Nicotto Town



機霊戦記 第三話 青鋼玉(前)


「テルぅー。もう帰りましょーよー」

 ぱしん、ぱしん。

 先っぽが銀色金属丸出しのふさふさしっぽを地に叩きながら、プジが俺にぶうたれる。

 両手両足をそろえ、ちょこんと正座している殊勝な格好だが、猫ってやつは尻尾だけは嘘をつけないようだ。

「おじいさまが心配してるわよー」

 腕に嵌めてる端末(フォン)を見たらば、五時五分前。

 うん、非常に正確な腹時計だぜ、プジ。

 こいつ、ごはんの時間だけは、正確に体内時計感じ取るんだよなー。

 じっちゃんブレンドの合成カリカリって、ぶっちゃけリサイクル燃料製なんだけど。プジは、食ったら本当に、おいしく感じるらしい。

 超てきとーに人工知能つくって頭部にぶっこんだのに、味覚が偶然ついちゃうなんて、びっくりだぜ。

 プジは全部拾い物で造って、材料費ゼロ。

 目はガラス球じゃなくて、なんと本物のサファイア。

 古代遺跡から掘り出した機械兵士の目をぶっこ抜いて、そいつを嵌めこんだんだよな。

 金属ファイバーの人工毛はうまく生え広がらなくって、むらがでちゃったんだけど。これが微妙なむら具合で、いちおうシャム猫っぽく見えてる。

「テルー。もう日が暮れちゃうってばー」

 びたんびたん、イラだたしく動く尻尾。

 なぜかその先っぽと、おでこの一部だけは全然毛が生えなくって、まるっぽ金属はだかんぼ。

 なんで生えてこないのか、よくわかんねえ。

 プジは、ストレスハゲなのよー、とか言うんだけど、造ったときから禿げてる。

「ねえテルー。ごはーん。ごはーん食べにかえりたいのぉー」 

「あーもう、ニャンニャンうっさい。もうちょっと、ここ掘ってからなー」

 ざくうとスコップを突き立てて、俺は「ごみ山」の瓦礫をよいせとすくう。

「今日の発掘はあそびじゃねーの。仕事だからさ」

「なによ仕事って。今日はずうっと掘ってるだけじゃない」

「メイ姉さんに、メケメケの修理たのまれたんだよ」

「うそぉ、テルがー?」 

「ちょっ、なんだよその、おもいっきし疑ってるよーなその目つきは」

「メケメケって、エンジン複雑よー? テルに修理できるの?」

「てきとーに冷却材ぶちこめば直るって。熱暴走してるだけだから」

「ほんとにー?」

「おい丸はげネコ。おまえ、自分の創造主の腕を信じてないな?」

 プジが、ハゲって言わないでよ! と、尻尾をばしばし。

 テルがてきとーなせいでハゲになったんだからねーっ、とぷがぷが怒る。

 青いネコ目がしゅんしゅん唸る。

 へいごめんな、とおざなりにひらっと手を振り、俺は瓦礫の山にまたスコップを突き立てた。

 ここはすんごい昔に、紛争で滅んじまった街。

 塔のような建物がそこかしこ倒れて、崩れて、風化してる。

 「ごみ山」は、大昔の発掘屋が、あたりの資材や金属を無造作にかき集めたもんだ。めぼしいもんや再利用できるもんは、もうあらかた、すでに持ち去られちまってる。うっちゃって積み上げておかれてるのは、さびた鉄筋やコンクリや木材や、もとのもんがなんだったのかちょっとよく分かんない、朽ちたもんばっかり。

 でもたまーに、拾い落としや掘り出しもんが見つかる。

 それに……

「よっしゃぁ! あったあったー」

 風化遺跡の「ごみ山」の中には、じんわり繁殖するモノがあって。

 とくに瓦礫が密集してる奥底にあるのが、この真っ白な半有機体の金属だ。

 日光の熱を吸い込んだ「ごみ山」の表層にあっためられて、蒸された木材やプラスチックなんかにぶわっと繁殖する。

「バクテリア鉱ちゃん、会いたかったぜー。冷却材には、これがうってつけだよな。熱を奪い取るから」

「ねえテル、それって、熱で増殖するんじゃないの?」

「うん。でも大丈夫さ。繁殖抑制剤をてきとーにぶちこめばいい」

 また目分量で作業するつもり? と呆れるプジを尻目に、とろんとした白い流金属をスコップですくいあげ、特製バケツに投入。スコップを背に負い、バケツにかぽんと蓋をして両手で抱えた俺は、プジに笑顔で言った。

「よっし。うちに戻って精製だー」

 半日掘り続けて、「ごみ山」に大穴を開けた甲斐があったぜ。

 メケメケが直ったら、メイ姉さん、きっと喜ぶだろうなぁ。へへへ。

「いくぜプジ!」

 俺は靴のかかとのスイッチを押し、しゃがんでうりゃあと飛び上がった。

 改造シューズの超脚力で、山のふもとまで一気に跳躍。

 華麗に着地して、それからバイク型の一人用反重力推進機テケテケに飛び乗る。

「まってよぉーテルー!」

 プジがひょひょいと、瓦礫が飛び出てるとことを器用につたって、こっちに降りてくる。猫が俺の肩に飛び乗ると同時に、俺は右足をがっしん踏み込んで、テケテケのエンジンを入れた。

「ひゃほうー♪」

 ひゅおんと、小気味よい起動音をたてたテケテケが走りだす。

 お尻から「てけてけてけてけ」と、のどかに排気を噴き出しながら。

 うん。まあその。テケテケはその名のとおり、速度はあんまり速くはないけど。

 乗り心地はいいよほんとに。ゆるやかに頬に当たる風がきもちいい。

 腕をまくった革ジャンにあたって、ひいやりする。

「あー。今日も今日とて、天使さんたちは一所懸命戦ってますなー」

 暮れなずむ赤黒い空の向こうで、ぱあっとまばゆい閃光が瞬く。

 ここから東部3,5マイルメーター付近は、島都市コロニアのやつらがよく使う「戦場」だ。

 蛍のような光がたくさん空に散り、ストロボのように空をぱしぱしまばゆく照らしている。そのまたたきを横目に、俺のテケテケはほどよい速さで地を駆けた。

 空を飛び交う天使たちが「スラム」と呼んでる、大きな大きな、街へ向かって。

 

 

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2016/08/20 14:20
何か良いゴミの山に当たった見たいですね。




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