Nicotto Town



機霊戦記 第三話 青鋼玉(後)

「今日は一段と、まぶしいわねえ」

 プジが東の空を眺めて眉をひそめる。

 サファイアの猫眼がせわしなくしゅんしゅん言ってるから、拡大視でもしてるんだろうか。

 俺たちは風化遺跡から、真っ赤でじゅくじゅくな大地に敷かれた舗装路を、ひたすらまっすぐ南下した。

 三十分もすると、空はだいぶ暗くなり。真正面に真っ黒くてでっかいお山のようで、なんだか毛ばだってるような塊が見えてくる。

 俺とじっちゃんが住んでる、コウヨウの街だ。ここら付近では一番でっかい。

 かつて風化遺跡の建材を組み上げて、ツギハギのように作られた。

 黒い「ごみ山」のようなそいつがはるか先に見えてくると、細かった舗装路がぐぐっと広くなる。

 他のテケテケやでっかいメケメケが、合流する幹線からちらほら入ってくる。

「よーう、シング爺の孫! おまえまた、スガモ(初心者用)遺跡に行ってきたのかー?」

 ひゅいーんとエンジン音をたて、発掘屋のおっさんが一人用反重力駆動機(ヒュンヒュン)で俺のそばに一瞬がぶり寄り、颯爽と横を過ぎ去る。

「まあ、おまえがヒュンヒュンに乗るのは百年はえーな。がははは」

 大きなお世話だ。

 と無視しつつ、ハンドルのグリップを回して、テケテケの出力をさりげなく上げる俺。

 こいつをヒュンヒュンに改造するには、エンジンに光結晶をぶちこまないといけないんだよなぁ……

 あの結晶を上級者用遺跡で掘り出せれば、発掘屋として一人前っていわれてるんだけど。俺はまだ、そんな深部に潜れたためしがない。

 颯爽と追い抜いてった、あのゴーグルおっさんみたいのが入ってる発掘屋ギルドが、いいもんが出る遺跡に陣取ってるからだ。採掘料を取るわ、いい掘り出しもんはみんなピンはねされるわ、ひどいもんだ。

 俺もどっかのギルドに入れば、いい目を見られるんだろうけど。

 頑固なじっちゃんが生きてるかぎり、それは無理ってもん……

――「あら? ねえテル」

 突如。肩に乗ってるプジが、青い猫目の瞳孔をまん丸にした。

「ねえねえ。なんか落ちてくるわよ」

 東の空をじいっと凝視して言う。

「あん? 天使か?」

 そんなの日常茶飯事だろ? と俺は脇目もふらず、テケテケのハンドルのグリップをぐっしぐし回して、さらに出力を上げた。

 戦場で戦う天使たちは、撃ち落とされたら流れ星のように地に落ちるもんだ。

 でもプジは、ちがうのよーと、東の空をじっと凝視した。

「戦場じゃなくって、すぐそこよ?」

「はあ? すぐそこって、拡大して見てるから近く感じるんだろ? 肉眼じゃそんなにはっきりとは……もしかして、天使が戦闘区域からふっとばされたのか?」

「んーん。あの戦場からじゃないわよ。すごく上から落ちてきてる。輝いてるわね」

「うえ? それ、天使じゃないの?」

「わかんない。まぶしすぎて、中の形が見えないのよねー」

 プジの猫目がせわしなくしゅんしゅん稼動する。

 だがまぶしすぎて、もと機械兵士の眼をもってしても、それが何かは判別不能らしい。

 天使じゃなければ、本物の流れ星……つまり、隕石の可能性もあり?

 もしもそうだったら――

 とたんに俺の顔はにんまりにっこり。一瞬にして、目がきらーんと輝いた。

「材料! 加工材料ゲットできるじゃん! 隕鉄欲しいいいい! プジ、落下地点にナビ頼むわ」

「えーっ。ごはん……」

「結構近くなんだろ? そんなに時間かかんないって。じっちゃんに言って、特製カリカリ、倍にしてもらうからさー」

「もー」

 ぷんすかなプジがしぶしぶ、青い猫目で座標を測る。

 他の発掘屋に嗅ぎつかれないよう、俺はテケテケの調子を見るふりをして、そうっと舗装路から外れた。

「x750、Y133。今、地表に激突」 

「えっ? Y133? まじで近――」

「テル! 衝突衝撃波が来るわよ!」

 言ってるそばから、爆風のごとき突風が落下点から吹いてきて。

「おおわ!?」 

 俺のテケテケが横倒しになる。

「テル! 中心点の熱摩擦がすごい。爆風が来るわ!」

「ひい!? 地面に穴がぁっ! 開いてるうっ!」

 倒れたテケテケからよろりと這い出した俺の目に、落下点を中心に広がり来る爆発と、きらきら輝く何かが映る。

 落下点にあるのは、丸い、黄金のかたまり? 球体みたいだ。

 って、のんきに観察してる場合じゃない。

「プジ! 展開(ディストリクト)して結界張るぞ!」

「了解!」

「接合(コネクト)!!」

 プジが俺の背におおいかぶさって、俺の胸元で手を組む。

 とたんにプジの体が光りだす。毛がひっこんで。手の形が細く長く変わっていき。

 その背から、コウモリのような黒い翼が生えてきて。

 みるみる、左右に大きく広がる――

「結界展開(シールド・ディストリクト)!」

 ぐわっと黒き翼を展開し。

 まるで悪魔の使いのごとき姿になったプジが、周囲に結界を張ると同時に。

 落下点からぶおおおっと巻きあがるすさまじい熱波が、俺たちが立ってるところに到達した。

 赤い大地に生えてる枯れ草が、ぱっ、ぱっ、と焼かれて消し炭になってる。

 一瞬遅かったら、俺も大やけどどころじゃ済まなかったろう。 

「ひい! 俺のテケテケ! 結界の中に入ってねええ」

「あっ……ごめんテル。溶けちゃった?」

「あ、大丈夫みたいだ。バケツがひっくり返って、バクテリア鉱がはりついてる」

 そのおかげで助かった。この流体金属は熱を食ってくれるから、たぶんテケテケは焼かれることなく、また動いてくれるだろう。

 それにしても。

「これまじで、すごい……隕石じゃね?」 

 なんつう高エネルギーだ。どんな材料が取れるか、わくわくする。

 ごうごう吹き荒れる熱波をしのいだ俺たちは、風が収まるや、爆心地へと飛んだ。

 機霊化したプジが、ばっさばっさとコウモリのごとき翼をはばたかせる。

 俺たちはあっという間に、がっつりあいた大穴クレーターのまんまんなかの上空に至った。

「熱が急速に引いていくわ」

 椀状に開いた大穴の底にいるものを眺めおろすなり。俺たちは息をのんだ。

「おいプジ。これって……なんか、隕石じゃなさげ?」 

「倒れてる……」

 そこにあるものを、プジがしゅんっと青い目を眇めて睨み下ろし。

 低く唸るようにつぶやいた。

 

「モノじゃない。生物。人間――だわ」


アバター
2016/08/26 13:30
まぶしいわねえ に 反応してもた (;´Д`)

まぶしいわねえ 言われないように頭皮をシバカナイように用心中 (ロ_ロ)ゞ
同学年を見てたら 急変してるから 油断デキン (;´Д`)
アバター
2016/08/22 15:19
よいとらさま

お読みくださりありがとうございます><
大地はジャンクにあふれたイメージ^^
猫型機霊は分離型のようであります。

光の翼とコウモリのような翼……
天使と下界人……
いろいろ対照的に描ければいいなぁと思います^^
アバター
2016/08/22 15:17
カズマサさま

お読みくださりありがとうございます><
おそらくそうであります。
きっとあの子なのでしょう^^
アバター
2016/08/21 12:46
こんにちは♪

文明の余熱で生きる街に住む技術系少年と猫型機霊。
天から降ってきた人間。

変わり始めるであろう二人の運命の時間。


物語に馬力が出てきましたね^^
この先も楽しみです♪
アバター
2016/08/20 14:23
王様が落下したのですかね。




Copyright © 2025 SMILE-LAB Co., Ltd. All Rights Reserved.