自作3月・竜 ちっさな蛇のお話(後編)
- カテゴリ:自作小説
- 2016/03/26 11:29:10
『あにそ? う、歌なのか?! とてもそうとはっ』
『ノイズが出ますようわざとキーをぐちゃんぐちゃんにして再生しております。けけけの魔太郎、妖精うぉっち、アンドロイド007をアレンジしてみました。あ、私も歌いますね。英国紳士は、カートゥーンが大好きなのです』
それからその剣は歌い出したのです。
わざとものすごく、はずれた声で。
♪きらりとひかーる白刃のぉー
我が身横たえまもりますぅ
♪たとーえ火の中水の中ぁー
あなたのためならおっそれずにぃ
ついーていきます、どぉーこまでぇ・も~
♪あーあーあ・あ・あ~
最強ぉーの、名のもっとにぃぃいい~
♪守護ぉのやいーば捧げますぅ、
えくーぅす・かーりっばぁあ~
剣は、これは「あにそ」の主題歌調で、自分のてぇまそんぐだとかなんとかかんとかいってました。
しかしひどい音です。おかげで森一帯は耳栓なしではいられない状態。
狼に抱かれた女の子を目覚めさせようとしていたようだけど、迷惑このうえありません。
しかも。
その女の子は半日ほどのちに目を開けたので、大団円! となるはずが。
『あら? とまらなくなっちゃいました~』
「剣が繰り出す『あにそ』なるものが、とまらなくなっただと?」
「はい……なんでもその剣は、一万と一千歳を越えている、とてもとても古いものだそうです。『あにそ』というのも、前にいた星で覚えたものだとかなんとか、いってましたです」
「ほほう?」
興味深々のお妃さま。説明するおいらは深いため息。
「古すぎて、いろいろ機能がいかれているようなんです」
叩いても。湖に突っ込んでも。なにをしても。
騒音たっぷりの『あにそ』は止まりませんでした。
赤毛の青年は剣を皮や袋でぐるぐる包んでいろんなものを上にかぶせました。
でも、音波攻撃級の不協和音の音色は、やすやすと防護膜を貫通。
人間たちだけでなく森に住むありとあらゆる生き物が、それからというもの、耳栓生活を余儀なくされてます。
こりゃたまらんと、騎士たちは森から退避してしまったし。
女の子と狼たちも、おいらたち森の住人のほとんども、避難しました。
森に残ったのは、赤毛の青年ぐらい。
『いいかげんにしろぉ!』
『すすすすみません我が主っ。でもどうにもとまらないんですう!』
剣は赤毛の青年にあやまり倒してたけど、折れた刀身からかもしだされる不気味な音はエンドレス。
「二週間経っても一向にとまらないのです。しかも時間がたつにつれておさまるどころか、どんどん音が大きくなって、森の外にまで音が漏れてきたんです。避難してるおいらたちはいよいよ辛抱たまらなくなりまして、長老さまたちが会議をしました。そうして、あの剣を王さまに溶かしていただくようお願いしようということになりましたのです」
「溶かす、とな?」
「赤毛の青年が剣を打ち叩いて黙らせようとしたのですが、そのときあの剣は申したのです」
『むりですう! |大鍛冶師《マエストロ》の手によって鍛えられし我が身を壊せるのは、竜王メルドルークの炎ぐらいですう!』
「ならばわらわに任せるがよろしい」
えっ、と思う間もなく緑の蛇であられるお妃さまは、しゅるるんと王宮の壁をはいのぼり。
「わが夫君、メルドルークの力を借りるまでもないぞよ」
屋根に鎮座する竜王の口にするると入っていかれました。
とたん。
カッととぐろを巻く巨大な竜の目玉が光り。
ずごごごと、蛇のようなその竜が身を起こしました。
ななななんと。たまげました!
緑の鱗の竜はくわっと真っ赤な口を開けて、ふおおおおと咆哮したのです。
『ゲヘナの炎はわらわにも吐ける。ちっさきものよ、竜王メルドルークが妻、この緑虹のガルジューナに任せるがよいわ!』
さあ、わらわの口の中に入れ。
と、緑の巨大竜――いや、蛇はおいらをぱくりと呑み込みました。
一瞬あわてたけれど、口の奥には小部屋があり、そこにある台座の箱に、ちっさな蛇のお妃さまがとぐろを巻いて入っていました。
そこは頭脳の部屋、というらしいです。
王宮の屋根でとぐろを巻いていたのは、お妃さまの「服」なんだそうです。
お妃さまはずん、と地にもぐり、ずんずん地中の穴を進み、あっというまにおいらの故郷、南の森につきました。
やっぱりおそろしい「あにそ」の音は、途切れていませんでした。
『なんとひどい音じゃ!』
お妃さまは唸りながら、おいらの案内できこりの家に這いゆきました。
家の前につくなり、口を開けてぶおうと炎をひと吐き。
『ひえええええ! あち! 熱いですううううっ!』
炎は身を伏せる赤毛の青年のそばにある剣に直撃。
真紅の炎はめらめらと、剣を包みこみました――。
さて、それからどうなったかというと。
ゲヘナの炎に焼かれた剣は完全には溶けませんでした。
でも恐ろしい呪詛のような『あにそ』は止まりました。
どろっと半ば溶けた刀身からぽろっと宝石がはずれたとたん、剣自身の声も止んでしまったのです。
赤毛の青年はその宝石を拾って、まじまじ眺めました。
「これ、剣の心臓なのかな?」
するとおっきな蛇のお妃さまはいかにも、とうなずきました。
『しかしそやつは気絶しておるだけ。いずれまた、意識を取り戻そうぞ。剣にするなり目玉にするなり、それとも砕くなり。好きにするがよいわ』
「エティアのお妃さますごいです! ありがとうございますなのです!」
おいらがお妃さまの口からぽんと飛び出て、目を輝かせてそう言うと。赤毛の青年は驚いて、とたんにそわそわし始めました。
その様子を見たとたん。おっきなお妃さまの口からちっさなお妃さまが飛び出してきて、青年に巻きつきました。
「こらおぬし! その挙動不審はなんじゃ? なにか知っておろう! 吐け!」
ちっさなお妃さまはぎゅうぎゅう縄のように縛りあげて脅しました。
すると青年は、ひいひい言いながら白状したのです。
「い、いえその実は、娘を救うのに陛下にご協力いただきまして……」
「なんじゃとおおお!」
「ひいいいいい!」
ちっさなお妃さまはさらにぎゅうぎゅう青年をしぼりあげて、王さまがどこにいるか聞き出しました。
「あのすっとこどっこいのトウヘンボク! ウサギの塔じゃと?! おのれえ! あの塔ごと焼きつくしてやるわ!」
かくしてちっさなお妃さまは再び『服』の中に入り、おっきなお妃さまとなるや。ものすごい勢いで地中に潜りました。
きっとウサギの塔というところに行ったんでしょう。
王さまと仲直りするのか、それともやりあうのか。
それは長い長い別の話に――なりそうです。
でも、なにはともあれおいらの森はとても平和になりました。
避難した動物たちは、さっそく戻って来ることでしょう。
あ! ほら、もう鳥さんたちが帰ってきましたよ。やっほーう。
みんなー、もう大丈夫ですよー!
ああ、めでたし、めでたし。
―― ちっさな蛇のお話 ・了 ――
ご高覧・コメントありがとうございます><
ウサギの塔、いまごろは……ノωノ*
剣はまた剣として打ち直されるのでしょうか^^;
まじんがーの歌大好きですww
ぶれすとふぁいあ~♪
ご高覧・コメントありがとうございます><
不協和音もだみ声も、も役立つことがあるようです。
この世に不必要なものは……ないのでしょうノωノ
ご高覧・コメントありがとうございます><
王さまはすごい武勇をお持ちです^^
お若いころからウサギ技師とつるんでいるようですw
ご高覧・コメントありがとうございます><
蛇のお妃さまですから、普段からそれはそれはこわいのでしょう^^;
ものすごく焼きもち焼きなのかもしれません。
王さまに合掌です。
剣、これからどうなるのでしょうね^^
ご高覧・コメントありがとうございます><
アニソンメドレーはたぶんこれからも、そして主人が代替わりしても
大活躍する機能でございます。
(ニ十五代目の主人の時に使用されております♪)
ガルジューナさんが押しかけ女房してる件(
王さま五十歳とかいってたので
アスパのラストから三十年ぐらいたっているんでしょうか;
ほんとにウサギの塔、危機ですね。
みんな逃げてーw
ご高覧・コメントありがとうございます><
楽しんで下さって嬉しいです♪
ちっさい蛇、あのお部屋でお洋服を動かします♪
一万一千歳のアニオタ剣、しっかりアーカイブ保持しているとは……。
(ちなみに地球はもう失くなってる設定ですw)
アニソン……未来においては超級の価値がある遺物やもしれませんノωノ
ご高覧・コメントありがとうございます><
剣とかされちゃいましたね^^;
直してくれる御仁といえば……灰色技師のウサギ?
でもあそこはたぶん現在、阿鼻叫喚の地獄絵図になっていると思いますw
音痴を焼き払う必殺技だ!
それにしても折れた剣はどうなるのでしょうね
次回が楽しみです^^
女の子の鉄の眠りを打破したのは、電波ゆんゆんのアニソンでしたか^^
しかも家電・パソコン量販店もびっくりのエンドレス再生^^;
炎を浴びた剣と宝石も心配ですが
ウサギの塔はもっと心配です。
みんな逃げてーww
赤毛の青年の物語、今回も楽しく読みました。
続きを楽しみにしています♪
正しくお伽噺でした^^
何でもありって大好き~♪
連載してる「真紅……」の方が大詰めでおそろしくシビア展開になってるせいやわ……
反動出ました;
これから分裂主人公の懊悩と戦ってきますOrz
剣があにおたなのは十代目の主人のせいです。
万丈空也(ばんじょうくうや)、月基地勤務の遺跡調査員で、彼女は二次(=アニメキャラ)の超あにおたでした。
赤毛の青年は、剣によって二十四代目の主人に認定されています。