばかりに幸福感があふれている。
 なんだろうこれは。わからない。よくわからないけど……

「心臓、ありがとうな」

 俺はウサギにほおずりした。
 えもいわれぬ幸福な感覚が俺を包んだ。
 ふわりと、柔らかく。 




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2016/03/18 20:43
よいとらさま

お読みくださってありがとうございます><
ハートは、アイダさんへのメッセージなのでしょうね^^
ハート型、じつはプロトタイプポチ一号にもつけられていたのですが、
ソートくんにあえなく逆ハート型にされてしまっています。
(タカサゴの席の部分がはぁとで塗装されている模様)
改造ビフォーアフターイラストはこちらに掲載→http://8893.mitemin.net/i173418/
ポチ製造にもアイダさんが大いに関わっていたのだと思われます^^
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2016/03/18 20:32
優(まさる)さま

お読みくださってありがとうございます><
うふふ♪ のアイダさんのはんぱない無双でした~。
いよいよ終幕です^^
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2016/03/12 09:40
おはようございます♪

ハート型のボタンを押すために、
二人で一緒に押すために、
遥かな時間をペペさんは生き続け、
アイダさんは何度も生きた。


決着がつきましたね^^
それぞれの人がそれぞれの日常へ帰っていくのでしょう。
物語の結びに向けてペペさんたちの気持ちがどう語られて
いくのか、とても楽しみです。

いつも楽しいお話をありがとうございます♪
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2016/03/06 21:21
いよいよ終焉のお話ですかね。
アバター
2016/03/06 20:17
87話目という数字を文字数制限で入れられませんでした^^;
カテゴリ:ファッション
お題:この春やってみたい髪型。

 心臓いれられて復活しても、泣いて愚痴りまくるウサギ。

「いますぐ腰まで髪伸ばせええ! ウワァァ-----。゚(゚´Д`゚)゚。-----ン!!!!
早く髪の毛まっ白に染めてよぉっ!」

 銀髪の長髪、美しいですね。綺麗ですね。どきっとしちゃいますね^^





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