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自作ドラゴンクエストⅡ~悪霊の神々・172

【魔群侵攻】

 地鳴りが聞こえたのは、未明のことだった。ロランははっとして目を覚ました。風が強い。吹雪になっている。
「二人とも、起きろ!」
 たき火はわずかな炎を炭化した枝に残していた。土を被せて完全に消し、ロランは素早く毛布を剥がして丸める。寒さにさらされて、眠っていたランドとルナが不服げにうめいた。
「寒いよう……」
「どうしたのよ……?」
「敵だ!」
 ロランは稲妻の剣を手にすると、洞穴の入り口から用心深く顔を出した。びょう、と風雪が顔をたたく。ロランは薄明の森の奥へ目を凝らした。
 夜明け前の闇に、敵の姿はない。だが、どろどろという不気味な音が遠くから聞こえてくる。
「足音……?」
 ロランの隣で耳を澄ませたルナの横顔が緊張に強張る。
「すごい数だわ。私達を探しているのかしら」
「もしかしたら、もう見つかっているのかもしれない」
 ロランは歯噛みした。
「世界樹の島と同じだ。向こうには、こちらの行動が見えているんだ。そうじゃなきゃ、こんなに都合よく襲ってくるはずがない」
「本気で潰しに来たのね……。それならいっそ、私達が旅をしている時にけしかけてくればよかったのよ」
 冷たい微笑を浮かべてルナが言うと、のびのびとしたあくびが聞こえた。二人が振り向くと、ランドが伸びをしている。目が合うと、きょとんとした。だがすぐに、近づいてくる地鳴りに眉を寄せる。
「これは……」
 ロランとルナがうなずいてみせる。ランドは真剣な顔で言った。
「……何の音?」
「――遅いッ!」
 思わず二人で叫んでいた。


 3人は森を早足で移動していた。森の中は方角がつかめないので、来た所を戻り、雪原へ出るつもりだった。
 雪原は左右を険しい山脈に挟まれているので、おのずと行く先が限られる。目指すハーゴンの神殿がどこにあるかはわからないが、道なりに行けばたどり着ける予感があった。
 魔物の数は千を超えるだろう。それを相手にしてはこちらが力尽きる。なんとしても戦線を突破して神殿へ行かなければならなかった。
 夜が明けてきて、森がやわらかな白い光を帯びてきた。吹雪は一向にやまず、すねまでもぐる深い雪に、3人の足も鈍ってくる。
「きゃっ!」
 雪だまりに足を取られ、ルナが前のめりに倒れかかった。傍にいたランドが、とっさに腕をつかんで支える。
「大丈夫?」
「ええ、ありがとう。これのおかげで意外と寒くないんだけど、息が上がってきて……」
 ルナのまとうケープ状の水の羽衣は、凍てつく寒さの中でも流れる水のように柔らかさを保っていた。炎熱を遮断するだけでなく、ある程度の保温効果もあるらしい。
「歩きにくいからね」
 ランドは頬を濡らす雪を手袋をしたままの右手で拭った。ルナがランドの頭を見て苦笑する。
「あなたの髪の毛、雪がびっしり。頭だけ雪だるまになっちゃうんじゃない?」
「本当だ。凍るぞ」
 ロランはランドの頭を払ってやった。髪にこびりついた雪は、早くも氷になりかけている。と、背後にざわりと違和感を感じた。素早く振り向く。
 いつの間に接近したのだろう、青白く燃える炎の魔物が数匹、左右に踊り跳ねながら迫っていた。
 炎が人の形を取ったような姿はフレイムと同じだ。炎魔フレイムと対を成す、氷魔ブリザードである。
 ルカナン、ルカナンと甲高い声がにっかり笑ったうつろな口から発せられた。ロラン達の全身が暗い青光に包まれる。
「いけない!」
 守備力を下げられ、ランドはすぐに防御上昇の呪文スクルトを唱えにかかった。そこへ、ずん、と地響きが鳴る。近くの木々の枝から、積もった雪が一斉に落ちた。
「巨人?!」
 とっさに見上げたルナが身をすくませた。針葉樹の梢に、一本角を生やした一つ目の顔が笑っている。耳はとがり、鼻はなく、残忍に笑った目と耳まで裂けた口は、子どもが怖がる鬼そのものだ。
 岩のような巨躯に荒々しい毛皮をまとった巨人――サイクロプスは、3人を見つけるとうれしそうに吠えた。歩くのに邪魔な木を、左右の手で押しのける。めきめきと音を立て、大木はたやすく胴から折れた。
 ランドが守備力を上昇させる呪文スクルトを唱えた。だが、その脇から次々とブリザードがルカナンを合唱し効果を打ち消す。
 サイクロプスが両手を組んでロラン達へ落とした。巨岩のごとき拳が目の前に迫り、3人はそれぞれに跳んでかわす。どうっと雪がえぐれて間欠泉のように高く舞い上がり、振動で近くの木々が枝の雪を落とした。雪煙がもうもうと立ちのぼり、ますます視界が悪くなる。
「森から出るぞ!」
 ロランは叫んだ。ここにいては、伏兵から襲われかねない。魔物の群れとの全面対決になってしまうが、見通しの利く平原へ出た方がましだと思った。
 キイッ、と猿の鳴き声がした。先兵であるシルバーデビルの群れが、枝を器用に渡って襲いかかってきた。
 数匹がロランへ爪で裂こうと跳びかかる。ロランは稲妻の剣を振りかざした。刀身を走る青白い電光が天へ昇り、直後、雷鳴とともに稲妻がシルバーデビル達へ降り注ぐ。
 ギィッ!と魔物達は電撃に弾かれて悲鳴を上げた。その脇へ、吹雪にまぎれて突進してきたバーサーカーが手斧を振り下ろした。即座に振り向くとロトの盾で受けとめ、返す剣で一太刀に葬る。
 ブリザードの群れが一斉にザラキを合唱した。ランドも使う即死の呪文だ。見えない死の手がロラン達の心臓の上をなでた――それも数秒、死の手は心臓をつかまず通り過ぎる。息を止めて死の恐怖に耐えていたロラン達は、思わず肩の力を緩めた。この魔法は気まぐれで、運が悪いとかかってしまうが、偶然にも効果が出ないことがある。今は運が味方してくれたらしい。
「ベギラマ!」
 ランドがブリザードの群れへ火炎魔法を放った。あたりが橙色の炎に明るく照らされ、風泣きのような悲鳴とともに氷魔達が消え去っていく。
 おおんと巨人が吠えた。片脚を上げ、子どもが虫を踏みつぶそうとするようにロラン達へ足を下ろす。呪文を詠唱していたランドが気づくも、魔法の精神集中直後はすぐに動けない。ロランが走り、ランドを突き飛ばした。暗い影がロランを襲う。
「ああっ!!」
 ぼきりと嫌な音がした。脳天まで響く激痛にロランは絶叫した。左脚を巨人に踏まれ、地面に挟まれてしまう。
「ロラン!」
 ランドは巨人の足の下敷きになったロランを見て真っ青になった。はやぶさの剣に手をかけて思いとどまり、背負ったロトの剣を抜き放つ。
「このおお!」
 ランドはロトの剣を両手に構えると、サイクロプスの足首へ突進した。力任せに振り下ろし、腱を断ち切ろうとする。分厚い皮を切る手応えがあり、腱まで届かなかったものの巨人は痛みに足を上げた。
「ベホイミ!」
 雪に埋もれて倒れ伏したロランへ、ルナが回復呪文を放った。一瞬で骨折が癒え、ロランは瞬時に立ち上がると、ランドの傷つけた足首へ斬りかかる。電光をまとう剣が傷口をさらに深く切り裂くと、傷の焦げる強い臭いとサイクロプスの苦鳴が上がった。
 立っていられなくなったサイクロプスは、よろめいて木々を押し倒しながら尻餅をつく。倒れた木々にシルバーデビルやバーサーカー達が巻き添えを食って押し潰される。




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