機霊戦記第四話 銀の天使(前)
- カテゴリ:自作小説
- 2016/08/28 14:26:45
『うっしゃあ! メイ姉さーん、メケメケの修理終わりましたぁーっ』
おっきなトラック型の反重力推進機(メケメケ)の前で、ぴしっと敬礼する俺に。
おっきなお胸のメガネのおねいさんが、長いみどりの黒髪をなびかせて、嬉しげに微笑む。
『わああ、ありがとうテルちゃん!』
『どうですぅー? ついでにてきとーに、潜水機能もつけてみましたぜっ』
イエローなサブマリン体型になってるメケメケを、じゃじゃーんと披露する俺。
へへ、メケメケの修理なんて、超簡単だってばよう。
俺、悦に入って鼻の下を人差し指でこすりこすり。
『きゃーっ、テルちゃんほんとすごいー!』
メイ姉さんてば、りんごほっぺに両手当てて、腰をくねくねしてはしゃいじゃってる。
そうだろうそうだろう。
メイ姉さんはすっげえ頭よくて、超有名な学者さんのお弟子さんで、学校の先生してるかたわら、海に沈んだ都市を研究してるんだもんなー。
ご近所界隈で一番の才媛。俺たち教え子のマドンナだ。
『テルちゃん、さっそく海に行きましょ! 二人で海にもぐって探検しましょっ。伝説の水没都市から、貴重な遺物をひきあげるのよーっ』
『うおおお! いきましょお! 深海デートしましょお!』
ひゃあ。腕に抱きつかれちゃったぞ。
『テルちゃん。ほんとうに、あ・り・が・と♪』
人差し指で鼻をこする俺のほっぺたに、メイ姉さんの薔薇色の唇が近づく。
しかも、むにって。おっきなお胸が、むにっ、て。
俺の腕にいいい、食い込むうううー。
こっ、これは俺、さすがに鼻血出ちまうわ!
『変なものを垂らすな』
う?
あ、あれ?
俺の腕をつかんでるの、メイ姉さんじゃ……?
なんだか視界がぼやけて。目をこすってよくよく見たらば。
え?!
こいつって……?
短い銀髪。真っ白い肌。目がくりくりだけど、超目つき悪い……
『おい、なんで潜水艦にしたんだ。海になど、用事はない。僕が行きたいのは下じゃなくて、』
目つき悪い銀髪少年が、真っ青な天を、くいっと親指で指さす。
『天上だ』
どこまでも青い瞳が、俺を刺す――。
『い、いやでも、メケメケのエンジンで成層圏突破はさすがに、ちょっと無理……』
『いいから作れ。空を飛べるやつを』
ん? 腕に、むにっとした感触?
おお! こいつも結構ボリュームあるじゃないか。
え?
でもこいつ、男じゃ……ないっけか?
『なっ?! どこをつかんでる!』
『うーん? 胸が、あるぞ? でもおまえ、回復カプセルに入れた時見たけど、ちん○んついてたよーな……』
『こら! もむな!』
『ふが?! ふががががっ』
急にメイ姉さんからこいつに変わったっていうことは、これって夢じゃねえの?
つつつつまり、何でもし放題じゃねえの?
なのに。
『なにをする!』
『ぎええ! 首絞めるなー! ぐぐぐぐるじいー!』
い、痛いぞこれ。爪食い込んでるぞ?! 襟首ひっつかんで、もう片方の手で首絞めてくるって。こいつなんか、えらい強いぞーっ。
――「ぐががが! ややややめろおお!」
はしっと首をおさえ、俺はがばりと起き上がった。
よ、よかった。なんかマジでゲフゲフ咳き込んでるけど、やっぱり夢だったらしい。
周囲を見れば、いろんな配管むきだしの、うす暗ーい、俺の部屋。
アイドル歌姫ヤスミンちゃんのポスターが貼ってある壁を見て、ホッとする。
まごうことなくわが身が在るのは、天井から吊ってる俺のベッド――ゆらりら~なハンモックの中だ。
まあ、実際のとこはさ。俺、メイ姉さんにあ・り・が・と♪ なんて言われなかったんだよな。
三日前のあの時、テケテケひっくり返っちゃって。バケツもひっくり返っちゃって。爆心地からこそっと回収した拾いもんをじっちゃんに預けて。もう一度バクテリア鉱物発掘しに行って戻ったらさ。
ダチでテケテケ・メケメケ製造会社に就職したショージに先を越されてた。
メイ姉さんに(たぶん)ほっぺチューされたのは奴。って、俺が「修理もう一日待って!」って待たせちゃったのが悪いんだけどさぁ。
『ごめんねテルちゃん。ショージくんが見かねて、新車買ってくれちゃったのー。これが調子悪くなったらね、今度こそテルちゃんに修理してもらうね?』
ああ……メイ姉さんに気を使わせちまったし。もうほんと、残念でならねえ……。
しっかし、ひどい夢だったなおい。
「う?」
いや……夢……じゃない? のか? そばに誰か……。
「このやろう……! いくら寝ぼけてても、やっていいことと悪いことがあるぞ」
「ひい! いる!」
ベッドのそばで銀髪少年が腕組みして――ていうか、胸を隠すようにして、超不機嫌な顔でこっちを睨んでる。
敵意満々っていうか。ちょっとほっぺた赤いっていうか。
こいつって……
三日ほど前に俺が拾った奴だ。あの、天から星のように何かが落ちてきて、でっかい大穴ができたところから……
「おお! 意識もどったのか! 起きて歩き回ってるってこたぁ、回復カプセルの治癒が完了したんだな? よかったなー!」
銀髪のそいつは、冷ややかな眼で俺を眺め下ろしてる。その表情に違わず、口調もめちゃくちゃ冷徹だった。
「……汗臭い」
「え」
「おまえが、シング技師の孫のテルか?」
「そ、そうだけどえっと……」
「指摘通り、さきほど、回復カプセルの中で目覚めた。そばにいたシング技師から、ここのことをあらかた聴取した。二人で、リサイクル製造業というものを営んでいるそうだな」
こいつ。なんだかすごく偉ぶってるなぁ。上から目線がはんぱないよ。
「もう一度確認するが、僕をこの掘っ立て小屋に運んできたというのは、おまえで間違いないな?」
「そ、そうだけど」
たしかに掘っ立て小屋だが、面と向かってはっきり言われると、なんだかちょっと微妙に心がずきんとする……もんなんだなぁ。
「よろしい。ここに運び込んで管理治療してくれた礼を述べる。おまえの行為は勲章ものだから、これから然るべき措置をとる。だが、今からすぐに風呂に入れ。でなくば、僕の右の手におまえが口付けることを、許す気にはならぬ」
「はあ?! 口付けぇ?!」
――「うるさいわねー。おフロなんて、絶対いやよぉー」
ふしゃーっと、猫の怒り声が足元から聞こえる。
俺のハンモックの中で、一緒に気持ちよくお眠りになってたプジが、安眠を妨害されて怒ってる。半分寝ぼけまなこだ。
「えっと。もしかしてまだ、朝になってないんじゃ……」
窓の外から見える空は、そこはかとなく赤みが挿し始めている紫色。
「やっぱり。プジは自分の腹時計が鳴る前に起こされると、めっちゃ怒るんだよ。まさかじっちゃんも、叩き起こしたのか?」
「緊急事態だから当然だろう」
うわ……こいつほんと目つきワルいな。
たぶん島都市コロニアに住んでる奴なんだろうなぁ。
気位、めちゃくちゃ高そう。
「とにかく、風呂に入ったら、作れ」
「はい?」
「急いで作って空に打ち上げろ」
尊大で目つき悪い銀髪少年は、夢と似たようなことを言ってきた。
「天上と連絡がつくものを、今すぐ」

-
- カズマサ
- 2016/08/28 20:45
- これは作る範囲が違いますね。
-
- 違反申告