自作6月 エクス・カリブルヌス三世(後編)
- カテゴリ:自作小説
- 2016/06/30 08:40:27
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「大丈夫ぅ?」
「あんまり、大丈夫じゃないです……」
食堂のテーブルに突っ伏す俺の頭を、タラコ口のウサギがぐりぐりしてくる。
「それで赤猫の記憶は、どこまで見たわけ?」
「剣に、入るまで」
「おぶ。じゃあマジで鼻血がたれる経験を……」
黙れデリカシーゼロ・ウサギ。
「まあなんだな、このニンジンスコーンうまいな」
ウサギは俺の向かいにぽてんと座って、口いっぱいに朝ご飯をほうばった。
料理人たるもの、朝一番に起きてみんなのご飯を作ることは決して怠けられない。
目覚ましならぬ睡眠ジュースでまだ眠気がひどいが、俺はなんとか己の朝の仕事をこなしたところだ。
「えっとなぁ、ここの赤毛の妖精たちって、ひとりの女の人から造られてるってのは話したっけ?」
「はい、なんだか前にうっすらと」
「あの子らを作ったのは、俺の初めての弟子なんだ。命のもとをくれたその女の人をさ、弟子は大好きだったわけだよ。でもさ、失恋しちゃったのね。それで分身が欲しかったんだろうなぁ。でさ……ずうっと妖精たちに囲まれて独り身でいたんだけど。ついに見つけたのが、あの赤猫ってわけ」
赤毛の妖精たちの母親。その人への思いがかなわずにいたマエストロが……
赤毛の赤猫をひと目で見初めた?
「うん。ひと目で、だね。あの弟子はわりとスレてて、その手のお店に通っては研究材料を調達してた。ああいうお店って、闇市から実にいろんなものを買って商品にしちゃうらしくて。発掘の穴場だって言ってたよ……。しかしまさか何の変哲も無いふつーの女の子を、買い取ってきちゃうとはねえ」
まだほんの十代後半ぐらいの少年なのに? といぶかしんだら、当時あの姿で百八十歳ぐらいだったわ、とさらりと言われた。
マエストロは灰色の技師の技術で延命処置をしていたらしい。
このウサギもだいぶ年をとっていそうだ。先日もなにげに一世紀前って言ってたもんな。
一体いくつなんだろうか。
しかし夢をかんがみるに。今も、俺が持ってる剣の中には、もともとの剣精霊の他にエクステルという子が混在しているんだろう。
「でも剣の中に魂を封じ込めるなんて、ちょっと残酷では? 転生できなくなるでしょうに」
ウサギはニンジンスコーンをごきゅりと飲み込んで、うーんと唸った。
「あの弟子には、人道的な倫理観なんてなかったからなぁ。俺もちょっとひどいと思って詰め寄ったんだけどね。剣に女の子の魂を入れちゃったあとさ、あいつ珍しく、我をむき出しにして叫んだんだよね……」
『おまえ……自分のしたこと、わかって――』
『わかってるよ!!』
「もうぼろぼろ泣きながらさ。あいつ俺に怒鳴ったよ」
『でも、失いたくなかったんだ! 僕を慕ってくれる魂を!!』
「ほんとびっくりしたわ……」
『ひと目見て、この子だって解ったんだ。僕のもの。僕のかたわれ。唯一人の子……! 僕のこと、忘れさせたくない! 輪廻なんか、絶対させるもんか!!』
ウサギは腕組みをして天井を仰いだ。
「俺が思うに。あの二人、前世でなんか因縁あったんじゃないかなぁ。ひと目見て分かるってことは、そういうことだろ? 今生で初めて出会ったってわけじゃなさそうだわ」
そうなんだろうか。
とても気になるが、その部分は生まれ変わったときにすっかり記憶からなくなっているだろうから、知りようがない……。
その後金髪のマエストロは、塔の外で灰色の技術を危険視する勢力につかまり。岩窟の寺院に封じられ、そこから出られずに亡くなったそうだ。
だがその魂は寺院の中に今もまだ、とある形で残っているという。
「あいつは絶対死なないだろうなぁ。いつか寺院から出てきて世界征服でもするんじゃない?」
「えっ?! 世界征服?」
「いやあ、そのぐらいすごい技師だったのよ。大陸同盟にたてついてメキドを長らく支配してたのも、英雄たちを使ってエティアを建国したのも、あいつだもん。だから敵が多くて、塔に隠れ住んでたんだよ」
「そ、そうなんですか……」
そんな人の師匠って。俺の雇い主であるこのタラコ口のウサギ、一体何者?
今の奥さんが普段ここにいないっていうのも気になるし。
「で。なんで赤猫の剣が騎士団営舎に? ずっとこの塔にあったんでしょう?」
「え、えーとね。たしか一回外に持ち出したとき、アクシデントで行方不明になっちゃってさ……」
なんだかいろいろ事情がありそうだ。
「探しても見つかんないから、あきらめてたっていうか。どこいったかなーとは、思ってたんだけどねえ。いやあ、見つかってよかったよかったー」
その日の一日の仕事をいつものように、晩御飯の皿洗いで済ませた俺は。寝室に入るなり、盛大で荘厳なる音楽に歓迎された。
こ、これは……
『きらりとひかーる白刃の~♪ わが身横たえ仕えますぅ~♪』
「あにそ風主題歌」!?
『我が主ぃ! おはようございますう!! 今日もすっばらしい天気ですねえええ!』
……いや、今は夜だよ。 外は真っ暗な宵空だよ。
『なんか私、ひどくかっこよくなってるんですけどぉ、だれが治してくださったんですか?』
「ネコメさんが……」
『だれですかそれ、私の記憶にありませーん。でもすばらしい! すばらしい! ぶらぼぉ! ごーじゃす! わんだふる!』
寝台に置いてる剣がひどくはしゃいでいる。どうやら、意識が覚醒したようだ。
明らかにいつもの調子で元気満々。
でもこれ……どうみても、あの可憐な赤猫じゃないよな。全っ然性格違う。
きっと、もともとの剣精霊の方の意識なんだろう。
それが出てきたということは、赤猫はしばらくはもう、出てこないってことだろうか。
『ああん、そんなに見つめないでくださいよ我が主。恥ずかしいじゃないですか? さっそく仕事したい気分ですよ。どこかにわるーい敵でもいないですか? 必殺斬りでかるーくふっ飛ばしたいぐらい、気分爽快ですよぉお♪ ああなんて、すばらしい刀身! 銀色に輝いててきれいですねえええ』
「ね、ネコメさんが隕鉄で作ってくれたんだよ」
『っほおおおお! なんと! それは切れ味抜群でしょう。そうでしょう!』
これ……どうやったら、あのかわいい赤猫モードになるんだろう。
あの子ちょっと性格暗いけど、今のこれよりも断然いいよ絶対。
切り替えスイッチないかな。いや、ないか。
まじまじと剣をのぞきこんでみれば。
柄に嵌る赤鋼玉には、剣の名前と一緒に赤鋼玉を造った人の打銘がしっかり刻まれていた。
『Ex Caliburnus nova hebes Version Tribus』
『創砥式 七三零五』
俺はウサギがしみじみつぶやいた言葉をふと思い出した。
いつかその言葉が実現したらいいのにと、思いながら。
『いつの日か。ソートくんは赤猫ちゃんと再会するような気がするなぁ』
――創砥式7305・了――
ご高覧ありがとうございます><
宝石に入っている二つの魂。そのギャップが^^;
たぶんこれからもたまに、エクスの片鱗が出てくるのかなと思います。
それでおばちゃん代理の料理の腕がますますあがる……のかもしれません^^
ご高覧ありがとうございます><
ソートくん、手先は器用だけど感情表現は不器用……。
好き放題しちゃって容赦ないですよね。
でもおっしゃるように両想いなので……>ω<
ご高覧ありがとうございます><
ソートくんはかなり一途なのだろうなと思います。
世界を動かすマエストロ、その強引さはここにも。
ご高覧ありがとうございます><
遊郭の中にある秘密の部屋……
人間の暗黒面というか恐ろしい一面を書いてみました;ω;
ソートくんの愛、美しさがあるという評をいただけてとてもうれしいです。
アドバイスありがとうございます><
新しい夫人探し、始めます^^
いよいよ週末、宮城ですね。
どうか道中お気をつけて、お越しくださいませ><!
ご高覧ありがとうございます><
これはソートくんならではの結論ですね。
倫理観など微塵もない、マッドサイエンティスト。
容赦ありません;ω;
およみくださりありがとうございます><
ウサギは自分の経験から前世説をだしてきましたが、
なんだか本当に過去からの因縁がありそうです。
>期待していいですか。
おばちゃん代理の物語の最後に、たぶん剣は……あそこに……。
そこまで書けるといいなぁと思います^^
お読みくださり、ありがとうございます。
剣精霊は相当長い時間の情報を蓄積しているようですね。
地球いたときの記憶も、まだ残っているんだと思います^^
5年だと、そろそろご寿命かなと…
うちは、3年でもメイン機のパソ子第5夫人は絶好調で動いてくれています。
たぶん…気が付かないだけかもしれないけど
うちは、基本文章だけ絵も入れますけど、それでも1ファイル10ページぐらいにして
後から合体させる方式にで対応していますけどね
サプ機のパソ子f第6婦人は、タブで頭がよくない分一抹の不安を感じていますが
アンインストールできないものが多いので。
素敵な相方さんが見つかるいいですね
ストーカーチックで危ない恋だニャア
いや
両想いの合意
深いですね
エルリックサーガに似た
病的な危なさのなかに
儚げでいて強靭な愛を感じました
身売りで遊郭行きかと想像しましたが、さらにショックな展開。
でも、純愛の美しさもありで、良かったです。
>でもなぜか復旧?して……もう少しもっておくれ~と、戦々恐々で使っております。
HDDなんぞだと、
ヤバいかなと思ったら復活しての繰り返しで
もう少しと先延ばししている間に、
昇天されて、データサルベージで7万円支払うことになりました。
だから、早い目に交換、または買い替えを検討されたらいいですよ。
Win10…8を使っていれば違和感なく使えますが。7を使っているなら
7パソとタブレットの併用機だと考えれば問題ないと思います。
タッチスクリーン便利です。
携帯小説は、「おきらく社労士の事件簿」をリメイクして、毎日400字から800字で投稿しようかと計画中です。
原作は「」の中を検索して、シーズン1の1話、2話。最後の話ぐらいでいいかな
支持政党は…選びようのない状況はいかんともしがたい(;´・ω・)
牛タンは16日のお昼かな…
15日は、朝9時半には仙台駅のホームに着いているはずなんで、
ホテルに荷物を預けて、その足で一ノ関の中尊寺を目指します。
仙台移動中はニコお休み状態かも(スマホ投稿だと写真貼り付けられないから)
ソートくんと赤猫さんの物語、気になっていた
部分だったのでこうして外伝として語られて喜んでおります^^
ひと目でわかる、魂が気づくほどの前世での深い縁。
「再会するような気がするなぁ」
き、期待してもいいですか^^
夏至の恋人の物語、楽しく読みました。
いつもありがとうございます♪
Ex Caliburnus nova hebes Version Tribus
(鋼の神)(新しい)(なまくらな)(三代目)
「hebesなまくら」をしっかり刻んでいるところが、マッドなマエストロらしいところ;
おそらくオリジナルである聖剣エクスカリバーの蓄積情報を
全部読んでつけたのでしょう。
聖剣は地球からこの星に運ばれてきた際にとある女神から
「なまくら」と命名されているからです。
マエストロはオリジナルを作り直したカリブルヌス二世をスイールに渡していたのですが、
これが本文中にあるように7305年に頭脳を破壊されて戻ってきました。
予備の複製頭脳に赤猫を入れて完成したのが今回の三世、
すなわちおばちゃん代理が持っている剣です。
赤猫が入れられた赤鋼玉は、オリジナルのエクスカリバーの頭脳の複製品です。
オリジナルの一万一千年にわたる蓄積情報(地球のAD500年ごろ~)を
完全に引き継いでいます。