Nicotto Town


ま、お茶でもどうぞ


自作ドラゴンクエストⅡ~悪霊の神々・200

 雷鳴がとどろいていた。大蛇のような稲妻が周囲を駆け巡っている。
「――っ!」
 ロランは、拳で床を打った。
「勝てないのか、どうやっても!」
 拳を床に置いたまま、ロランは顔を上げなかった。ランドも沈痛にうつむいている。
(本当に、本当にそうなの……?)
 ルナは闇に浮かぶ邪神を見上げた。やがて来たる破滅の刻(とき)を喜び、シドーは高らかに吼えた。
 ロランが強いのは、常人離れした腕力や身の守りなどだけではない。戦いの最中、体の奥底から湧き上がる超人的な攻撃力の発揮――会心攻撃があるからだ。その驚異的な一撃があったから、これまでの戦いを勝ち抜けたといえる。
 だが、今はロランの持つその力が押さえられているらしい。
 これが神の力なのか。それとも、神を前に、心の奥で畏れが自らを縛っているのか。
 ロランはまだ顔を上げられなかった。ランドが弱々しく笑った。
「きっと、ぼく一人の命じゃ、あいつは道連れにできないだろうなぁ……」
 笑えない冗談に、ロランもルナも応える気力がない。
 おそらくシドーは魔法攻撃も効かないだろう。それ以前に攻撃が激しすぎて、こちらの生存のために呪文を使わざるを得ない。
 しかも向こうは全快の呪文を使うのだ。長引けばいずれこちらが落ちる。
 ルナはふと、左手首に目を落とした。長旅のために色あせ、ぼろぼろになった編み紐がはまっているはずだった。だが、邪神の業火には耐えきれず、いつの間にかなくなっている。それをくれた、ムーンペタの町に住む小さな女の子の顔が浮かんだ。
「……ロラン。ランド」
 ルナは二人を見た。呆然とこちらを見返す二人に、ルナは決然と言った。
「……聞いてくれる?」


「そんな!」
 ランドが反論した。
「無茶だよ! パルプンテは効果が一定しない。魔力の暴走に頼るなんて危険すぎるよ!」
「でも、きっとあなた達の力になるはずだわ」
 ルナは決意を変えなかった。
「発現する効果、すべてが味方になってくれる。使う私が言うんですもの、間違いないわ」
「それじゃあ君はどうなるんだ?!」
 ロランは詰め寄った。
「そんな不安定な魔法、たくさん使ったら君だって危ないんじゃないのか?!」
「――今は命を惜しんでる場合じゃないでしょ!」
 ルナが怒鳴った。ロランとランドが怯えたように黙る。怒ったことをわびるように、ルナは淡く微笑んだ。
「そうでしょ? 私達、どんなことしたって、あれを倒さなきゃならないでしょ?」
「ルナ……」
 ロランは拳を握りしめていた。そうだね、とランドも言った。観念したように。
「16年ってさあ……ぼく達、結構生きたよねえ?」
 ランドがロランの顔をのぞきこんだ。つられて、ロランも笑いをこぼしていた。
「……そうだな。楽しかった」
 顔を上げると、ルナに言った。
「援護、頼む」
「まかせて」
 気丈にルナはうなずいてみせた。


(――私の中に眠る力。今世に私を生んだ勇者ロトの血よ)
 いかずちの杖を正面に握り、ルナは意識を自分の深奥へ集中させた。
(我が命と力を捧げる。千変万化の魔の力、二人の翼となり羽ばたきたまえ!)
 ルナの全身が金色に光った。ルナの内側から発せられる光は、赤い双眸を鮮やかに輝かせる。
 ざわっとルナの金髪が騒いだ。足元から風が巻き起こっていた。放たれる光が七色に明滅する。
 ルナの深奥で、光の鳥が羽ばたこうとしていた。ルナは念じた。
(飛びなさい!)




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