アスパシオンの弟子 終歌1 消失の歌(後)
- カテゴリ:自作小説
- 2016/03/11 09:54:58
驚くには値しない。
ソートくんもカラウカス様も、あの白の導師と取引をした。つまり岩窟の寺院の導師とアイテリオンは思った以上に関係が深いのだ。
前最長老レクサリンはメキドに魔人を封じる棺を貸し出してくれ、公然と白の導師と敵対した。とはいえ、彼が本物のエリシア姫を受け取って封印所に封じた可能性も完全に否定できない。棺貸し出しは仲違いした結果だったかもしれないのだから。
すなわち、長老様たち全員が怪しい……。
韻律使いの婆によれば、ヒアキントス率いる蒼鹿家は懲りずに起死回生をねらっているという。
返還したアズハルの娘リネットを「にせもの」とし、騙されたと被害者面して、眠れる本物の姫を担ぎ出す――つもりでいるようだ。近々水面下で、「エリシア姫」の身代金を払えと脅すべく、メキドに密使が来るだろうというのである。
そんなことをされるのははた迷惑なので、俺たちは密使が来るまえに寺院にそれとなく伺いをたてた。だが、返答は知らぬ存ぜぬ。
ゆえに今日――。
神聖暦7371年、十の月五日。
俺たちは、湖の岸辺にいる。 導師たちの結界を破り、向こう岸にある寺院に渡ろうとしている。
取引の材料にされる前に、「エリシア姫」を迎えにいくことにしたのだ。
ポチもいるし、トルナート陛下のガルジューナもすでに地底に潜んでいる。
味方は何百人とつれてきている。だがこれは、侵攻ではない。
メキドのトルナート陛下が寺院に里帰りし、じきじきに導師の方々に感謝をのべて贈り物をする、というのが表向きの名目だ。
――「お、破れたな」
あぐらをかく我が師が腰を浮かす。さらりとゆれるカツラの銀髪。
……うう、やっぱりなんか違う。化粧……させてもだめ? た、体型かな? もっと腰しぼってもらう? アイダさん……会いたいよ……。
湖の霧が晴れていく。
そっと手を伸ばせば、目の前にあった空気の壁のような弾力が……なくなっている。
さて、ヒアキントスはどう出るだろう。
湖の結界を破れば、俺たちは勝利を手にしたも同然だ。寺院のものどもは混乱に陥るだろう。
「よっし! 乗り込むぞお!」
うきうきで今にも気球船に乗り込みそうなジャルデ陛下を、しばし待て、とトルナート陛下がいさめる。
「相手の出方を待ちましょう」
俺は他の動物たちといっしょに歌い続けた。
たぶんヒアキントスは石舞台に導師たちを集め、風編みをして再び結界を張ろうとするはずだ。
それを阻止してやれば、相手は仕方なく動いてくる。
断固抵抗してくるか。それともすんなり俺たちの要求を呑むか。
いずれにせよヒアキントスには、しっかり罪を償ってもらうつもりでいる。
バルバトスにトルを殺めるようそそのかした罪。かつて我が師を嵌めた罪。そして、最長老レクサリオンを殺めた罪。メキドの神獣ガルジューナを奪おうとした罪――あげればきりがない……。
ジャルデ陛下は「攻め込もうぜー?」とそわそわ。
優しいトルナート陛下が苦笑しながらまあまあと抑えている。
この陛下たちを寺院の中で戦わせる、というような状況は造りたくない。
相手はあのヒアキントス。玉体の価値をよく知っている。命を奪えば一国をたおすも同じ。
実は……トルナート陛下がここにくることを、俺は渋った。でも実の姉をこの手で救いたいという願いを無碍にはできなかった。
ジャルデ陛下は俺の弟に継がすとか悠長なことをいってるが、継承者がいても今上が死ねばどれだけ影響をくらうかよくわかってないところがある。ひとことでいえば、アホだ。
メキド軍をおたくの北の果ての街に展開する許可ちょうだいっていっただけなのに、援軍に加えて本人までやってきた。ほんとに戦ごとが好きなんだろうなぁ。
かくして結界が破れても俺たちは歌い続け、じっと待った。
「ああああもぉ……ひーまー」
ジャルデ陛下が街の屋台から揚げ菓子を買ってきてたいらげ、うとうと昼寝をはじめたとき。
「船がくるぞ」
我が師がほう、と声をあげて湖の果てをゆびさした。
湖からふわっと風が吹いて来る。
魔法の気配のない、自然に起こっている風。
あれは、漁船。メセフの船だ。俺たちが見守る中、船はどんどんこちらの岸辺に近づいてくる。
船に黒き衣の導師が三人、乗っている。
それは。最長老ヒアキントスからの使者だった。
ひとりは長老トリトニウス。あとの二人は、長老に昇進した導師たちだった。
つまり俺が寺院を出てから二人、長老がいなくなり、ヒアキントスが新しくこの二人を長老にした
ということだ。
「ようこそ、我が岩窟の寺院へ」
トリトニウスが深く頭をたれてトルナート陛下に挨拶する。
オルゴールをかかえて歌う俺と、天地の動物たちをちらちらとながし見ながら。
その顔には、あきらかに恐怖がうかんでいた。
「入院をご希望されるならば、トルナート陛下おひとりでどうか当院にお入りいただきたく……」
――「それはだめっしょ」
すると我が師がずい、と長老とメキド王の間に割って入った。
「どうしてもひとりってんなら、メキドの摂政、この黒き衣のアスパシオンが名代として院にご招待されるわ」
……。
言うと思った。
予想通りすぎてもう……。
「あ、使い魔は連れて行っていいよな。人間じゃなくてウサギだからさ」
「ふむ……それならば、頭数には入らないでしょう」
「だそうだ。ぺぺ! いくぞぉ!」
「はいっ!」
俺はうなずき、銀のオルゴールをトルナート陛下に渡した。
これで陛下たちを院に連れていかなくてよくなった、と安堵しながら。
さあ、いよいよ決戦だ。
「おいでぺぺ」
「はいっ!」
我が師が手をさしのべてくる。
俺は素直に、その腕の中に飛び込んだ。すでに魔法の気配を下ろしている、その腕に。
「まっ……待ってください!」
そのとき。
トルナート陛下がとんでもないことを言い出した。
「つ、使い魔は連れて行ってよいのなら! 僕を、小動物に変えて下さい! 僕を、アスパシオン様の使い魔にしてください! きっと前世で何回かは、小動物になってるかと……!」
その時俺は、露ほども思わなかった。
まさか……この言葉のおかげであの生き物を目にすることになるとは……。
取引の材料にされる前に、「エリシア姫」を迎えにいくことにしたのだ。
ポチもいるし、トルナート陛下のガルジューナもすでに地底に潜んでいる。
味方は何百人とつれてきている。だがこれは、侵攻ではない。
メキドのトルナート陛下が寺院に里帰りし、じきじきに導師の方々に感謝をのべて贈り物をする、というのが表向きの名目だ。
――「お、破れたな」
あぐらをかく我が師が腰を浮かす。さらりとゆれるカツラの銀髪。
……うう、やっぱりなんか違う。化粧……させてもだめ? た、体型かな? もっと腰しぼってもらう? アイダさん……会いたいよ……。
湖の霧が晴れていく。
そっと手を伸ばせば、目の前にあった空気の壁のような弾力が……なくなっている。
さて、ヒアキントスはどう出るだろう。
湖の結界を破れば、俺たちは勝利を手にしたも同然だ。寺院のものどもは混乱に陥るだろう。
「よっし! 乗り込むぞお!」
うきうきで今にも気球船に乗り込みそうなジャルデ陛下を、しばし待て、とトルナート陛下がいさめる。
「相手の出方を待ちましょう」
俺は他の動物たちといっしょに歌い続けた。
たぶんヒアキントスは石舞台に導師たちを集め、風編みをして再び結界を張ろうとするはずだ。
それを阻止してやれば、相手は仕方なく動いてくる。
断固抵抗してくるか。それともすんなり俺たちの要求を呑むか。
いずれにせよヒアキントスには、しっかり罪を償ってもらうつもりでいる。
バルバトスにトルを殺めるようそそのかした罪。かつて我が師を嵌めた罪。そして、最長老レクサリオンを殺めた罪。メキドの神獣ガルジューナを奪おうとした罪――あげればきりがない……。
ジャルデ陛下は「攻め込もうぜー?」とそわそわ。
優しいトルナート陛下が苦笑しながらまあまあと抑えている。
この陛下たちを寺院の中で戦わせる、というような状況は造りたくない。
相手はあのヒアキントス。玉体の価値をよく知っている。命を奪えば一国をたおすも同じ。
実は……トルナート陛下がここにくることを、俺は渋った。でも実の姉をこの手で救いたいという願いを無碍にはできなかった。
ジャルデ陛下は俺の弟に継がすとか悠長なことをいってるが、継承者がいても今上が死ねばどれだけ影響をくらうかよくわかってないところがある。ひとことでいえば、アホだ。
メキド軍をおたくの北の果ての街に展開する許可ちょうだいっていっただけなのに、援軍に加えて本人までやってきた。ほんとに戦ごとが好きなんだろうなぁ。
かくして結界が破れても俺たちは歌い続け、じっと待った。
「ああああもぉ……ひーまー」
ジャルデ陛下が街の屋台から揚げ菓子を買ってきてたいらげ、うとうと昼寝をはじめたとき。
「船がくるぞ」
我が師がほう、と声をあげて湖の果てをゆびさした。
湖からふわっと風が吹いて来る。
魔法の気配のない、自然に起こっている風。
あれは、漁船。メセフの船だ。俺たちが見守る中、船はどんどんこちらの岸辺に近づいてくる。
船に黒き衣の導師が三人、乗っている。
それは。最長老ヒアキントスからの使者だった。
ひとりは長老トリトニウス。あとの二人は、長老に昇進した導師たちだった。
つまり俺が寺院を出てから二人、長老がいなくなり、ヒアキントスが新しくこの二人を長老にした
ということだ。
「ようこそ、我が岩窟の寺院へ」
トリトニウスが深く頭をたれてトルナート陛下に挨拶する。
オルゴールをかかえて歌う俺と、天地の動物たちをちらちらとながし見ながら。
その顔には、あきらかに恐怖がうかんでいた。
「入院をご希望されるならば、トルナート陛下おひとりでどうか当院にお入りいただきたく……」
――「それはだめっしょ」
すると我が師がずい、と長老とメキド王の間に割って入った。
「どうしてもひとりってんなら、メキドの摂政、この黒き衣のアスパシオンが名代として院にご招待されるわ」
……。
言うと思った。
予想通りすぎてもう……。
「あ、使い魔は連れて行っていいよな。人間じゃなくてウサギだからさ」
「ふむ……それならば、頭数には入らないでしょう」
「だそうだ。ぺぺ! いくぞぉ!」
「はいっ!」
俺はうなずき、銀のオルゴールをトルナート陛下に渡した。
これで陛下たちを院に連れていかなくてよくなった、と安堵しながら。
さあ、いよいよ決戦だ。
「おいでぺぺ」
「はいっ!」
我が師が手をさしのべてくる。
俺は素直に、その腕の中に飛び込んだ。すでに魔法の気配を下ろしている、その腕に。
「まっ……待ってください!」
そのとき。
トルナート陛下がとんでもないことを言い出した。
「つ、使い魔は連れて行ってよいのなら! 僕を、小動物に変えて下さい! 僕を、アスパシオン様の使い魔にしてください! きっと前世で何回かは、小動物になってるかと……!」
その時俺は、露ほども思わなかった。
まさか……この言葉のおかげであの生き物を目にすることになるとは……。
お読みくださりありがとうございます><
ピピウサギの力はどこまで大陸に及んでいるのでしょうか;
赤妖精たちがすごい活躍をしているなぁと思います。
これからもピピちゃんには、ニンジンパワーでがんばってほしいです^^
お読みくださりありがとうございます><
あと二回でアスパの連載終了です^^
ずっと一番に読みにきていただいて、ありがとうございました><
本当に感謝です。
お読みくださりありがとうございます><
あと一万三千字ほどで了となります。ほんっと長くてすみません;ω;
とにかく好きなものを好きなだけぶちこみました。
これをオリジナルとして、これから大改編・改稿……の、予定です。
ばっさりエピソード切りしてサイズダウンをしたいところですががが;(逆に増えたらどうしよう)
原版に目を通してくださり、本当に感謝です><!
寺院の方の後始末が残っていましたね^^;
一つの時代を終わらせたペペさん。
そして次の時代を作り出すペペさんと1冊の絵本・・・
なんだか素敵です^^
使い魔は頭数に入らない・・・
SF小説の『犬は勘定に入れません』を思い出してしまいました^^
最後の砦の攻略とペペさんが目にした動物がとても楽しみです。
いつも楽しいお話をありがとうございます♪
お題:記念日
ついにこの日が来ました。
古巣の寺院へなぐりこむ日が……^^;