アスパ番外編 ほむらちゃんと私 第3話(前編)
- カテゴリ:自作小説
- 2016/04/14 22:35:01
私が太陽神の幻像を映し出しますと。
蒼い髪の少女は目を見開き、兵士たちは唖然。
いやあ、幻像なんて今時めずらしいですよねえ。見たことない人がほとんどかも。
メニスの王アイテリオンのせいで、便利なものはなんでもかんでも禁止されちゃって、大陸の文化レベルって今や原始レベルなんですもん。
どよどよどよめく者どもを前に、私は幻を神殿前に照射し続けました。
オオミカミノアメテラスは、スメルニアの主神。太陽の権化です。
私が映写しているこの記録は、統一王国時代に催された、スメルニア自治区での太陽神祭の時のもの。
境内に映しだされてた幻像です。
あの祭り、たしか第二十一代目のご主人さまと、見にいったんですよねえ。
とっても面白かったです。
屋台がいっぱい出てまして、ご主人さまは綿アメ食べて金魚すくいしてました。あと、レーザー射的でわんさかと新作ゲームとかコンパクトなゲーム端末をゲットしてましたね。
そういえば文明が頂点を極めていたあの時代。
いかがわしい宗教はみんな鼻で笑われておりました。
スメルニアの太陽信仰も、古くて原始的とか言われて、ずいぶん叩かれてましたよ。社での裁判の仕方が野蛮すぎるとかって。
熱した鉄をご神体の前に持っていけるかどうかで、罪人の罪を判定する因習が儀式として残ってたんですよねえ。
儀式なんで本気じゃない、韻律で手を凍結させてから運ぶんだから、とか、スメルニアの宗教団体が身も蓋もない弁明をしてました。
でもさすがに、いけにえの儀式なんてなかったような……。
『我のもとに捧げられしこのいけにえ、ありがたく受け取ろうぞ』
よしよし。兵士たちも将官も、巫女の少女もざわざわおろおろ、うろたえております。
神様の映像、光量アップ!
メニスに変身版竜王メルドルークの声って、やっぱりすばらしいですね。
威厳があってとってもえらそう。あやつ、本体はちっさなトカゲでしたが、変身術でメニスの
美丈夫に変身できたんですよ。
それがもう、女の子をかどわかすほどの大変な美声の持ち主でした。
この声で語りかけられたら、心はぐらぐら。きっとみなさん、耳を傾けてくれるでしょう――
『みなすばらしきいけにえよのう。しかしそこな少女。そなたはいらぬ』
えっ? と蒼い髪の少女が目を見開きました。
いけにえの骸をちらちら見ながら、私はえっへんと咳払いしました。
少女はまだ十代。しかし折り重なっている者たちはどう見ても四十は越えていそうです。
最後に殺される「巫女」だけは歳若いものを選ぶ、という決まりがあるのでしょう。
『好みでは、ない』
私は竜王の美声できっぱり宣じました。
『できるだけ年取った者がよい。若いおなごはいらぬ』
「な、なにを、申されますっ!」
「た、たたた太陽の御神がとんでもないご神託を!」
「なんということだ!」
今まで日蝕がおこるたび、こうして巫女を捧げてきたのだ、それは揺るぎなき伝統なのだ、と将官がだくだく汗を垂らしてうろたえましたが。
私はひとこと、きつく断じました。
『飽きた』
「なっ……!」
「若いおなごは、飽きたですと?!」
『いままでいったい何人、我がもとに若きおなごが参ったことか。ひとりふたりならいざしらず、両の手にあまるほどとなれば、我の寵を得んと巫女同士が相争うは必至。我は彼女らに悩まされて大変なのじゃ』
「そ、そんな……!」
死して神の花嫁となる。
いけにえの巫女にはおそらくそんな意味があるのだろうと思ったら、図星でした。
蒼い髪の少女は両ひざを折って地につけて、しくしく泣きだしました。
「今までずっと、この日を夢に見てきたというに……!」
すみません。
すみません。
でも神様なんて実は――人の心の中にしか存在しないものですから。
実在するのだったら、私もこんなことはしないで、ほむらさんをなんとか説得して送り出してやるんですけどねえ。
『若いのはとにかくいらぬ。どうしても我がもとへ来たいというのなら、もっと年を食うてからにせよ』
「な、何年、待てばよいのです! 何歳になったら身許に侍ることをお許しいただけるのですか?!」
『まあ、最低八十歳以上であろう。老衰で今にも……というのが我の最も好む贄である。なぜならば永き時によって刻まれし知や徳の年輪は、若さや純粋さとは比べ物にならぬほどの価値があるものじゃ。未熟な魂など、天界では――』
――『いやまさに。まさにそうだよなあ』
え。
し、神殿の奥から声が?!
『俺様、ほんと困ってたのよ。おじさんたちの魂もいっぱいいすぎて統制しきれないぐらいだし。若い奥さんばっかり増えても、争いの種になるだけなんだよな』
神殿の奥からくつくつと笑い声が聞こえます。
物質から発声される音波ではありません。
これは、精神波――!
な、な、な、何者? いや、若い奥さんばっかりって。ま、まさか。まさかそんな……!
か、か、か、神様なんて。い、い、い、いな……
『そこな幻よ、大義であった。俺の言いたいこといってくれてありがとうな。いやあ、三番目と五番目と十二番目の奥さんがほんっとうざくて。若い女子はもういらんって言いに出て行こうと思ったら、我がしもべが代わりにいってくれてたなんてなぁ。やれ助かった』
ちょっと、私しもべじゃないです。手下認定しないでほしいんですけど。
今見ていた幻が神のしもべと聞いて、スメルニア兵たちはざわざわ。少女は唖然。
どんっと凄まじい神気が神殿の中から吹き荒れてきました。
神殿から出てきたのは、全身が燦然と輝く青年。
なんと彼は、私が出した幻を右手のひとふりで打ち消しました。
さらに、ほむらさんが必死に出していた、炎の結界もひと薙ぎで鎮火。
な、なんという神力!
『ああっ! そんな……』
『安心しろ、そこなほむらの剣。この少女は俺のものだが、今はまだ天界へは迎えぬ。時がくるまで、おぬしに我が嫁の護衛役を任じようぞ』
『ほ、ほんとに! ほんとにあたしを? ご主人さまの守護剣に?』
『うむ。おまえはなかなか強そうだからな。そこの幻を出していたわがしもべといっしょに、我が未来の妻を守れ』
ち、ちょっと私、神様を主人とするような仕様ではありません。勝手に手下のように扱わないでくださいよ。
しかしましろにきらめく青年は私をガン無視して、すうと蒼い髪の少女に近づき。彼女の形よいあごを神々しい手でくいと持ち上げ、その額に……口づけを落としたのでした。
まるで、いとしい恋人にするように。
『天界へ来るのは最低八十歳すぎたらだな。できれば百とか百五十とか、年取りまくってから来てくれた方が、本当にありがたい。なんもしらん小娘なんぞ、まじでろくな話し相手にならんのだ』
「百、さい……」
嘆くことはありませんよ、お嬢さん。
いやいや、そんなぼろぼろ涙をこぼさなくとも、百年なんてあっという――
『泣くな乙女よ。おぬしは我の婚約者。我は時々ここにおりて、会いに来てやろうぞ。なればさびしくあるまい? 我々は恋人同士、というわけだ』
おっと。なんだか気遣いありますよこの神様。
蒼い髪の少女は震えながら、額に手をやりました。
そこにはくっきり、小さなやけどのあとが残っておりました。
神に見初められたという、婚約の証が。
『ああ、証をここにもつけてよいか?』
光り輝く青年は、ゆっくりとおのが唇を近づけました。
顔を真っ赤にして今にも卒倒しそうな、蒼い髪の少女に――。

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- 優(まさる)
- 2016/04/14 23:12
- 良いのか悪いのか解らないですね。
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