アスパシオンの弟子 終歌2 赦しの歌(後編)
- カテゴリ:自作小説
- 2016/03/18 17:48:10
ただちに地下の封印所から、トルの姉君が出されたのはいうまでもない。
生命維持カプセルごと封印されていたエリシア姫を、俺たちはこの潜みの塔へ搬送した。
脳死状態になっているエリシア姫を救うべく、今も治療は続いている。
トルとサクラコさんは姉君のことが心配なので、ジャルデ陛下の客人としてエティア王宮に泊まっている。アズハルの娘リネット王女も、トルに呼ばれてメキドから駆けつけてきた。
女性陣は潜みの塔の設備に惚れこんで押しかけてきたフィリアと、毎日王宮庭園でお茶会を開いて親交を深めているようだ。
ホッとすることに、エリシア姫と入れ替わるように、兄弟子様はカプセルから出てこられた。
寿命が削れた兄弟子さまの頭髪はまっ白。肌はしわしわ。でも、今のところは元気だ。アミーケがさっそく温泉地へ療養に連れて行っている。
「しっかしジャルデ陛下はいつ、人間の姿に戻れるのかね」
「当分無理ですよ、あれ」
緑の蛇は巨大な皮を王宮の地下に置いて、小さな竜王にひっついたまま。
どれだけ会いたがっていたんだろうか。はずかしいから皮は脱ぎ捨てられないとかいってたくせに、いざ再会したら、裸でずっとジャルデ陛下に巻きついている。
陛下は閉口して人間の姿に戻りたがってるが、あの小さな竜の姿でいる方が、家臣たちには受けがいい。王は竜王の生まれ変わり、という噂が巷に広がって、エティア王国の株が急上昇しているからだ。
なぜ噂が広がったのかといえば、王宮の屋根にとぐろを巻いている巨大な抜け殻――ガルジューナの皮が、鎮座しているからだ。
巷ではあれが、竜王メルドルークだとみなされているという。
――「おじいちゃん、おやつの時間よ」
三時?
もうそんな時間か。
レモン色のスカートをはいた娘が微笑みながら、部屋に入ってくる。
銀の盆を卓に置いたその子は、ニンジン入りの橙色のドーナツの山の向こうで、にこりと微笑んだ。
レモン。
レモン。
君がすっかりよくなって、本当によかった……!
「おお、うまそう!」
ああもう、我が師ったら。節操なくそんなに手にとって。
『つむじかぜ』
「きゃあ!」
ちょ! こら! レモンのスカート、韻律でめくるな!
ほんと好き放題韻律使って!
でも我が師が次に転生したら、やばいなぁ。
転生するたびに陪乗される魔力。ひとつの魂で御しきれるものだろうか。今はカラウカス様の御魂が抑えてくださってるけど、転生したら離れてしまうっていってたから。なんとかしなくちゃ。
「へへへ、見ろ、この魔力を! 俺余裕で世界征服できちゃうぞ?」
……!
「お? どうした? 固まっちゃって」
今いきなり。あ、アイダさんとの。会話を。思い出した、ぞ……。
『人生の半分以上を、人工の空を作って生きる。これからもずっと、メニスはそんなせっぱづまった生き方をしそうですからねえ。どうせなら人間とか他の生き物に生まれ変わって、楽しく韻律を使いたいです』
『楽しく?』
『見ろ、この魔力を! 俺余裕で世界征服できちゃうぞ? とか人に自慢したりしてね』
『せ、世界征服しちゃうんですか?』
待て……
『いえいえ、そうウソぶきながら、韻律で鼻毛飛ばして誰かにこっそりひっつけたりとか、女の子のスカートめくりとかして遊ぶんですよ』
『え?』
『そんなふうに普段は余裕しゃくしゃくのらりくらりとしていてね、ここぞという時にかっこよく、右手ひとつで世界の危機を救うんです』
待て……!
『ああでも、世界を救うなんておこがましいですよねえ。まあ、肝心な時に一番大事な人を救えたら……それでいいかな』
『大団円のあとは幻像マンガの王道風に、ヒロインにプロポーズでめでたしめでたし、ですか?』
『あはは。それいいですねえピピさん』
ちょっと待てえええっ!!!
「弟子? 何身構えてんのよ」
大団円……のあとに?
く、来るのか? 来ちゃうのか?
ぷ、プロポーズが来るってのか?!
そういう仕込み、アイダさんならやりかねない!
ぜ、全力でお断りできるのか、俺?!
こいつアイダさん……むさいけどアイダさん……詐欺のようだけどアイダさんだぞ?!
「なにぶるぶる震えてんのよ」
やばい。なにこの、卓はさんでむかい合って、じいっと見つめ合ってるシチュエーション。
我が師が目を細めてる。にこぉと口をほころばせてる。
やばいこれ、く、く、く、来――
「あ、ドーナツのかす、口についてるぅ」
きたああああ! 人差し指でウサギの口つんつんきたぁあああ!
マジで王道恋愛マンガ風アクションんんんっ!
やめろ! 指を口にねじこもうとするな! 断固拒否する! このでかいウサギの前歯で阻止してやる!
「ちっ! 口開けろ! ここでおまえが脊髄反射でかぷんと人差し指をくわえてだな、ぼぼぼーと恥らって赤くなったところにだな、俺がとどめの言葉・・・・・・を――」
や、やっぱり仕込まれてる・・・・・・!!
だ、だれがそんなことさせるか!
思惑通りになんてさせないぞ。
早急に、『強制的にアイダさんに戻してそのまま永久に状態固定する装置』を発明してやる。一生こいつをアイダさんにしてやる! 今にみてろ!
一級技能導師級の俺にできないことは、たぶん、たぶんっ……ないっ!
とどめの言葉・・・・・・を言うのは。
ぷ、ぷ、ぷ、プロポぉズをするのは。
「うがあああ! 開けろこら! 前歯じゃま!」
この、俺だ――!!
――「ぺぺ!」
あ、フィリア! いいところに来てくれた。た、助けてく――
「ペペ聞いて! やったわ! エリシア姫がついに、目を覚ましたわ!」
「お? おおおーっ!」
「お、開いた」
あ。
やばい。
口、開けちゃっ――。
ああああああああああああああ!
「やだなぁもう。顔真っ赤っ赤だぞぉ。あのさぁ弟子、いやぺぺ、俺とさ――」
聞こえない!! 聞こえない!!!聞こえない!!!!
長く垂れた我が耳をふさぐ。うあーと大声を出して、我が師のおぞましい言葉をかき消す。
聞いてないからノーカウント。絶対、ノーカウント!
エリシア姫とトルとリネット。
姉弟三人にお祝いを言ったら、「アイダさん顕現作戦」、始動だ!
「ぺぺ! 待て! もう一度言うからっ」
塔の螺旋階段を駆け降りる俺に、我が師の声が追いすがる。
俺はひとこと、叫んで逃げた。
「あとで!!」
お読み下さりありがとうございます><
中ほどの歴史叙述的な表現も実は好みであるのですが、
アスパのお話は明るく楽しくかるーくがテーマでしたので、
やはりからっと締めようとこんな形になりました。
お話を楽しんで下さってとてもうれしいです。
お忙しい中拝読してくださり、本当に感謝です><
お読み下さりありがとうございます><
鹿が広場に入っただけでヒアちゃん陥落。
最弱アリンが最強だったというオチです^^;
派手な対戦クライマックスのあとのエピローグですので
さくっと解決してしまいました^^;
アイダさんは……もぉだれにも止められませんノωノ*
お読みくださりありがとうございます><
明るく楽しくかるーくをテーマにしたアスパ、いよいよ完結です。
ここまで拝読してくださって本当に感謝です(感涙)
前回のコメント以降の御作品を、数回に分けて拝読しました。
実に素晴らしい、否、素晴らしすぎると感動しています。
中盤からの重厚なテンポが終盤に入り軽やかなテンポになり
誠に見事な筆捌きだと感心しました。
よいとらさんの書評にありましたが、思いもよらぬ展開!
拝読しながら、「アッ!」と小声をたててしまいました。
本当に楽しい物語、ありがとうございます。
m(_ _)m
美しい神獣が一頭、寺院に姿を現しただけで
自動的に、迅速に問題が解決していくというのは
ちょっと思いつきませんでした。
でも、伏線というかベースラインとしてはあったわけで
そうか、そうきたかと頷くのみです^^;
アイダさんの時限爆弾、次回もあるのでしょうか。
や、アイダさん自身が爆弾娘なんでしょうねぇ^^;
次回を楽しみにしています^^
いつも楽しいお話をありがとうございます♪
お題:最近笑ったこと
アイダマジックにはもう笑うしか;
アイダさんとの「会話」は11月更新の「72話水鏡」のお話に出ています。
このオチのために投入した会話シーンでした。(長い伏線w)
アイダさんはこのような時限爆弾をもっと仕込んでいるような気が^^;
アイテ家メニスほんとおそろしい。ぺぺがんばれ。
次回、アイダさん視点で最終話となります。