機霊戦記 第一話 少年皇帝(後)
- カテゴリ:自作小説
- 2016/07/31 20:36:54
女の子は立ち上がるや、コマンドを唱えて背負っている機霊を広げた。
左右に大きく広がる金属の翼。
うわ……でかっ。
「なんと、アホウドリサイズか?」
「ひい?!」「これはでかすぎますな」
脇に居並ぶ廷臣たちが軒並み、あちゃあと途方にくれる。
僕はこの不恰好な大きさにさらに引いたが。
展開と同時に守護精霊が眼を覚まし、女の子の頭上に顕現するのを見た刹那。
「要らぬ」
ダメ押しノックアウトされたので、三白眼でぺっぺっと手を振り、女の子を追い払うしぐさをした。
「ちょ?! ままま待ってください神帝陛下っ! うちの子の威力を見てくださいっ!」
「要らぬ」
「こ、今度の戦で活躍しないと! まじでうちは、潰されるんです! ですからどーか、私めを陛下の代理騎士に!」
少女よ。まずは言葉遣いをまともな帝国共通語に直してこい。話はそれからだ。
代理騎士は僕の、すなわち「エルドラシア帝国今上帝の名代として」戦場に赴く。
報道機関がこぞって天界・地上界双方、すなわちこの星全域にその映像を流すんだぞ。
ピンクリボンふりふりミニスカ娘が僕の分身です、なんて言えるか?
そしてどん引きの最大の原因は――。
『ロッテ。敵か?』
「ちがうのミッくん! 陛下にご挨拶して!」
ミッくんておい……
女の子の背後に出てきた精霊は、ぎらっとこちらをにらむイケメン。
おまえどこの芸能事務所からきたんだよと、突っ込みたいぐらいイケメン。
つまり僕よりはるかにイケメン。
しかも顕現するなり、飼い主を背後から抱きしめやがった。
うん。超どん引き。
『へいかとはなんだ? 目の前にいるのはオスのようだが』
「だだだだめミッくん! 攻撃しないでっ」
土台、知能はまったく話にならないようだ。
イケメン機霊が、飼い主に指一本ふれようものなら殺す、と無言の圧力をかましてくる。
一瞬、僕のアルゲントラウムで砕刃してやろうと思ったが。
たかが青銅級(ブロンゼ)相手にそんなことをするのは、大人げないのでやめた。
黄金級(オーロ)の後光を見せてやるだけで、十分だろう。
「顕現」
「ひ……?!」
玉座から漏れだす黄金の光をみとめるや。イケメン機霊はびくんとして、さっと姿をかき消した。
「えっ? ミッくん? ちょっとミッくん!?」
ふん。やっぱりな。顕現の神気を見ただけで怯えたか。
まあ、アホウドリサイズなんて骨董品もよいところ。それだけで物笑いの的だ。
皇帝軍の師団にすら、入れられるレベルじゃない。
「リアルロッテ・フォン・シュテレーヘン、そなたの生家は島都市シルヴァニアの、由緒ある伯爵家であったな? 取り潰し回避のためにと、朕の代理騎士への立候補。果敢なるその心意気は、認めよう」
「へ、陛下っ。すみません、ちゃんと挨拶させますからっ。ミッくんはほんとすごいんですよっ。我が家に先祖代々伝わる名機で……」
「大儀であった。下がれ」
「えっ。ちょっ。陛下! 陛下ぁー!」
衛兵たちが女の子の両脇をがっしり抱え、ずるずるひきずって広間から出て行くのを、僕はむっすり顔で見送った。
今日は三名の機貴人と引き合わされたが、みな似たり寄ったり。
みんなツインテールの女の子。
それが好みだと、先日口を滑らせたのが災いしているようだ。
廷臣たちの狙いはあからさまだ。毎日、妙齢の機貴人たちを僕に引き合わせる。
今までに幾人と、こうして無理やり会わされただろうか……
「やはり、代理騎士など要らぬ」
「それはなりません、陛下」
「朕自ら、戦場に降りる」
「ぜ、絶対になりません。高祖マレイスニール陛下より受け継がれし翼、国宝『日輪のアルゲントラウム』を衆目にさらせるような戦ではございません。何卒それはご容赦を。帝国の威信が墜ちまする」
もどかしい。
この場にいる廷臣たちも。議会を牛耳る元老院も。
皇帝の出陣など、とんでもないとぬかす。
「陛下の親衛隊や典礼騎士団から選べぬのが、難儀なところでございますが」
廷臣たちがガックリ肩を落とし、ため息をつく。
「陛下をお守りする騎士団員の勢力均衡は、薄氷のごときものにて」
「大家出身のだれかひとりにかの称号を与えるとなると、即、内乱が起きますからなぁ」
「血なまぐさい足の引っ張り合い。何年にもわたる内輪もめ。もうこりごりですぞ」
「それで島都市ひとつを焦土にしましたからな……」
「できるだけ血筋はよけれど、さして権力をもたぬ家の子女。選定基準は、これに尽きまする」
大陸への師団投入まであと一週間。
「陛下、それまでに何卒。今までご覧になりました中から、代理騎士(妃)をお決めになられますよう、ひらに、お願い申し上げます。」
「まったく……!」
僕は水晶の玉座からいらいらと立ち上がり、廷臣たちにどやしつけた。
「この世に、男の機貴人はおらぬのか!」
問題は。
その一事に尽きる。
「代理騎士が妃と同一視されるなど、笑止千万! 代理は帝の伴侶ではない! 分身ぞ! 探せ! 男の機霊使いを!」
見合いは、もうたくさんだ――!
「朕は、男の機貴人を代理とする!」
「陛下お待ちを!」
「それは無理です陛下!」
廷臣達のうろたえ声を背に、広間を突っ切る。
「おそれながら機霊はっ」
物心ついた時から何度も何度も聞いてきた言葉が、背に降りかかる。
「女性にしか、憑きませぬー!」
嘘をつけ。僕はちゃんと男だ。
「展開(ディストリクシオ)!」
広間を出てすぐ。僕は我が翼を広げて飛び立った。
黄金色(オーロ)の光をあたりにまばゆく撒き散らし、その背に機霊を顕現させながら。
『おはようございます、我が主』
蒼天高く舞い上がる中。高祖帝の時からその姿を少しも変えぬ女神が、僕に微笑みかけてくる。
ふわりとなびく、豊かな金髪のツインテール。
透けた布をいく枚も重ねたような、清楚で真っ白な衣。
優しいすみれ色の瞳が、柔らかなまなざしで僕を見つめる――
『本日は、いずこへ参りましょう?』
「高みへ」
女神が僕の手を取る。
黄金(オーロ)の輝きを散らす翼が、軽やかに羽ばたく。
あっという間に遠のく宮殿。
島都市の空調圏を突き抜け、僕らは飛ぶ。
高みへ。
もっともっと、高いところへ――。
そうして僕らは。
昼天に輝く星となった。
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プロローグ的初回エピ、了
二話目は……
世界観と機霊の具体的な説明および、
皇帝陛下、トラブって大陸に不時着する、みたいな展開に。
そしてもうひとりの主人公と邂逅、という流れになると思います。
目指せ四万字で完結……長くならないように長くならないように(汗汗)
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読んでくださりありがとうございます><
書いているうちに世界観が固まってくるのですが、
いろいろできそうな世界です。
男女、重要なキーワードですー。
楽しんでいただけるよう、そしてコンパクトに終われるようがんばります@@;
読んでくださりありがとうございます><
銃士隊いいですねー^^
でも機霊は女の子にしかひっつかないみたいなので、
たぶん機霊としてイケメンさんたちが出てくるんだと思います^^
読んでくださりありがとうございます><
少年漫画で連想するイメージやモチーフを色々いれこんでみました。
楽しいお話にできればと思います^^
読んでくださってありがとうございます><
はい、目標百枚です;ω;
コンパクトにまとめられるといいなぁと思います。
ちなみにアスパシオンの弟子はトータル60万字強でした。
長らくお付き合いくださり、本当に感謝です;ω;
読んでくださりありがとうございます><
設定的には長くなりそうですよねー;
皇帝陛下のものはとにかく黄金きらきらです^^
もうひとりの子とこれからどんな話をつむいでいくのか、
たのしんでくださったらうれしいです。
工芸と精霊、男と女、戦争と英雄・・・
四方八方に展開する予感満載です^^;
どんなお話になるのか、4万字で収まるのか、
どちらにも注目です♪
↓ オオッ (!o!) ココで見かけるとは思わなかった ※ 名前 変換で出ない人
はちゃめちゃゆえにこれからが楽しみ
すごいですー
こんな風にお話って書いていくものなんですねー
お勉強になりました
皇帝陛下の輝きを示す翼は、相当光るものなのですね。
今後はもう一人の主人公次第につきりますね。