Nicotto Town



機霊戦記 第二話 黄金の女神(後)

 

 島都市(コロニア)の住環境は、人間にとって完璧であるように調整されている。

 森林。平野。川。湖。田園。そして街。自然と都会が絶妙の割合で融和した理想郷だ。空気組成は日々ナノ単位で調整され、天候、気温は完全管理。

 でも、帝都フライアは。

「人口三十万人……」

 島都市では一番巨大な規模を誇っていて。

 それだけ空気も……

「なんだか……都の空気がよどんでいるような気がする」

『フライアの空気組成をチェックしましょうか?』

「いや。しなくていい。君のと違うってことを言いたかった」

『それは……』

 アルゲントラウムの黄金色の空調結界は、心地よい。

 鋭利で清々しくて、島都市(コロニア)の空気とはまったく違う。

 僕は手を繋ぎあっている金髪の少女に囁いた。

「君が作る空気のほうが、澄んでておいしい」

 とたんにうれしそうな微笑が返ってくる。

 やさしい青の瞳。ばら色の唇。金の髪が揺れる――

 美しいこの子は、僕の気持ちには……たぶん気づいていないんだろうけど。

 気づく能力があるのかどうか……知らないけど。

 でも僕は……

『あ……!』

 手を繋いでいない方の手で、僕が黄金の乙女の頬に触れようとしたとき。

 突如、彼女の美しい顔がほのかに気色ばんだ。

『わが主!』

 そのつややかな白い顔が、ハッと固まる。

『わが主! 下方五時方向より正体不明弾。回避します――』

「な?」

 王宮の近くあたりから、ひゅん、と何か光る弾道が、空調結界を突き抜けてきた。

 はじめ僕は、その光を迎えに来た護衛官だと認識した。

 常に僕の身辺警護をしている、五人の機貴人のひとりだと。

 だがそれは。機霊で飛んでいる人ではなく――

「うあ?!」

 青白い刃のような閃光で。

『わが主!!』

 異様な速さで、僕の黄金の翼を射抜くように貫いた。

 背中に一瞬焼けるような熱さが広がった瞬間、繋がれた僕らの手が離れる。

「アルゲントラウム!」

 ざざっと、黄金の少女の姿が歪み、みるみる透明化していく。

『わが主。不明弾が結界を貫通。被弾、しまし――』

 なんだ今のは?!

 アルゲントラウムの結界が破れるなんて……!

 黄金の翼も。

 空調維持結界も。

 目を見開く僕の周囲で霧散していく。

『わが主、結界再展開を優先しま……ああ……出力不足で……両翼再展開が、出来ませ……出力が……出ませ……』 

「なんだって?」

 優先された結界が、ふわんと張られる。

 すがすがしい黄金色の空気を吸い込んでホッとするのもつかのま。

 僕はどんどん、空の高みから落ちていった。

 高度が下がれば結界維持のエネルギーを両翼展開に回せる。なのに高度がだいぶ落ちても、黄金の翼が開かない。

『わが主……出力が……出ませ……』

「なっ……どうして?!」

『接合部が破損……わが主の生命エネルギーが吸収できませ……ご安心を……死なせませ……絶対にお守りいたしま……緊急……ード……発……ます』

「くっ……」

 たしかに、背中が燃えるように熱い。機霊との接合部が、本当に燃えているかのようだ。

「アルゲントラウム!!」

 黄金の乙女が大きくゆらめき、ちりちりと音を立てて消えていく。

「いやだ! 消えるな!」

「大丈……です……わが主……なたを……死なせませ……」

 落ちていく。どんどん落ちていく。

 帝都から飛んできた青白い光は、たった一発だけだった。

 誰かに狙い打ちされたんだろうか?

 王宮のそばから、一体誰に?

 僕の背中からぼうっと黄金色の光が絞りだされて、結界の外側に翼ではなく球体を形作る。

 僕との接続がはずれ、生命エネルギーを取りこめない今。

 アルゲントラウムは、機霊の姿も翼も維持できない。ほぼ死んでいる状態だ。

 それでも。

 僕を守ろうと、緊急救命モードの光を出し続けている……。

「アルゲントラウム! アル!」

 黄金の乙女の姿は完全に消えてしまった。もう、返事は聞こえない。

 黄金オーロの光に守られ落ちていく先を見て、僕は息を呑んだ。

 大島都市(メガコロニア)フライアの縁から、わずかに外れている。

 このままでは――。

「アル! 大地に落ちる! 大陸(ユミル)に……!」

 返事はない。

「アル!」

 白亜の都市があっというまに迫り。

 その縁が、僕のすぐ横に来た。

 だが手を伸ばしても、届かない。僕を包む黄金の光は伸びず、固まったままだった。

 フライアを横目に、僕は猛烈な速さで落ちていった。

 大気圏を突き抜け。

 はるか下へ。

 下へ。

「アル! 答えろアル! 死ぬな!」

 必死に呼びかける僕の声に答えて。

 アルゲントラウムがやっとのこと、つぶやきを絞りだした。

『死なせません……私のマレイスニール……』

「ア……ル?!」

 その囁きに愕然としながら。

 僕は、地に落ちていった。

 汚れきった、真っ赤な、母なる大地へ――。


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2016/08/24 08:46
遊星爆弾でガミラス仕様に改造中の地球みたいな……
美麗な天上界・浮遊島と大きなギャップ
主人公少年は物語の過程でどんな成長をするのか
楽しみしております
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2016/08/22 15:15
MC202さま

読んでくださり、ありがとうございます><
ドラキュラー@@それも一手でありますね>ω<

大阪帰省してきましたー^^
ご指摘のとおりでしたー。めっさ暑かったです;ω;
(地下鉄乗って京セラどぉむに……阪神応援しにいってきましたw)
どうかどうか、お大事になさってくださりませ。
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2016/08/22 15:12
よいとらさま

読んでくださり、ありがとうございます><
赤い大地に墜落……
大陸はどんなところなのか、次回雰囲気をうまく描ければいいなぁと思います。
前回高く上って今度は落ちて。
じぇっとこーすたー^^
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2016/08/22 15:10
カズマサさま

読んでくださりありがとうございます><
おそらく、光の翼がつながってる背中を撃たれたのかなぁと思います;ω;
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2016/08/20 11:14
しなせません?  ドラキュラに改造するのかや?  (;¬_¬)

大阪の 地下鉄と地下街は 節電じゃから 通勤時間帯でも暑いでぇ (~Q~;)
暑いから 通院日は衰弱して帰還   ○凹
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2016/08/11 08:49
おはようございます♪

事故か故意か、いずれにせよ戦いの場に誘われてしまった
皇帝陛下。
そして孤立無援。

母なる大地は敵か味方か。

映像感たっぷりで楽しめました^^
次の展開にも期待です♪
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2016/08/09 22:07
地に落ちたと言う事は、弱い所を突かれたと言う事ですかね・・・。




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