Nicotto Town


ま、お茶でもどうぞ


自作ドラゴンクエストⅡ~悪霊の神々・160

【稲妻の剣】

 闇は冷たく、濃さを増していた。
 ロンダルキアへの洞窟5階。ロラン達は再びここまで到達していた。邪神の像の力で開いた洞窟の入り口はそのままであったが、そこから魔物の群れが地上へ押し寄せたという話は聞かない。内部は不気味なほど静かだった。
 一度道を知れば、足取りは速かった。一階層ごとの階段は、今まで上った塔よりも長いが、厳寒期の雪山を登攀(とうはん)することに比べれば、遙かに楽といえた。
 3人とも暖かい肌着を着ているが、階段を上がるほど洞窟内を満たす冷気はさらに冷たくなっていった。それだけ頂上へ近づいているのかもしれない。
 5階は、ルナの杖に宿した魔法の光明がほどんど役に立たないほど広かった。前後左右、どこにも果てが見えない。
「暗いから、そう感じるんだよ」
 前向きにランドが言う。
「壁がない洞窟なんてない。とにかく前に進めば、どこかに突き当たるものさ」
「そうだな。行こう」
 ロランが先に立つ。前に踏み出した足元がばくんと割れ、ロランを中心に床が細かく砕け散った。
「――うわああっ!!」
 傍らでランドとルナが長い悲鳴をあげる。左右に手を伸ばすが、届かない。念のためロトの鎧のマントを外して、風のマントを身に着けていたというのに!
「ランド、ルナーッ!!」
 叫びながらロランもまた落ち――落下の衝撃を右肩からまともに受け、舌を噛みそうになった。
 同時に、ランドの悲痛な声が衝撃音とともに聞こえ、ロランは血の気が引いた。
「大丈夫かっ!?」
 鎧のおかげか、痛みはさほどでもなかった。ロランは急いで後ろを振り返る。
「あ、ぐぅ……」
 ルナの杖から放たれる光明に照らされたランドの顔が、真っ青だった。抱き起こそうとすると、今までにない悲鳴をあげた。ロランと同じく右肩から落ちて脱臼したのだ。
「待ってろ!」
 ロランはランドの左腕から力の盾を外すと、ランドを覆うようにして掲げた。癒しの魔法が発動し、ランドの傷を治癒していく。激痛に耐えていたランドの表情が徐々に和らぎ、苦しげにつぶっていた目を開けた。
「ありがと……。そうだ、ルナは?」
「今確かめる」
 ルナはうつ伏して動かなかった。だが、ロランが抱き起こすと呼吸はあった。
 非力とはいえ、この長旅を乗り越えてきた彼女もまた、並の女性達よりずっと体力が増し、力もついている。だからランドが生き残ったように、ルナも無事だった。ロランはほっとした。だが、左の足首が奇妙な方向へ折れ曲がっている。骨折しているのだ。
 気絶している間にと、ランドが力の盾をルナへかざした。傷は治り、すぐにルナが長いまつげをしばたかせる。
「あら……? 私達、無事だったの?」
「なんとかな」
 ルナを立ち上がらせ、ロランはランドと顔を見合わせて笑った。ルナには、脱臼や骨折のことは言わない方がいいと思ったのだ。落下の途中、ルナが気絶していたのは幸いだった。ルナが痛みに叫ぶ姿は見たくない。
「でも……ここ、どこ?」
「たぶん5階の下だと思うけど……」
 あたりを見回すルナに、ランドが答える。同じように見回して、うわあと口を開けた。
「なんか動いてる……炎? きれいだねえ」
「本当だ……」
 そこもまた、終わりがないと思えるほど広大な空間だった。5階では、広間に天井を支える柱がいくつか点在していたが、ここにはそれもない。杖の灯りがなければ、暗闇の中に浮かんでいるのではと錯覚するくらいだ。
 その闇のあちこちに、人の形に似た炎が踊っている。それらは両腕を振り上げ、足を開いて左右に跳ねていた。彼らの照り返しのある場所だけが明るく、幻想的な眺めだった。
「フレイムだわ!」
 博識なルナが魔物の名を呼んだ。
「恐ろしい炎の邪霊よ。近づいたら炎を吐いて火だるまにされちゃう!」
「他にもなんかいる!」
 ランドも叫んだ。見れば、赤紫の胸当てを着けた何体もの骸骨騎士が、剣を携えてこちらへ近づいてくる。今までの骸骨戦士とは風格が違った。おそらく、ハーゴンの操る死人軍団では最強だろう、とロランは感じた。
「どうしよう?!」
 ランドがロランの判断をあおいだ。ロランは言った。
「とにかく、上へのぼる階段を探そう。追いつかれたら戦う!」
 二人がうなずくのを見て、ロランは思いついた方向へ駆けだした。だが、さほど行かぬうちに前方からも骸骨騎士――ハーゴンの騎士とフレイムが数体迫ってくる。
「ルカナン!」
 ルナが守備力を下げる呪文を唱えた。敵が青白い光に包まれた瞬間、ロランはロトの剣で斬りかかる。ハーゴンの騎士はロランの剣を盾で受け、鋭く切り返してきた。ロランもまたロトの盾で受けとめ、押し返して相手の体勢を崩すと、上段から一気に切り下げる。何本もの骨を断つ感触のあと、ハーゴンの騎士は愕然と顎を開いた。眼下に宿っていた赤い光が消え、黒い塵となって消える。
「ベギラマ!」
 ランドが炎の幕で敵を包む。残るハーゴンの騎士は炎に巻かれたが、フレイムには良い餌になったようだ。炎の顔の部分に浮かぶ虚ろな部分が邪悪に笑い、ベギラマの何倍もの勢いがある炎を吹きつけてくる。
「うわわわわ!」
 装備している身かわしの服と力の盾では炎を防げない。炎の吐息に巻き込まれまいと、ランドは逃げまどった。ロランが割って入る。ルナがすかさずフレイムの群れへルカナンをかけた。実体がない炎の塊を切れるかという懸念も不安もなく、ロランは無心で斬りつけた。
「だあああっ!」
 ロランの放った上段からの一撃は突風を巻き起こし、剣の当たったフレイムのみならず、周りにいたフレイムまで両断する。
「すごいっ!」
 顔に火ぶくれをこしらえたランドが、痛みも忘れて感動する。まだよ、とルナが言った。
「後ろからも来る!」
「走れっ!」
 広間中に戦いの気配が伝わったのか、ハーゴンの騎士とフレイムの大群が3人目がけて襲ってきた。ロランを先頭に、ランドとルナも走り出す。
 どこへという当てはなかったが、さっきランドが言ったように、閉鎖的な空間である以上、どこかに壁はある。上への階段もあるはずだった。
(もし見つからなかったら、リレミトで脱出してやり直しか――)
 そんなことにならなければいいと、ロランは懸念する。しかし、走り続けるその先に、壁が見つかってほっとしたのも束の間だった。
「こっちからも来たあ!」
 ロランの右手を固めるランドが絶望的な声をあげる。百を超えようかというハーゴンの騎士とフレイムの群れがもう一群迫っていた。
「くっ――!」
 両手に剣と盾を握りしめ、ロランは歯噛みした。左手と背後は壁、前方と右手からは魔物の大群。逃げ場がない。
「私のイオナズンでも、全滅させるのは無理かも……」
 ルナの声にも焦りは隠せない。リレミトを、とロランは二人に頼もうとして、迷った。
(また、ここまでのぼるのは大変だ。何とか切り抜けられないのか?!)
「ロラン!」
 ランドがロランを振り返る。リレミトを使うなら今だと言っているのだ。
「ここまでなのか……!」
 悔しさに、ロランは低くうなっていた。退きたくはなかったが、迫り来る大群の圧力に、やむを得ないと決断する。
「ランド、リレミトを……」
 ロランは剣を納め、何げなく一歩下がった。そのかかとが床を踏み抜く。
「なっ――?!」
「またかぁー!」
「もういやーーー!!」
 大きく開いた落とし穴は、悪魔の哄笑に思えた。3人が立つ床だけがすっぽりと抜け、ロラン達は絶叫しながら落下していった。




月別アーカイブ

2023

2022

2021

2020

2019

2018

2017

2016

2015

2014

2013

2012

2011

2010


Copyright © 2025 SMILE-LAB Co., Ltd. All Rights Reserved.