Nicotto Town



自作5月 晴れ・夢 「ありがとう」(後編)




「ネコメくん、乗ってるね」

「実はこの韻鉄を加工できるのがうれしくて」

 ネコメさんは満面の笑みで、せまい額の汗をぬぐった。

「永年恋焦がれていた恋人に、やっと告白できたような気分で……爽快です」
「そりゃまたずいぶん、入れこんでたんだなぁ」
「ひとめぼれ、でしたからね」

 わ。なんでだろう。ふしぎ。
 どうしてわたし、ほっぺた赤くしてるんだろう。
 鍛冶場が暑いせい……かな?

「師匠にも感謝してます。この韻鉄ほんと、高かったですからね」
「いやいやぁ、気にするなってえ」
「ありがとうございます」

 あ……

『ありがとう』

 いい顔。
 いいことば。
 ほっこり、あったかい……。




「カーリンお手伝いありがとね。お皿ぴかぴかだ」 

 その日のお昼ごはんのあと。わたしは塔の厨房にいるパパを手伝った。
 きれいに洗ったお皿を布で拭きながら、そうっとお願いしてみる。 

「あのねパパ。パパみたいに、おいしいもの作ってみたいの。あのね、お菓子みたいなのとか……」
「ほうほう。じゃあ簡単なお菓子、一緒に作ってみる? ドーナツがいいかな? 蒸しケーキ? いやいや。初心者には、マシュマロがいいかな」

 マシュマロ。
 塔に来た日に食べたのは、すごくおいしかった。
 ニンジン入ってるとは思えないぐらい、甘くてふわっ。

「それつくる! マシュマロつくるー!」
「よし、じゃあ卵もってきて」
「はーい」

 ゼラチンっていうのをお水でふやかして。
 卵の白身をお砂糖入れてひたすらかきまぜて。
 メレンゲっていうのをいっぱいいっぱいつくったら、あまーいイチゴのシロップと、ゼラチンをいれて……

「腕つかれたー」
「混ぜ混ぜがんばったなぁ。すごいぞ。さて、これを型に流しいれて、冷やせば……」

 わぁ。固まった。
 わたしはほのかに桃色のマシュマロを小さく切りわけて、練乳の粉をふりかけた。こうしたら、ひっつかないんだって。
 わたしがひとりでその作業をしてる間に、隣のパパは、余った卵の黄身と生クリームと牛乳でプリンをつくってた。
 牛乳で煮出されたバニラの香りが、もうたまらなくおいしそう。

「このプリンは夕飯のデザートに出そうかな。おお。マシュマロ、できたねえ」
「味、どう?」

 パパの口にひとついれてあげると、パパはたちまち、にっこりしてくれた。

「おおっ。おいしいよ! イチゴに練乳ってやっぱりいいね」
「ほんと? パパ、あのね、あのね、ありがとう!」

 わたしはもうひとつパパの口にマシュマロを入れると、大きなお皿にマシュマロをこんもりのせて、厨房から飛びだした。

「イチゴ味なの。たべてー」

 塔の中と外を走り回ってお菓子を配ってまわる。
 友達になってくれた赤毛の女の子たちに。
 塔を修理してくれてる騎士のおじさんたちに。
 塔をぐるっとかこんで守ってくれてるママとオオカミさんたちに。

「うほ」「うま!」「ふわふわだねー」「がうがう」
「ほんと? ありがとうー!」

 ウサギさんにも、食べてもらった。

「ニンジンじゃないけどうまいな!」
「ほんと? わあ、ありがとう!」

 それから。
 勇気を振り絞って、鍛冶場にいる人にも――

「おや? それは?」

 ネコメさんがにっこりしてくれる。
 ボボッと顔を赤くしたわたしは、のこりひとつになったマシュマロのお皿を両手でバッと差し出した。

「ど、どうぞっ」
「ありがとう」
「いえ! とんでもないですっ! ありがとうございますっ」
「いやいや、そんなに深くお辞儀してくれなくても。この修理作業は仕事なんだし」
「いえっ! うれしいです! ありがとうございます!」
「お。イチゴ味なんだね。おいしいな」 

 ネコメさんが笑ってくれた。
 きれいな金色の目がきらきら輝いてる。
 とても澄んでて、吸いこまれそう。
 ああでも、マシュマロひとつだけじゃ、お礼にはぜんぜんたりないよ……。
 もっともっと、作らなくちゃ。
 明日も。あさっても。


『ありがとう』

 もっともっと。みんなに言いたい。
 ここにはいない人にも。
 ほんとうのパパとママや、王様や、お妃様にも。


 みんな。みんな。

 
 ありがとう。


――ありがとう・了――

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2016/06/12 14:55
かいじん

ご高覧・コメントありがとうございます><
ありがとう、といわれたときの嬉しい気持ち。
ありがとう、というときの暖かい気持ち。
気持ちのやりとり、大事ですよね。
素敵な言葉でみんな幸せに♪

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2016/06/12 14:53
スイーツマンさま

ご高覧・コメントありがとうございます><
オムニバス的に一話ごと視点を変えたりしてきましたこのシリーズ、
おっしゃるとおりの第一章終了であると思います^^
ラノベ形態にするには、主人公一人称視点および主人公ノスキル描写を充実させたうえで、
叙述的にすすめていくのがいいのかなと思いますが、
この視点変更型で物語を多角的に構築する方法は、かなり気に入っています。
再生された剣の顛末、黒猫家との戦い、そして王位継承。
誰の視点で描写しようかと考えるのはとても面白いです。
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2016/06/12 14:45
simonさま

ご高覧・コメントありがとうございます><
カーリンが両親にかけられた言葉は、彼女だけでなくみんなに幸せを少しずつ分け与えたようです^^
これから大きな幸せがくるのかどうか……
ネコメさんは「アタゴオル」というマンガに出てくる猫人ぽいのをイメージしました。
意外に太鼓腹?
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2016/06/12 14:40
ミコさま

ご高覧・コメントありがとうございます><
やっと王様のお隣にこれました。
剣は直され、本領発揮となるのでしょうか。
お話的にはこれからいよいよ、黒猫家と対決となるのだろうなと思います^^
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2016/06/12 14:37
紅ノ蘭さま

ご高覧・コメントありがとうございます><
はい、前回のお話とは対照的な、晴ればれしい雰囲気にしました^^
対比を感じていただけてとても嬉しいです。
桜姫も韻鉄ちゃんも、精霊なのですが、愛され方でかくも性質が変わるという……
精霊同士の戦いはどうなるのでしょうか。
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2016/06/12 14:34
よいとらさま

ご高覧・コメントありがとうございます><
某ファンタジー系のお話でアーサー王のあの剣が韻鉄から作られてる、というくだりが……(ぇ
なので赤猫の刀身にはもうこれしかないと^^
ウサギになんと弟子……ネコメさんはアタゴオルのヒデヨシさんみたいな猫人をイメージしました。
女の子なのでかわいらしくピンク色にしたくて、それから五月なのでイチゴ味に~^^
王宮のお隣にやってきた赤毛の青年、これから王様と会う機会が多くなるのかもしれません。
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2016/06/12 14:30
Kobitoさま

ご高覧・コメントありがとうございます><
手作りお菓子、だれかと一緒に味わえたら本当にすてきですよね^^
形になった幸せ^^♪
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2016/06/12 14:27
カズマサさま

ご高覧・コメントありがとうございます><
剣はネコメさんに直されて、いよいよ黒猫家と対決とあいなるのでしょうか。
とりあえずお隣は王宮なので、王家というたのもしい味方ができた……のかもしれません。
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2016/06/02 21:17
人から感謝されるのはとても気持ちいいですよね^^
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2016/06/02 07:10
皆で協力して「障壁(繭)」を破って女の子を助ける
料理人青年が狼女王と掛け合いができそうな凹凸夫婦となり、無限の可能性を秘めた公女を養女とする。協力者である龍型巨大ロボットを操る女王様がいる王国。その女王様の負けん気に恐れをなして家出する王様。家出先のハイテク・ミナレット。――面白い展開でした、第一章の終結というところでしょうか。また、折れた剣がどのように再生するのか楽しみがまた増えます。

御寄稿有難うございます。旅行中での自動更新だっため宣伝が遅れましたがそれなりに好評のようです^^
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2016/06/01 22:16
ありがとうという言葉は晴れ間の輝きみたいな響きです^^

金色の瞳のネコメさん
読んでいて私もほこっと温かい気持ちになりました^^
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2016/06/01 20:03
一連のハラハラする展開がケーキ作りで大団円?
いえいえ
これからまた長い道のりの物語が…
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2016/06/01 19:41
前回が殻の外からの話で今回は内から。お題の「晴れ」に引っ掛けて絶妙なできでした。それにしても女の子が無事でよかったです
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2016/05/29 11:12
おはようございます♪

塔の修理の現物支給として送り込まれた赤毛の青年一家。
剣は修理に出され・・・なんという巡り会い。
刀身を短くしたときのカケラ、すごく欲しいです。
・・・や、もらっちゃだめだ。
打ち直して女の子のお守りアクセにするのが良さそうですね^^

初心者にはマシュマロ、激しく同意です。
少ない材料で作れて、分量、温度、かき混ぜと基本が詰まっていますよね^^
レモンじゃなくてイチゴ味ってのが意外でした♪
おいしそう^^

生活の拠点がウサギの塔になった赤毛の青年、
この先どんなお話が待っているのでしょう。

いつも楽しいお話をありがとうございます♪
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2016/05/26 20:58
お菓子作りって一人で作っても楽しいけど、家族や友だちと一緒に作るとなおさら楽しいんですよねぇ。
しかも完成した品を食べて、みんなで幸せになれるという特典付き。^^
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2016/05/26 20:00
良い所に住めて良かったですが、これからの展開はどうなるのですかね。




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