機霊戦記 第四話 銀の天使(後)
- カテゴリ:自作小説
- 2016/08/28 14:33:04
名乗らないエラそうな銀髪少年は、薄くて綺麗な模様が織り込まれたひらひらの衣一枚、といういでたち。端末フォンのようなものは、何も持ってない。
三日前に拾った時は、背中が焼けてて結構な重症で。
傷を見たじっちゃん曰く(えらく悲愴な顔で)、
『翼をもがれた鳥のようじゃなぁ』
つまり体内に機霊が埋まってるらしいって見立てだったんだが。怪我の回復を優先させたんで、そこんところはまだよく分かんねえ。
察するに、島都市(コロニア)にある家と全く連絡つかねえってことは……発信機能とか持ってるはずの機霊が、完全に壊れてるってことなんだろう。
「できれば直接、島都市(コロニア)の某所に打診できるような端末が欲しい。シング技師にも聞いたが、おまえたち本当に、どこかの島都市(コロニア)に知り合いはいないのか?」
「俺もじっちゃんも、一度も島都市(コロニア)なんか行ったことねーよ」
「嘘としか思えぬな。僕が目覚めたここの地下は、すごい設備だったぞ。まさか大陸にあのレベルの工房があるなんて……おまえの祖父は一体何者だ?」
「はぁ? ただの技術屋のじーちゃんだぞ? ほんと、天界にはつてもコネも全然ねえってばー」
顧客(カスタマー)はいるけど。
という言葉を、俺は呑み込んだ。
じっちゃんがどこまで俺たちのことをこいつに話してるか、分かんなかったからだ。
銀髪少年は、俺がカラスの行水をするまでびっとり張り付いて、「風呂に入れ・風呂に入れ」とうるさかった。
石鹸を使えだのちゃんと洗えだの、シャワー室の向こうからいちいち言ってくる。
「あーもう、うっせえ! 黙ってろ!」
がつんと言ったらだんまりになって。
やっと静かになったと思いつつ、いつもより少し念入りに体洗って、タオルひっかぶって出てみたら。
「アル……返事してよ……」
銀髪少年は、壁に背もたれる形で小さくしゃがみこんでいた。
かなり精神的なダメージを受けてる雰囲気。体がかすかに震えてる。
え。俺のせい? って一瞬怯んだけど違った。
相棒の機霊の調子が相当悪くて、うんともすんともいわないらしい。
それでがっくり落ち込んでるようだ。
って……あれ?
ちまたで一般的な体内融合型機霊って、遺伝子の関係で女にしか憑かないはずだけど……。こいつって、男……だよな?
「あの。あんたって……」
不用意に話しかけたら、ぎろっと睨まれた。
さっきまでのしおらしい雰囲気が、あっという間に氷の刃を突き出してくるような鋭利なものに変わる。
銀髪少年はすっくと立ち上がり、めちゃくちゃ尊大な顔で右手を差し出してきた。
「テル・シング」
「な、なんだよ?」
「綺麗になったとはいいがたいが、匂いは消えたから、僕に礼を取るのを許す。ひざまづけ」
「はあ?!」
ななななんだこいつ? エラそうじゃなくて、ほんとにエラい奴なのか?!
――「ごはーん。ごはーん、ちょーだいー」
その時タイミングよく? 完全に目覚めたプジが、俺の部屋から降りてきた。
それに呼応するようにうちのじっちゃんが、ひょっこり地下の階段から顔を出す。
銀髪少年に起こされたもんで、そのまま工房で作業してたらしい。
「おう、タマ。ごはんか。よしよし」
「タマじゃねーし!」
じっちゃんは、俺が作ったプジを猫かわいがりしてる。特製カリカリを自分で作ってあげてるぐらいなんだけど、なぜか名前はかたくなにタマと呼ぶ。
じっちゃんって、頭は真っ白でたてがみのように猛ってるし。しわくちゃだし。まだボケてないと信じたいが、微妙なお年頃ではある。
正直、銀髪少年にひざまずくのが嫌だった俺は、心底ホッとした。
じっちゃんはにっこり満面の笑み。そして俺にとっては、大変ありがたい助け舟を出してくれたからだった。
「みな起きたようだから、ごはんにしようの。ほれほれテル、お客さんにパンをだしてあげなさい」
「了解っ!」
こうして「礼を取る」っていうのをうやむやにした俺は、せまい台所でカリカリをほうばるプジと一緒に、銀髪少年の様子をさりげなく伺った。
銀髪少年は、やっぱり普通の家の奴じゃないようだ。
パンの食べ方が俺たちと全然違う。指で上品にちぎって、口に運んでる。
しぐさは優雅だが、態度は……かわいくない。
じっちゃんが愛想よく穏やかに事情を聞こうとするんだけど、終始寡黙。
「しかしご災難でしたなぁ。背中に、バクテリア鉱がついておりましたからな。はがすのが結構大変でしたぞ」
じっちゃんがそう言うとようやく、目つき悪男わるおは反応してきた。
「バクテリア鉱……それがとりついて、飛べなくなったのか」
「珍しい熱性のものでしたぞ。よく見られる、熱を食う氷結性のものとは正反対の性質でしたな。あれは人工的に生成されたものでしょう」
「ふむ……人工的なもの、か……」
「どうですかな? もしよろしければ機霊の方も――」
「いや、いらぬ世話だ。たしかに機霊は壊れているが、我が家の専属技師に修理させる」
「ほうほう。そうですかのう」
やっぱりこいつも、島都市(コロニア)の天使か。
俺たちが住む大地を「戦場」にして、壊しまくってる奴らってことだよなぁ。
「ところで、お名前は? なんとお呼びすれば、よろしいですかの?」
じっちゃんがカップに入れたココアを渡しながら、とても柔らかな声で問うと。
目つき悪男はしばらく黙って考えてて。それからようやく、ぽそりとつぶやいた。
「……アムルと」
「ほうほう、アムルさんですな。了解了解」
「おい」
目つき悪男はカップに口をつけ、ひと口飲んだ瞬間。
まるで電撃が走ったように固まった。
眼をこぼれ落とさんばかりに、おっきくまん丸にして。
「この泥水……なんだ?! 美味だ。もっとくれ」
お読み下さりありがとうございます><
ねっからの天人アムルくん。庶民代表?テルくん。
対称的な二人、これからどうなるんでしょうか。
ココア~つめたいのもおいしいですよね^^♪
お読み下さりありがとうございます><
ココア、合成みたいですけどあまーくておいしいみたいですね^^
天界にはないものなのでしょうか・・・
大陸の工房に収容された天の者
大陸の工房に住む地の者
どこかかみあわない、すれ違う感覚が
楽しいです^^
栄養満点の泥水「ココア」
寒い時期も美味しいですが
夏も氷を大量投入して冷やしたものを
おいしくいただいています♪
さて今後はどうなるのですかね。