機霊戦記 第三話 青鋼玉(後)
- カテゴリ:自作小説
- 2016/08/20 13:45:10
「今日は一段と、まぶしいわねえ」
プジが東の空を眺めて眉をひそめる。
サファイアの猫眼がせわしなくしゅんしゅん言ってるから、拡大視でもしてるんだろうか。
俺たちは風化遺跡から、真っ赤でじゅくじゅくな大地に敷かれた舗装路を、ひたすらまっすぐ南下した。
三十分もすると、空はだいぶ暗くなり。真正面に真っ黒くてでっかいお山のようで、なんだか毛ばだってるような塊が見えてくる。
俺とじっちゃんが住んでる、コウヨウの街だ。ここら付近では一番でっかい。
かつて風化遺跡の建材を組み上げて、ツギハギのように作られた。
黒い「ごみ山」のようなそいつがはるか先に見えてくると、細かった舗装路がぐぐっと広くなる。
他のテケテケやでっかいメケメケが、合流する幹線からちらほら入ってくる。
「よーう、シング爺の孫! おまえまた、スガモ(初心者用)遺跡に行ってきたのかー?」
ひゅいーんとエンジン音をたて、発掘屋のおっさんが一人用反重力駆動機(ヒュンヒュン)で俺のそばに一瞬がぶり寄り、颯爽と横を過ぎ去る。
「まあ、おまえがヒュンヒュンに乗るのは百年はえーな。がははは」
大きなお世話だ。
と無視しつつ、ハンドルのグリップを回して、テケテケの出力をさりげなく上げる俺。
こいつをヒュンヒュンに改造するには、エンジンに光結晶をぶちこまないといけないんだよなぁ……
あの結晶を上級者用遺跡で掘り出せれば、発掘屋として一人前っていわれてるんだけど。俺はまだ、そんな深部に潜れたためしがない。
颯爽と追い抜いてった、あのゴーグルおっさんみたいのが入ってる発掘屋ギルドが、いいもんが出る遺跡に陣取ってるからだ。採掘料を取るわ、いい掘り出しもんはみんなピンはねされるわ、ひどいもんだ。
俺もどっかのギルドに入れば、いい目を見られるんだろうけど。
頑固なじっちゃんが生きてるかぎり、それは無理ってもん……
――「あら? ねえテル」
突如。肩に乗ってるプジが、青い猫目の瞳孔をまん丸にした。
「ねえねえ。なんか落ちてくるわよ」
東の空をじいっと凝視して言う。
「あん? 天使か?」
そんなの日常茶飯事だろ? と俺は脇目もふらず、テケテケのハンドルのグリップをぐっしぐし回して、さらに出力を上げた。
戦場で戦う天使たちは、撃ち落とされたら流れ星のように地に落ちるもんだ。
でもプジは、ちがうのよーと、東の空をじっと凝視した。
「戦場じゃなくって、すぐそこよ?」
「はあ? すぐそこって、拡大して見てるから近く感じるんだろ? 肉眼じゃそんなにはっきりとは……もしかして、天使が戦闘区域からふっとばされたのか?」
「んーん。あの戦場からじゃないわよ。すごく上から落ちてきてる。輝いてるわね」
「うえ? それ、天使じゃないの?」
「わかんない。まぶしすぎて、中の形が見えないのよねー」
プジの猫目がせわしなくしゅんしゅん稼動する。
だがまぶしすぎて、もと機械兵士の眼をもってしても、それが何かは判別不能らしい。
天使じゃなければ、本物の流れ星……つまり、隕石の可能性もあり?
もしもそうだったら――
とたんに俺の顔はにんまりにっこり。一瞬にして、目がきらーんと輝いた。
「材料! 加工材料ゲットできるじゃん! 隕鉄欲しいいいい! プジ、落下地点にナビ頼むわ」
「えーっ。ごはん……」
「結構近くなんだろ? そんなに時間かかんないって。じっちゃんに言って、特製カリカリ、倍にしてもらうからさー」
「もー」
ぷんすかなプジがしぶしぶ、青い猫目で座標を測る。
他の発掘屋に嗅ぎつかれないよう、俺はテケテケの調子を見るふりをして、そうっと舗装路から外れた。
「x750、Y133。今、地表に激突」
「えっ? Y133? まじで近――」
「テル! 衝突衝撃波が来るわよ!」
言ってるそばから、爆風のごとき突風が落下点から吹いてきて。
「おおわ!?」
俺のテケテケが横倒しになる。
「テル! 中心点の熱摩擦がすごい。爆風が来るわ!」
「ひい!? 地面に穴がぁっ! 開いてるうっ!」
倒れたテケテケからよろりと這い出した俺の目に、落下点を中心に広がり来る爆発と、きらきら輝く何かが映る。
落下点にあるのは、丸い、黄金のかたまり? 球体みたいだ。
って、のんきに観察してる場合じゃない。
「プジ! 展開(ディストリクト)して結界張るぞ!」
「了解!」
「接合(コネクト)!!」
プジが俺の背におおいかぶさって、俺の胸元で手を組む。
とたんにプジの体が光りだす。毛がひっこんで。手の形が細く長く変わっていき。
その背から、コウモリのような黒い翼が生えてきて。
みるみる、左右に大きく広がる――
「結界展開(シールド・ディストリクト)!」
ぐわっと黒き翼を展開し。
まるで悪魔の使いのごとき姿になったプジが、周囲に結界を張ると同時に。
落下点からぶおおおっと巻きあがるすさまじい熱波が、俺たちが立ってるところに到達した。
赤い大地に生えてる枯れ草が、ぱっ、ぱっ、と焼かれて消し炭になってる。
一瞬遅かったら、俺も大やけどどころじゃ済まなかったろう。
「ひい! 俺のテケテケ! 結界の中に入ってねええ」
「あっ……ごめんテル。溶けちゃった?」
「あ、大丈夫みたいだ。バケツがひっくり返って、バクテリア鉱がはりついてる」
そのおかげで助かった。この流体金属は熱を食ってくれるから、たぶんテケテケは焼かれることなく、また動いてくれるだろう。
それにしても。
「これまじで、すごい……隕石じゃね?」
なんつう高エネルギーだ。どんな材料が取れるか、わくわくする。
ごうごう吹き荒れる熱波をしのいだ俺たちは、風が収まるや、爆心地へと飛んだ。
機霊化したプジが、ばっさばっさとコウモリのごとき翼をはばたかせる。
俺たちはあっという間に、がっつりあいた大穴クレーターのまんまんなかの上空に至った。
「熱が急速に引いていくわ」
椀状に開いた大穴の底にいるものを眺めおろすなり。俺たちは息をのんだ。
「おいプジ。これって……なんか、隕石じゃなさげ?」
「倒れてる……」
そこにあるものを、プジがしゅんっと青い目を眇めて睨み下ろし。
低く唸るようにつぶやいた。
「モノじゃない。生物。人間――だわ」
まぶしいわねえ 言われないように頭皮をシバカナイように用心中 (ロ_ロ)ゞ
同学年を見てたら 急変してるから 油断デキン (;´Д`)
お読みくださりありがとうございます><
大地はジャンクにあふれたイメージ^^
猫型機霊は分離型のようであります。
光の翼とコウモリのような翼……
天使と下界人……
いろいろ対照的に描ければいいなぁと思います^^
お読みくださりありがとうございます><
おそらくそうであります。
きっとあの子なのでしょう^^
文明の余熱で生きる街に住む技術系少年と猫型機霊。
天から降ってきた人間。
変わり始めるであろう二人の運命の時間。
物語に馬力が出てきましたね^^
この先も楽しみです♪