自作ドラゴンクエストⅡ~悪霊の神々・198
- カテゴリ:自作小説
- 2016/08/13 09:42:56
「資格というのなら、それは僕達の血筋が背負う運命だ。でも僕は、“僕達だけが”それを担っているとは思っていない」
ハーゴンは嘲笑した。
「お前は自分が、愚昧な人間と同じだというのか?」
「――そうだ」
ロランは再び斬りかかった。ハーゴンがまた杖で受けとめ、激しい打ち合いが続く。その最中でロランは言った。
「僕は魔力を持って生まれなかった。お前が言う、できそこないだ」
「しかし、素晴らしい力を持っている。戦う力もある」
「それは結果だ! 使命もなく、城にいるだけなら、僕もただの人間だったんだ」
ロランの瞳が悲しみに揺らいだ。
「――殺されたすべての人は、僕だ! 魔法も使えず、戦う力もなく、暴力に抗うこともできず、理不尽な狂気に犠牲になっていた――僕自身なんだ!」
青白い剣閃が斜めにほとばしった。ハーゴンは苦鳴を上げ身を反らす。返す手で詰め寄り、ロランはハーゴンの懐深く斬り込んでいた。
「ぐはあっ……!!」
ロランの剣は、ハーゴンの背を突き抜けていた。邪教の紋章を染め抜いたローブに、じわじわと赤黒い染みが広がる。ロランはゆっくりと剣を引き抜いた。数歩後退する。
「ぐっ……」
ハーゴンはよろめき、杖で体を支えた。傷を抑え、手のひらに付いた血を見る。顔を上げ、にやりと笑った。すさまじい笑みだった。
「愚かな……。他人と自らを等しく思うとは。無能な人間と肩を並べ、世の発展と進化を放棄するのか」
「命は、」
ロランの声がわずかに震えた。
「才能で価値が決まるものじゃない。誰だって生きていいんだ。それでこの世が滅ぶというのなら、僕は流れに身をゆだねる。お前一人が決めていいことじゃない」
ハーゴンの青ざめた顔には、冷笑が浮かんだだけだった。
「たとえこの私を倒しても、世界は救えまい! そんなこともわからず……お前達はここまで来たのだ……」
「何を言っているの……?」
ルナがいかずちの杖を胸元に抱き、柳眉を寄せた。ハーゴンは天をあおぎ、両腕を広げて声高に叫んだ。
「破壊の神シドーよ! 今ここに、最後の生け贄を捧ぐ!!」
ハーゴンの口からどっと血があふれた。目から光が消え、あお向けに倒れる。手から離れた杖が、床に弾んで高い音を立てた。
「……どういうことだろう。最後の生け贄って……ぼく達のこと?」
ランドが不安そうに言ったその時、邪神の像が真っ赤な光を放った。広間が大きく揺らぎ、3人は倒れまいと踏みとどまる。しかし振動は神殿全体から発生していた。
――否、ロンダルキア全体から。
同時刻、世界の人々は空がみるみる陰っていくのを見た。ロンダルキアのふもとは激震に襲われ、ぺルポイの住人達は恐怖に叫びながら我先に地下都市を飛び出した。ザハンからの漂流者ルークは、押し寄せる人々に流されながら地下道を出た。
「頭が……」
前頭部が鋭く痛み、ルークは額を抑える。漂流してからずっと記憶を失っていたが、何かを思い出しそうな気がした。阿鼻叫喚の中、ふと前を見上げる。
白い台地全体が揺らいでいるのを見、ルークは戦慄した。
「陛下、空が!」
老臣マルモアと近衛隊長シルクスが、謁見の間に駆け込んだ。大臣達の話を聞いていたローレシア王は、取りも直さず二人についてバルコニーへ走った。
「これは……!」
南の方角から広がる闇に、王は愕然とした。城下でも人々が不安げに空を見上げている。
「あれはロンダルキアの方角ではないか?」
「左様でございます。おそらく今、ロラン王子達は邪神官と戦っておられるのでしょう」
硬い面持ちでシルクスが言う。王はきつく手すりをつかんだ。
「ロラン……!」
「おお、神よ!」
マルモアは涙をためて両手を組み、空を仰いだ。
「どうかロラン様をお守りくだされ! ランド王子とルナ姫に武運を!」
(ロラン……頑張れ!! ルナ、ランド、死ぬではないぞ!!)
南を見つめ、王は胸の内で叫んでいた。
振動は激しさを増した。
次々にかがり火や柱が倒れていく。壁や床に大きな亀裂が走る。ロランはランドに叫んだ。
「リレミトを! 崩れるっ!!」
「り、り」
振動のために舌を噛みそうになりながら、ランドは右手を掲げた。
「リレミト!」
だが、3人の体は移動しなかった。
「かき消された……閉じこめられたんだわ!」
ルナが悲痛な声を上げた時、紫色の稲妻がいくつも聖堂を駆け巡った。光と闇が明滅し、雷鳴が鼓膜を聾した。
「――っ!」
激震が走った。立っていられず3人が膝を突いた時、邪神の像の背後から、巨大な腕が壁を砕いて突き出た。三本しかない指が、赤々と光る邪神の像を握りしめる。像は砕け散り、破片が波打つ血の溝に次々と落ちてゆく。
ロラン達は見た。崩壊する壁の向こうから、巨大な顔と腕がのぞくのを。