機霊戦記 第三話 青鋼玉(前)
- カテゴリ:自作小説
- 2016/08/20 13:41:40
「テルぅー。もう帰りましょーよー」
ぱしん、ぱしん。
先っぽが銀色金属丸出しのふさふさしっぽを地に叩きながら、プジが俺にぶうたれる。
両手両足をそろえ、ちょこんと正座している殊勝な格好だが、猫ってやつは尻尾だけは嘘をつけないようだ。
「おじいさまが心配してるわよー」
腕に嵌めてる端末(フォン)を見たらば、五時五分前。
うん、非常に正確な腹時計だぜ、プジ。
こいつ、ごはんの時間だけは、正確に体内時計感じ取るんだよなー。
じっちゃんブレンドの合成カリカリって、ぶっちゃけリサイクル燃料製なんだけど。プジは、食ったら本当に、おいしく感じるらしい。
超てきとーに人工知能つくって頭部にぶっこんだのに、味覚が偶然ついちゃうなんて、びっくりだぜ。
プジは全部拾い物で造って、材料費ゼロ。
目はガラス球じゃなくて、なんと本物のサファイア。
古代遺跡から掘り出した機械兵士の目をぶっこ抜いて、そいつを嵌めこんだんだよな。
金属ファイバーの人工毛はうまく生え広がらなくって、むらがでちゃったんだけど。これが微妙なむら具合で、いちおうシャム猫っぽく見えてる。
「テルー。もう日が暮れちゃうってばー」
びたんびたん、イラだたしく動く尻尾。
なぜかその先っぽと、おでこの一部だけは全然毛が生えなくって、まるっぽ金属はだかんぼ。
なんで生えてこないのか、よくわかんねえ。
プジは、ストレスハゲなのよー、とか言うんだけど、造ったときから禿げてる。
「ねえテルー。ごはーん。ごはーん食べにかえりたいのぉー」
「あーもう、ニャンニャンうっさい。もうちょっと、ここ掘ってからなー」
ざくうとスコップを突き立てて、俺は「ごみ山」の瓦礫をよいせとすくう。
「今日の発掘はあそびじゃねーの。仕事だからさ」
「なによ仕事って。今日はずうっと掘ってるだけじゃない」
「メイ姉さんに、メケメケの修理たのまれたんだよ」
「うそぉ、テルがー?」
「ちょっ、なんだよその、おもいっきし疑ってるよーなその目つきは」
「メケメケって、エンジン複雑よー? テルに修理できるの?」
「てきとーに冷却材ぶちこめば直るって。熱暴走してるだけだから」
「ほんとにー?」
「おい丸はげネコ。おまえ、自分の創造主の腕を信じてないな?」
プジが、ハゲって言わないでよ! と、尻尾をばしばし。
テルがてきとーなせいでハゲになったんだからねーっ、とぷがぷが怒る。
青いネコ目がしゅんしゅん唸る。
へいごめんな、とおざなりにひらっと手を振り、俺は瓦礫の山にまたスコップを突き立てた。
ここはすんごい昔に、紛争で滅んじまった街。
塔のような建物がそこかしこ倒れて、崩れて、風化してる。
「ごみ山」は、大昔の発掘屋が、あたりの資材や金属を無造作にかき集めたもんだ。めぼしいもんや再利用できるもんは、もうあらかた、すでに持ち去られちまってる。うっちゃって積み上げておかれてるのは、さびた鉄筋やコンクリや木材や、もとのもんがなんだったのかちょっとよく分かんない、朽ちたもんばっかり。
でもたまーに、拾い落としや掘り出しもんが見つかる。
それに……
「よっしゃぁ! あったあったー」
風化遺跡の「ごみ山」の中には、じんわり繁殖するモノがあって。
とくに瓦礫が密集してる奥底にあるのが、この真っ白な半有機体の金属だ。
日光の熱を吸い込んだ「ごみ山」の表層にあっためられて、蒸された木材やプラスチックなんかにぶわっと繁殖する。
「バクテリア鉱ちゃん、会いたかったぜー。冷却材には、これがうってつけだよな。熱を奪い取るから」
「ねえテル、それって、熱で増殖するんじゃないの?」
「うん。でも大丈夫さ。繁殖抑制剤をてきとーにぶちこめばいい」
また目分量で作業するつもり? と呆れるプジを尻目に、とろんとした白い流金属をスコップですくいあげ、特製バケツに投入。スコップを背に負い、バケツにかぽんと蓋をして両手で抱えた俺は、プジに笑顔で言った。
「よっし。うちに戻って精製だー」
半日掘り続けて、「ごみ山」に大穴を開けた甲斐があったぜ。
メケメケが直ったら、メイ姉さん、きっと喜ぶだろうなぁ。へへへ。
「いくぜプジ!」
俺は靴のかかとのスイッチを押し、しゃがんでうりゃあと飛び上がった。
改造シューズの超脚力で、山のふもとまで一気に跳躍。
華麗に着地して、それからバイク型の一人用反重力推進機テケテケに飛び乗る。
「まってよぉーテルー!」
プジがひょひょいと、瓦礫が飛び出てるとことを器用につたって、こっちに降りてくる。猫が俺の肩に飛び乗ると同時に、俺は右足をがっしん踏み込んで、テケテケのエンジンを入れた。
「ひゃほうー♪」
ひゅおんと、小気味よい起動音をたてたテケテケが走りだす。
お尻から「てけてけてけてけ」と、のどかに排気を噴き出しながら。
うん。まあその。テケテケはその名のとおり、速度はあんまり速くはないけど。
乗り心地はいいよほんとに。ゆるやかに頬に当たる風がきもちいい。
腕をまくった革ジャンにあたって、ひいやりする。
「あー。今日も今日とて、天使さんたちは一所懸命戦ってますなー」
暮れなずむ赤黒い空の向こうで、ぱあっとまばゆい閃光が瞬く。
ここから東部3,5マイルメーター付近は、島都市コロニアのやつらがよく使う「戦場」だ。
蛍のような光がたくさん空に散り、ストロボのように空をぱしぱしまばゆく照らしている。そのまたたきを横目に、俺のテケテケはほどよい速さで地を駆けた。
空を飛び交う天使たちが「スラム」と呼んでる、大きな大きな、街へ向かって。

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- カズマサ
- 2016/08/20 14:20
- 何か良いゴミの山に当たった見たいですね。
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