アスパシオンの弟子終歌3 秘恋歌(前編)
- カテゴリ:自作小説
- 2016/03/23 17:46:29
今回はアイダさんと、ナゾの人物視点のお話です。
ひと目見ればそれと分かりぬ
その子がそうだと魂が気づく
心をば焦がす恋の炎
その身をば焦がす聖なる炎
灰と成り果てしその身こそ、
肺を潰した死に子の寝床
とこしえの波が両の腕
とわに揺れる水の揺り籠
泣いて沈みし眠りの子
名を失いし炎の子
「おねえちゃーん」
銀髪紫眼の小さな子が、草むらの向こうから駆けてきます。
あれはアイテリオンの子フラヴィオス。
羽化不全で十歳で成長が止まってしまった子です。
私は歌うのをやめて、甥っ子に微笑みました。
正確には父方の叔父の娘の息子の子供ですが、ややこしいので甥でよろしいでしょう。同じアイテの一族ですし。
甥っ子のうしろから年配の女性がゆっくり歩いてきます。
あれはマミヤ。ヴィオの母親です。親子の周りにはウサギがたくさん。
なぜならここは、ハッピーモフモフランド。
永世中立国ファイカの廃院に作られた、ウサギの楽園です。
ヴィオはメニスの里の王にして大陸同盟の盟主となったのですが、政まつりごとはメイ家のテリエやハヤトたちに任せて、母親とここで楽しく暮らしております。
でもいずれおいおい、テリエが里に呼んで教育を始めることでしょう。
「今日はよい天気ですねえ」
「そうだねえ」
その子がそうだと魂が気づく
心をば焦がす恋の炎
その身をば焦がす聖なる炎
灰と成り果てしその身こそ、
肺を潰した死に子の寝床
とこしえの波が両の腕
とわに揺れる水の揺り籠
泣いて沈みし眠りの子
名を失いし炎の子
「おねえちゃーん」
銀髪紫眼の小さな子が、草むらの向こうから駆けてきます。
あれはアイテリオンの子フラヴィオス。
羽化不全で十歳で成長が止まってしまった子です。
私は歌うのをやめて、甥っ子に微笑みました。
正確には父方の叔父の娘の息子の子供ですが、ややこしいので甥でよろしいでしょう。同じアイテの一族ですし。
甥っ子のうしろから年配の女性がゆっくり歩いてきます。
あれはマミヤ。ヴィオの母親です。親子の周りにはウサギがたくさん。
なぜならここは、ハッピーモフモフランド。
永世中立国ファイカの廃院に作られた、ウサギの楽園です。
ヴィオはメニスの里の王にして大陸同盟の盟主となったのですが、政まつりごとはメイ家のテリエやハヤトたちに任せて、母親とここで楽しく暮らしております。
でもいずれおいおい、テリエが里に呼んで教育を始めることでしょう。
「今日はよい天気ですねえ」
「そうだねえ」
きれいに晴れ渡った空。
私は廃院のそばに腰を下ろしますと、ヴィオはその前でぴょんぴょん飛んでウサギと遊び始めました。
今日は、アスパシオンのぺぺの命日です。
アリスルーセルの魔人が時の泉に放り込まれた日。今日でちょうど五年になります。
アイテリオンを新次元に放り込めば、泉に凍結されているペペを救えると思ったのですが。
かの人が廃院に施した結界は、なぜか今も強固に侵入者を阻んでいます。
どうも次元の向こうから、あの白の導師は強大な力を送り続けているようなのです。
魔人を三人も一緒につけてやったのは甘すぎたか、とアリスルーセルが苦笑しておりました。
驚いたことにその結界は、大陸規模の力を放つ振動箱でも崩せぬほど。
その力は廃院の時の泉にだけ作用しており、他の場所にある泉には及んでおりません。自ら永久凍結を願ったヒアキントスが放り込まれた、岩窟の寺院にある時の泉。メニスの里の泉。いずれも全く変わりありません。
狙ったように、魔人ぺぺが封じられた場所のみ、恐ろしく異様な力に覆われています。およそ近づけぬ大変重たい波動。
まるで、ぺぺだけは許すまじと、怨念を放っているがごとくです。
そのため私のウサギは、ずっと分析にかかりきり。ひどく忙しくしております。
アイテリオンはこちらへ戻ってくる手がかりを得たのではないか。
時の流れに干渉する力を得たのではないかと、ウサギは懸念しております。
宰相メイテリエも警戒しております。
メニスの里では、ひそかに白の導師を復活させようとする動きが出てきているようです。
私も心配でたまりません。
もしあの人がこの世に戻ってきたら、全力であちらの世界へ追い返すつもりです。けれど、根本的な解決にはならないでしょう。
おそらく我々はこれから、何回か攻防を繰り返すことになるのでしょう。
いつか。
不死のアイテリオンを完全に滅ぼす者がこの世に現れるまで。
かように不安な要素もありますが。
私たちはおおむね幸福です。
私、つい先日アリスルーセル様から変若玉オチダマをいただきましたしね。
うふふ。灰色の導師の神様から玉をいただけるなんて、夢みたい。
私、今度転生しましたらかなり困ったことになるのです。魔力値が高すぎて、ちょっとものを考えただけでこの星を爆発させるぐらいの破壊力になってしまうのですよ。
それはさすがにまずいですよねえ、と脅……いえ、相談しましたら、輪廻できなくなればよい、とルーセル様は仰られまして。
ウサギがびゃあびゃあ泣きましたけど、この星のためですものねえ。仕方ありませんよねえ。ほほほほ。
そんなわけで、現在ウサギは、「私をこの世に顕現させて半永久的に固定する装置」、というものを必死に開発中です。
私、そんな装置がなくても出て来れるんですけどねえ。うふふ。
でもハヤトが泣いてうるさいものですから、私は鳴りを潜めています。
毎晩ウサギが眠っている間に、私はそうっと外にでて、五分間だけウサギを抱きしめます。
だってこわいのですよ。
ウサギはようやく、ようやく私のものになりました。
でもアイテの血をもつ私。四六時中一緒にいると、すぐにたががはずれそうになってしまいます。
言葉をかわしたら。
気づいたら。
また押し倒してる、という可能性百パーセント。
徹底的に自重しないと、7104年の悲劇再び、なんてことになってしまいそう。
ええ、自分のことはよくわかっております。
ですから私は、一日五分の顕現でおのれを律しているのです。
ウサギの様子は、ハヤトの目を通して常時眺めていられます。ですからストレスはたまりません。
ハヤトががんばってウサギを人間に戻さないでいるので、私は大変満足です。
おかげでかわいいウサギを一日中、好きなだけ眺めていられます。
最近はリスも加わって、幸せが二倍。リスもとってもかわいいんですよ。
ああ、とても幸せ!
「おーい。お師匠様、どこー?」
あら。私のウサギが来たようです。急いでハヤトに戻らなくちゃ。
「おねえちゃーん」
「はい? なんですか、ヴィオ」
「またね?」
「ええ、またね。ごきげんよう」
私はニッコリ微笑んで、走り寄ってきたヴィオに手を振りました。
私は廃院のそばに腰を下ろしますと、ヴィオはその前でぴょんぴょん飛んでウサギと遊び始めました。
今日は、アスパシオンのぺぺの命日です。
アリスルーセルの魔人が時の泉に放り込まれた日。今日でちょうど五年になります。
アイテリオンを新次元に放り込めば、泉に凍結されているペペを救えると思ったのですが。
かの人が廃院に施した結界は、なぜか今も強固に侵入者を阻んでいます。
どうも次元の向こうから、あの白の導師は強大な力を送り続けているようなのです。
魔人を三人も一緒につけてやったのは甘すぎたか、とアリスルーセルが苦笑しておりました。
驚いたことにその結界は、大陸規模の力を放つ振動箱でも崩せぬほど。
その力は廃院の時の泉にだけ作用しており、他の場所にある泉には及んでおりません。自ら永久凍結を願ったヒアキントスが放り込まれた、岩窟の寺院にある時の泉。メニスの里の泉。いずれも全く変わりありません。
狙ったように、魔人ぺぺが封じられた場所のみ、恐ろしく異様な力に覆われています。およそ近づけぬ大変重たい波動。
まるで、ぺぺだけは許すまじと、怨念を放っているがごとくです。
そのため私のウサギは、ずっと分析にかかりきり。ひどく忙しくしております。
アイテリオンはこちらへ戻ってくる手がかりを得たのではないか。
時の流れに干渉する力を得たのではないかと、ウサギは懸念しております。
宰相メイテリエも警戒しております。
メニスの里では、ひそかに白の導師を復活させようとする動きが出てきているようです。
私も心配でたまりません。
もしあの人がこの世に戻ってきたら、全力であちらの世界へ追い返すつもりです。けれど、根本的な解決にはならないでしょう。
おそらく我々はこれから、何回か攻防を繰り返すことになるのでしょう。
いつか。
不死のアイテリオンを完全に滅ぼす者がこの世に現れるまで。
かように不安な要素もありますが。
私たちはおおむね幸福です。
私、つい先日アリスルーセル様から変若玉オチダマをいただきましたしね。
うふふ。灰色の導師の神様から玉をいただけるなんて、夢みたい。
私、今度転生しましたらかなり困ったことになるのです。魔力値が高すぎて、ちょっとものを考えただけでこの星を爆発させるぐらいの破壊力になってしまうのですよ。
それはさすがにまずいですよねえ、と脅……いえ、相談しましたら、輪廻できなくなればよい、とルーセル様は仰られまして。
ウサギがびゃあびゃあ泣きましたけど、この星のためですものねえ。仕方ありませんよねえ。ほほほほ。
そんなわけで、現在ウサギは、「私をこの世に顕現させて半永久的に固定する装置」、というものを必死に開発中です。
私、そんな装置がなくても出て来れるんですけどねえ。うふふ。
でもハヤトが泣いてうるさいものですから、私は鳴りを潜めています。
毎晩ウサギが眠っている間に、私はそうっと外にでて、五分間だけウサギを抱きしめます。
だってこわいのですよ。
ウサギはようやく、ようやく私のものになりました。
でもアイテの血をもつ私。四六時中一緒にいると、すぐにたががはずれそうになってしまいます。
言葉をかわしたら。
気づいたら。
また押し倒してる、という可能性百パーセント。
徹底的に自重しないと、7104年の悲劇再び、なんてことになってしまいそう。
ええ、自分のことはよくわかっております。
ですから私は、一日五分の顕現でおのれを律しているのです。
ウサギの様子は、ハヤトの目を通して常時眺めていられます。ですからストレスはたまりません。
ハヤトががんばってウサギを人間に戻さないでいるので、私は大変満足です。
おかげでかわいいウサギを一日中、好きなだけ眺めていられます。
最近はリスも加わって、幸せが二倍。リスもとってもかわいいんですよ。
ああ、とても幸せ!
「おーい。お師匠様、どこー?」
あら。私のウサギが来たようです。急いでハヤトに戻らなくちゃ。
「おねえちゃーん」
「はい? なんですか、ヴィオ」
「またね?」
「ええ、またね。ごきげんよう」
私はニッコリ微笑んで、走り寄ってきたヴィオに手を振りました。

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- 優(まさる)
- 2016/03/23 21:42
- これで良かったのかな?
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