Nicotto Town


ま、お茶でもどうぞ


自作ドラゴンクエストⅡ~悪霊の神々・196

「だめよ、こんな奴の言うこと聞いちゃ……」
 逃れようともがきながら、息も絶え絶えにルナが言った。ロランはランドの手首をつかんだまま、無言でベリアルをにらんだ。
「貴様が王子を引き上げると同時に、王女の首を折る。だが、その手を放せば、首を折るのはやめてやろう。どうするかね?」
「……」
 ベリアルを見るロランの目が、ますます冷たくなった。
「それもお前達悪魔の常套手段だな。バズズも同じ様なことをした」
「常套にして最善。そして、人間の苦しみを見ることが喜びよ」
「……ロラン」
 宙づりになったランドが、ロランを見上げた。ロランはランドの唇の動きに、苦渋を浮かべた。
 びょうと風が吹いた。横殴りの雪が紗幕となって、一瞬互いを隠す。
「ルナを離せ」
 ベリアルを見つめたまま、ロランはランドをつかんでいた手を放した。力尽きたのか、ランドの手があっさりと縁から離れる。ルナは目を見開き、声も出なかった。ベリアルは胸を反らせて笑った。
「はーはっはっは! 友情より女を取ったか。気高い勇者の子孫も、下劣な感情に負けたものだな」
 ベリアルは乱暴にルナを床に放り出すと、風が吹き荒れる橋に踏みこんだ。稲妻の剣を手に、ロランは立ち上がった。
「――わかってない」
「――何?」
 仲間を失ったというのに、ロランは微笑んでいた。ベリアルは動揺し、足を止めた。
「――僕達がどれだけお互いを信じているか。――お前には一生わからない」
 ベリアルは見た。ロランの左手側から、青い翼を広げて少年が舞い上がるのを。風のマントを身に着けたランドが、荒れる風を捉えてこちらへ滑空してくる。はやぶさの剣を抜き放って――。
(そうか、あの時!)
 雪の紗幕が視界を遮った時、ロランがランドへ、小さく畳んだ風のマントを渡したのだろう。こちらの目が届かないところでランドはそれを身に着けていたのだ。
(謀られた!)
 歯噛みした時、ロランも怒号を上げてベリアルへ突進していた。ベリアルが槍を構える寸前、素早く滑空したランドのはやぶさの剣が十字を描いた。
「ぐおおっ!」
 首と胸を切り裂かれ、ベリアルはのけぞった。そのみぞおちへ、熱い衝撃が突き抜ける。ロランが稲妻の剣を突き刺したのだ。
「こしゃく、な……」
 体を折ってよろめき、ベリアルは倒れまいと槍で自分を支えた。
「べ、ベホ……」
 全快の呪文を唱えかけたその時、ぐきりと首で音がした。視界が斜めに歪む。
「……なっ」
 血走った目を必死に向けると、剣ではなくロトの盾を横にしてこちらの首にめり込ませたロランが映った。
「……盾はそういうことに使うなと」
「習ってない」
 そっけないロランの言葉に、ベリアルは皮肉に笑っていた。
 そうか。――天才か。
 言い終えることなく、ベリアルの視界は暗転していた。
 巨体がどうと背から倒れ、黒いもやとなって消えると、ロラン達は胸で息をついた。
「やるじゃない」
 ロランとランドを見て、ルナが不敵に微笑む。
「私もだまされちゃったわ。でも、あなた達らしいわね!」
「ランドの機転のおかげだよ」
 ランドを見て、ロランは微笑む。ランドも照れて笑った。
「うまく飛べるか自信なかったけど……でも、落ちなくてよかったあ」
「ちゃんと飛べてたよ。うまいじゃないか」
「風にも助けられたからね。運が良かったんだよ」
 だが、その運も自分達が勝ち取ったのだと、ロランは思う。ベリアル達が負けたのは、言葉や顔色だけで、人間の何もかもを知った気でいたことだ。
 人間はそんなに浅くない。そう言ってやったところで、彼らには伝わるはずもないが。
 3人は、ベリアルが守っていた最後の階段を見上げた。
 この上にハーゴンがいる。長かった戦いも終わるのだ。
 きっと口を結んで、ロラン達は階段を上り始めた。




月別アーカイブ

2023

2022

2021

2020

2019

2018

2017

2016

2015

2014

2013

2012

2011

2010


Copyright © 2025 SMILE-LAB Co., Ltd. All Rights Reserved.