Nicotto Town


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自作ドラゴンクエストⅡ~悪霊の神々・170

 珍しくこちらをとがめるような言い方に、ロランはとまどった。
「落ち着いてなんかいないよ。でも、ここで慌てる理由もないだろう?」
「だから、なんでっ」
 泣き出しそうな顔で、ランドはいきなり怒鳴った。
「どうして何も言ってくれないんだよっ。ぼくに何か言うことあるだろう?」
 言われて、ロランは酢でも飲んだ顔つきになった。もしやランドは、自分にザオリクを使ったことへの礼が欲しいのかと思ったのだ。しかし、心優しいランドが、そんな礼のひとつのために怒ったりするだろうか。
 ロランが言葉に困っていると、ルナが間に入った。
「ランド、落ち着きなさいよ。ロランが困ってるわ」
「これが……落ち着いてなんか……げほげほげほっ」
 急に冷たい空気を吸い込んだために喉が渇き、ランドはいきなり咳き込みだした。
「大丈夫か?!」
 ロランが心配して背をさすろうとすると、いやいやをするようにランドは身をよじって拒んだ。
「やめてくれよ……ぼくには、そんなふうに優しくされる資格なんてないんだ」
「何言ってるんだ。資格ってなんのことだ?」
 ロランが問うと、ランドは顔を赤くしてロランを見上げた。
「だって、ぼくはロランの力になれなかったから」
「え……?」
「ロランが怒らなきゃならなかったのは、ぼくのせいだったから」
「ランド……」
 急ぐ旅だったが、ロランはランドと真正面から向き合った。ほっと息をつく。
「それでさっきから、思いつめていたのか……」
 ランドは悔しそうに唇を噛んでうつむいた。うなだれた細いうなじを、わずかな風がなでていく。
「……ずっと責任感じてたんだな。僕が……一度死んでしまったこと」
 ロランが語りかけると、ランドはますます深く顔を伏せた。ロランは苦く笑った。
「正直、目が覚めて起きた、ぐらいにしか感じていないから、殺されたっていう実感はないよ。倒れて戦えなくなったことは、そりゃ悔しいよ。僕なんて前に出て戦うしかとりえがないのに、二人の盾にもなれずに倒れたってことは、最悪の役立たずだもんな」
「そんなこと……」
 ランドが顔を上げると、そうなんだ、とロランは微笑み返した。自分でも、笑えるのが不思議だった。あんなに自分に腹が立っていたのに。
「それに最近じゃ、僕がようやく一匹倒す間に、二人とも魔法でたくさんやっつけちゃうだろ。ますます立場ないなって思ってたよ」
「そんなことない! ロランがいてくれるから、ぼくらは安心して魔法が使えるんだ。あの機械兵と戦って、それがよくわかった」
「――そう、だから」
 ロランはランドの頭に手を載せようとして、思い直した。肩にそっと置く。
「だから、ひとりで全部背負おうとするなよ」
「でも、ぼくがもっとしっかりしていれば、あんなことにならなかったんだ。結果的にぼくがザオリクを使えたからよかったけど、それさえなかったら、ロランは……。ロランがいなくなっちゃったら……ぼくは……ぼくは」
 幼子のように顔がぎゅっとゆがみ、ランドはぽろぽろと涙をこぼした。痛ましさといとおしさに胸を衝かれ、ロランはランドを抱き寄せ、優しく背をたたいた。
「……うん、うん。わかってる。わかってるから……もう泣くな」
「うん……」
 ランドは洟をすすってロランの言葉にうなずいた。ロランは体を放すと、背負っていたロトの剣を鞘ごと外し、涙を手の甲で拭くランドに差し出した。
「ロラン、これ……」
「ランドが持ってるといい。光の剣、壊れちゃっただろう? これから先、はやぶさの剣が通らない敵も出るだろうしな」
「そうだ、ロランのお父さんにもらった剣なのに。ぼくのせいで……」
 キラーマシンの腹部に突き刺さったまま自爆に巻き込まれた光の剣を思い出し、またランドが情けない顔になった。ロランは首を横に振ってみせた。
「気にするなよ。役に立って壊れたなら、それでいいよ。父上だって喜ぶはずさ」
 言って、両手でロトの剣を持ち、ランドへ再度差し出す。ランドは洟をすすりながら、両手で受け取った。
「よかったわね、ランド」
 微笑ましそうにルナが言うと、剣を胸に抱いたランドの顔に、ようやく笑顔が戻った。
「――うん。ありがとう、ロラン」
「ああ」




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