自作ドラゴンクエストⅡ~悪霊の神々・162
- カテゴリ:自作小説
- 2016/03/13 11:45:38
「それを敵に向かって振りかざせば、何か魔法が使えるはずよ。名前の通りなら、きっと稲妻が呼び出せるはず」
「すごいよ、ロラン!」
ランドがはしゃぐが、ロランは両手で剣を目の前に捧げ持ったまま、無言でいた。
「ロラン?」
ランドはロランの顔をのぞき込み、はっとした。ロランの口元に浮かんでいたのは、まるで愛する人に出会ったかのような、いとしさの入り交じった笑みだったからだ。
(やっと出会えた。これが――僕の剣だ)
ロトの剣を手にした時には感じられなかった、剣の持つ魂がロランに伝わってくる。ロトの剣に宿っていたものは去ってしまっていたが、この稲妻の剣だけは、自分を待っていてくれたのだ。
そして、奇妙な懐かしさも感じていた。温かな思いにひたろうと目を閉じると、ある少年の姿が浮ぶ。
(勇者ロト……!?)
ロランの脳裏に、閃光のように幻が飛来する。
この世界が大魔王の暗闇に覆われていた時代、仲間とともに降り立ったロトは、ガイアの鎧を身に着け、稲妻の剣を携えていた。
「ロラン、どうしたの?」
息をのんで目を見開いたロランに、ルナも心配する。現実から引き戻され、ロランはゆるゆると吐息をついた。
「……これも、ロトの剣だったんだ」
「えっ?」
「ロトがこの世界に降りてきた時、ガイアの鎧と一緒に装備していた剣だったんだよ。さっき頭の中に見えたんだ」
二人があっけに取られているのに気づき、ロランはどうしようと焦った。こんな突拍子もない話、信じる方がどうかしている。
「ごめん、気のせいだったかもしれない。忘れてくれ」
「いや、それ本当かもしれないよ?」
ランドが微笑む。気を使っていないことは、まなざしで伝わる。
「魔法の剣には、そういった念が宿ることもあるらしいから。意思を持つ武器や道具もあるみたいだからね」
「そうよ。意思を持つ道具っていったら、ほら」
ルナが鞄から青い宝珠を取り出してみせる。
「この玉だって、何かの意思を感じるもの」
「それに、ルビスの守りもね。あ、あと邪神の像とかさ」
ランドが言い足す。ロランはほっとした。
「そうだな。……信じてくれて、ありがとう」
「やだな、お礼を言うことなんてないよ」
「そうよ、水くさいわね」
「はははっ」
笑いあい、ロランは手にした稲妻の剣を見た。刃のない不可思議な剣だが、これがロトの剣より遙かに高い威力を持っていると、感覚でわかる。
魔法の使えない自分にとって、武器はそのまま力になる。心強い味方を得た気分だった。
(お前は少し、おやすみ)
せつない思いで、ロランは腰に下げたロトの剣の柄に手をやった。永久不滅の金属で造られたロトの剣は、激戦を経てもいまだ曇らず、刃こぼれ一つない。
だが、勇者ロトが最後の戦いで持っていたこの剣より、それ以前に携えていた稲妻の剣が威力を上回っているとは、皮肉なように思えた。
祈りの指輪がそうだったように、魔力を込めた道具はいつか壊れる。ロトの剣も長い年月の間、徐々に秘めた力を失ってしまった。けれど稲妻の剣は、ロトが携えていた時となんら変わらないように感じる。
この魔窟に、ロトが装備していた武器が眠っていたいきさつは想像のしようがない。魔を滅する剣には、魔物が跋扈する場所が最善の保管庫になっていたのだろうか。
(それならば、ロトの剣も力が残っていて良さそうだけど…ロトが大魔王と戦った時に、秘めた力をだいぶ使い果たしたのかもしれないな)
そう考えることでロランは納得した。ランドが、それにしてもと微笑む。
「けがの功名じゃないけど、これまでにも、こういう偶然ってよくあったよね。まるで何かに導かれているみたいに、うまくいったことが、さ」
ルナもロランの稲妻の剣を見つめる。
「そうね。私はそれが、全部ルビス様の導きだとは思えないけれど……偶然が必然になったいきさつを思い出すと、何か大きな意思を感じてしまうわよね」
それを人は、必然とか、運命、あるいは宿命と呼ぶのだろう。
精霊ルビスは、ロラン達の戦いや邪神官ハーゴンの出現は摂理だと言った。循環する見えない大きな流れに、ロラン達は乗せられて前に進んでいく。ハーゴンもまた。
自分の意思で行ったと思っていたことが、あらかじめ組み込まれた何かに沿っている。
まるで操り人形、あるいは神々の駒のようだ。そのことに気づき、ロランはやや眉をひそめた。ランドとルナも沈黙しているのは、同じことを考えているからだろう。
(それでも)
ロランはおもてを上げる。父や、親しい臣下、これまでに出会った人達を思い出す。摂理に気づいていようといまいと、彼らは懸命に生きようとしている。その心を守りたいと思った。
「……神々の意思がどうあろうと、僕達は戦うしかない。こうして苦労して戦わなければならないのは、未来が定まってないからだと思う」
「そうだね。放っておいたら、ハーゴンが破壊神を呼んじゃうんだもんね。ぼく達が勝てると決まってもいないけれど、戦わなきゃ最悪の未来が待っているんだし」
「神様の意思なんて、関係ないわ。私達に魔物と戦う力がなくったって、私はきっと討伐の旅に出ていたわ。そうしたいと思うんだもの」
「ああ」
ロランは二人を見つめ返し、うなずいた。手の中で、稲妻の剣の刀身に青白い電光が一筋走った。それでよい、というかのように。