Nicotto Town



機霊戦記 第一話 少年皇帝(後)

 女の子は立ち上がるや、コマンドを唱えて背負っている機霊を広げた。
 左右に大きく広がる金属の翼。
 うわ……でかっ。

「なんと、アホウドリサイズか?」
「ひい?!」「これはでかすぎますな」

 脇に居並ぶ廷臣たちが軒並み、あちゃあと途方にくれる。
 僕はこの不恰好な大きさにさらに引いたが。
 展開と同時に守護精霊が眼を覚まし、女の子の頭上に顕現するのを見た刹那。

「要らぬ」

 ダメ押しノックアウトされたので、三白眼でぺっぺっと手を振り、女の子を追い払うしぐさをした。

「ちょ?! ままま待ってください神帝陛下っ! うちの子の威力を見てくださいっ!」
「要らぬ」
「こ、今度の戦で活躍しないと! まじでうちは、潰されるんです! ですからどーか、私めを陛下の代理騎士に!」
 
 少女よ。まずは言葉遣いをまともな帝国共通語に直してこい。話はそれからだ。
 代理騎士は僕の、すなわち「エルドラシア帝国今上帝の名代として」戦場に赴く。
 報道機関がこぞって天界・地上界双方、すなわちこの星全域にその映像を流すんだぞ。
 ピンクリボンふりふりミニスカ娘が僕の分身です、なんて言えるか? 
 そしてどん引きの最大の原因は――。

『ロッテ。敵か?』
「ちがうのミッくん! 陛下にご挨拶して!」

 ミッくんておい……
 女の子の背後に出てきた精霊は、ぎらっとこちらをにらむイケメン。
 おまえどこの芸能事務所からきたんだよと、突っ込みたいぐらいイケメン。
 つまり僕よりはるかにイケメン。
 しかも顕現するなり、飼い主を背後から抱きしめやがった。
 うん。超どん引き。

『へいかとはなんだ? 目の前にいるのはオスのようだが』
「だだだだめミッくん! 攻撃しないでっ」

 土台、知能はまったく話にならないようだ。
 イケメン機霊が、飼い主に指一本ふれようものなら殺す、と無言の圧力をかましてくる。
 一瞬、僕のアルゲントラウムで砕刃してやろうと思ったが。
 たかが青銅級(ブロンゼ)相手にそんなことをするのは、大人げないのでやめた。
 黄金級(オーロ)の後光を見せてやるだけで、十分だろう。

「顕現」
「ひ……?!」

 玉座から漏れだす黄金の光をみとめるや。イケメン機霊はびくんとして、さっと姿をかき消した。

「えっ? ミッくん? ちょっとミッくん!?」

 ふん。やっぱりな。顕現の神気を見ただけで怯えたか。
 まあ、アホウドリサイズなんて骨董品もよいところ。それだけで物笑いの的だ。
 皇帝軍の師団にすら、入れられるレベルじゃない。

「リアルロッテ・フォン・シュテレーヘン、そなたの生家は島都市シルヴァニアの、由緒ある伯爵家であったな? 取り潰し回避のためにと、朕の代理騎士への立候補。果敢なるその心意気は、認めよう」
「へ、陛下っ。すみません、ちゃんと挨拶させますからっ。ミッくんはほんとすごいんですよっ。我が家に先祖代々伝わる名機で……」
「大儀であった。下がれ」
「えっ。ちょっ。陛下! 陛下ぁー!」

 衛兵たちが女の子の両脇をがっしり抱え、ずるずるひきずって広間から出て行くのを、僕はむっすり顔で見送った。 
 今日は三名の機貴人と引き合わされたが、みな似たり寄ったり。
 みんなツインテールの女の子。
 それが好みだと、先日口を滑らせたのが災いしているようだ。
 廷臣たちの狙いはあからさまだ。毎日、妙齢の機貴人たちを僕に引き合わせる。
 今までに幾人と、こうして無理やり会わされただろうか……

「やはり、代理騎士など要らぬ」
「それはなりません、陛下」
「朕自ら、戦場に降りる」
「ぜ、絶対になりません。高祖マレイスニール陛下より受け継がれし翼、国宝『日輪のアルゲントラウム』を衆目にさらせるような戦ではございません。何卒それはご容赦を。帝国の威信が墜ちまする」

 もどかしい。
 この場にいる廷臣たちも。議会を牛耳る元老院も。
 皇帝の出陣など、とんでもないとぬかす。

「陛下の親衛隊や典礼騎士団から選べぬのが、難儀なところでございますが」 
 
 廷臣たちがガックリ肩を落とし、ため息をつく。

「陛下をお守りする騎士団員の勢力均衡は、薄氷のごときものにて」
「大家出身のだれかひとりにかの称号を与えるとなると、即、内乱が起きますからなぁ」
「血なまぐさい足の引っ張り合い。何年にもわたる内輪もめ。もうこりごりですぞ」
「それで島都市ひとつを焦土にしましたからな……」
「できるだけ血筋はよけれど、さして権力をもたぬ家の子女。選定基準は、これに尽きまする」

 大陸への師団投入まであと一週間。
 
「陛下、それまでに何卒。今までご覧になりました中から、代理騎士(妃)をお決めになられますよう、ひらに、お願い申し上げます。」
「まったく……!」
 
 僕は水晶の玉座からいらいらと立ち上がり、廷臣たちにどやしつけた。

「この世に、男の機貴人はおらぬのか!」
 
 問題は。
 その一事に尽きる。

「代理騎士が妃と同一視されるなど、笑止千万! 代理は帝の伴侶ではない! 分身ぞ! 探せ! 男の機霊使いを!」

 見合いは、もうたくさんだ――!

「朕は、男の機貴人を代理とする!」
「陛下お待ちを!」
「それは無理です陛下!」

 廷臣達のうろたえ声を背に、広間を突っ切る。
 
「おそれながら機霊はっ」
 
 物心ついた時から何度も何度も聞いてきた言葉が、背に降りかかる。

「女性にしか、憑きませぬー!」
 
 嘘をつけ。僕はちゃんと男だ。
 
「展開(ディストリクシオ)!」

 広間を出てすぐ。僕は我が翼を広げて飛び立った。
 黄金色(オーロ)の光をあたりにまばゆく撒き散らし、その背に機霊を顕現させながら。

『おはようございます、我が主』

 蒼天高く舞い上がる中。高祖帝の時からその姿を少しも変えぬ女神が、僕に微笑みかけてくる。
 ふわりとなびく、豊かな金髪のツインテール。
 透けた布をいく枚も重ねたような、清楚で真っ白な衣。
 優しいすみれ色の瞳が、柔らかなまなざしで僕を見つめる――

『本日は、いずこへ参りましょう?』  
「高みへ」
 
 女神が僕の手を取る。
 黄金(オーロ)の輝きを散らす翼が、軽やかに羽ばたく。
 あっという間に遠のく宮殿。
 島都市の空調圏を突き抜け、僕らは飛ぶ。
 高みへ。
 もっともっと、高いところへ――。
 
 そうして僕らは。
 昼天に輝く星となった。





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プロローグ的初回エピ、了
二話目は……
世界観と機霊の具体的な説明および、
皇帝陛下、トラブって大陸に不時着する、みたいな展開に。
そしてもうひとりの主人公と邂逅、という流れになると思います。
目指せ四万字で完結……長くならないように長くならないように(汗汗)
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2016/08/09 21:05
よいとらさま

読んでくださりありがとうございます><
書いているうちに世界観が固まってくるのですが、
いろいろできそうな世界です。
男女、重要なキーワードですー。
楽しんでいただけるよう、そしてコンパクトに終われるようがんばります@@;
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2016/08/09 21:03
MC202さま

読んでくださりありがとうございます><
銃士隊いいですねー^^
でも機霊は女の子にしかひっつかないみたいなので、
たぶん機霊としてイケメンさんたちが出てくるんだと思います^^
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2016/08/09 21:01
はにさま

読んでくださりありがとうございます><
少年漫画で連想するイメージやモチーフを色々いれこんでみました。
楽しいお話にできればと思います^^
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2016/08/09 20:57
おきらくさま

読んでくださってありがとうございます><
はい、目標百枚です;ω;
コンパクトにまとめられるといいなぁと思います。
ちなみにアスパシオンの弟子はトータル60万字強でした。
長らくお付き合いくださり、本当に感謝です;ω;
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2016/08/09 20:54
カズマサさま

読んでくださりありがとうございます><
設定的には長くなりそうですよねー;
皇帝陛下のものはとにかく黄金きらきらです^^
もうひとりの子とこれからどんな話をつむいでいくのか、
たのしんでくださったらうれしいです。
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2016/08/06 12:30
こんにちは♪

工芸と精霊、男と女、戦争と英雄・・・
四方八方に展開する予感満載です^^;

どんなお話になるのか、4万字で収まるのか、
どちらにも注目です♪
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2016/08/04 13:29
銃士隊のダルタニアン みたいな カッコイィ兄ちゃんも 現れるのかな (((‥ )( ‥)))


↓ オオッ (!o!)  ココで見かけるとは思わなかった  ※ 名前 変換で出ない人
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2016/08/01 20:30
何が一体どーなっちゃう(゚∀゚lll)

はちゃめちゃゆえにこれからが楽しみ
すごいですー

こんな風にお話って書いていくものなんですねー
お勉強になりました
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2016/08/01 12:58
4万字…原稿用紙100枚か(;´・ω・)
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2016/07/31 21:51
長く成らなければ良いですが、長編物に成りそうな予感がします。

皇帝陛下の輝きを示す翼は、相当光るものなのですね。

今後はもう一人の主人公次第につきりますね。




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