Nicotto Town


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自作ドラゴンクエストⅡ~悪霊の神々・202

 それを見たランドは直感した。叫んでいた。
「ロラン! 稲妻は――君の味方だ!!」

 雷鳴がとどろいた。
(――ああ)
 ロランは束の間瞑目し、剣を握りしめた。
(そうか。勇者って……そういうことだったんだ)
 ここで負ければ、自分達が背負ったすべての命が死ぬ。相対するのは、言葉も小賢しい知恵も持たない邪悪の化身だ。求めるのはただ殺戮と破壊のみ。
 これを討つことができるのなら。すべての命を守れるならば。
(命なんて惜しくない)
 毅然と顔を上げると、ロランは稲妻の剣を天に掲げた。
「稲妻よ、僕に落ちろ!! 僕の全部を使って、邪神を討つ剣(つるぎ)となれ!!」
 天が割れた。太い稲妻がロランの剣に走った。
 脳天から足先まで貫く衝撃に、ロランの視界が真っ白に染まる。
 全身にみなぎる強い衝撃にロランは打ち震えながら足場を蹴った。歯を食いしばった。天から下った白い力は、内側からロランを滅ぼそうとしていた。意思を強く持たないと、すぐにばらばらにされてしまいそうだった。
 両手で剣を振り上げながら、ロランは祈っていた。
(この一撃に、神を討つ力を!!)
 稲妻の剣がうなり、三回りも大きな光をまとう。ロランは目の前に迫ったシドーの脳天へ一気に振り下ろした。
「うおおおおおっ!!」

 閃光。
 
 シドーが絶叫し、空間が割れんばかりに鳴動した。
 ロランは落下しながら邪神の頭頂から股間にかけて断ち割った。その筋が金色に光り、脳天から股下にかけて隙間が生じる。と、喉元が急激に膨れあがり爆発した。血や肉が飛び散る中、無傷のロトの剣が雷光を浴びて回転しつつ落下する。剣が床に突き刺さった直後、邪神の巨体は光の柱となって天を貫いた。

 世界の人々は見た。ロンダルキア台地から立った巨大な光の柱が暗黒の天空をうがち、そこからまばゆいほど鮮やかな青空が広がっていくのを。
 
「ロラン!」
 力の盾で体力を回復させたランドとルナが、手をついて着地したロランに駆け寄ってきた。
「やったあ、やったよぉロラン!」
「うん、もうだめかと思ったけど……うわっ?!」
 ロランはのけぞった。ルナがいきなり抱きついたのだ。
「ルナ……」
「勝ったのね。私達、本当に世界を守ったのね……!」
 泣きじゃくるルナの背を、ロランはそっと抱いた。
「……ああ。やっと終わったんだ……みんなのおかげだ」
「うん。ぼく達、お互いよくやったよね!」
 少し得意げなランドの言葉に、ロランとルナも吹き出した。すると、ルナの鞄が青い光を放ち始めた。
「復活の玉が……?」
 ルナが両手で青い宝玉を取り出すと、玉がふわりと宙に浮かんだ。優しい光を放ちながら、美しい娘の声を奏でる。
 ――ロラン、ランド、ルナ。あなた達の働きで、破壊の神シドーは滅びました。これで世界に平和が訪れることでしょう。
「――ローラ様!」
 ルナが宝玉へ呼びかけた。
「いつも私達を神に代わって見守ってくださったのは、ひいおばあ様だったのでしょう? お答えくださいませ!」
 宝玉はきらきらと輝いていた。ロラン達にはそれが、うなずきを表しているように見えた。
 ――神や精霊は、人の生きる世界を整え、普遍の道を示すもの。陰に日なたに庇護する存在ではありません。万能の力と誤りのない予言が人を導くのなら、何のために人は努力し、また悲しみを前にするのでしょうか。
「……でもローラ様はぼく達を助けてくださいました。精霊ルビスでさえ、ぼく達が精霊の祠に行くまで、何もお答えくださらなかったのに」
 ランドが言うと、光は微笑んだようだった。
 ――いつの世も、人は自らの子がかわいいもの。ましてあなた達は、とても重い宿命を背負っていました。魂の源からあなた達がこの地上へ降り立つ時、私は天に願いました。神が直接お守りくださらないのなら、私にその役目を担わせてくださいと。あなた達がつらい時、喜びにある時、私もともにありました。けれどその役目も、終わりが来たようです……。
「ローラ様……」
 ロランも何か言おうとしたが、何を伝えていいかわからなかった。ただ、涙があふれた。
 すると、玉がまとう光は人の姿に変わった。暁色の髪を持つ、美しい姫君だった。
 姫は励ますようにロランの頬に片手を当てた。そして天を仰ぎ、両腕を広げる。
 ――おお神よ! 私のかわいい子孫達に光あれ!
 途端、復活の玉がまばゆい光を放ってロラン達を包んだ。全身の傷が癒える心地よさとやすらぎに、3人は思わず目を閉じる。
 ――さあ、お行きなさい。私はいつまでもあなた達を見守っています……。
 どこからともなく、姫の声がロラン達に届いた。すると、まるで待っていたかのように床が振動しだす。
「これ崩れるんじゃない?!」
 ランドがあわあわした。ルナも拳を口に当てる。
「ちょっと、もう魔法使えないわよ!」
「二人とも、つかまれ!」
 ロランは急いで風のマントを身に着けた。二人が両脇にしがみつくと、走って床を蹴る。3人が飛び立つと、邪神を祀っていた双塔の神殿が崩れだした。少し離れたところに着地すると、折良く神殿も崩壊を終える。
「あ、あれ!」
 ランドが、神殿を振り返って声を上げた。見ると神殿の土台から、数え切れないほどの光り輝く球体が天へ向かって上昇している。
「魂だ……今まで犠牲になった人達の」
 ロランはロトの兜を脱ぎ、黙祷した。ランドとルナも胸に手を当て、天に昇る魂達を見守る。
 やがて最後の魂が天に消えゆくと、ランドがこちらを見た。初めて気づいた、という顔だ。ルナもつられてこちらを見て、同じ顔をした。
「なんだ?」
「――ううん。君は、大丈夫かなって思って」
「どうして?」
「ほら……君、雷に打たれただろ? ぼくが"雷は君の見方だ!"なんて言ったから、だから……」
 ランドがロトの剣を差し出した。曇りのない刀身に自分を映して、ロランはぎょっとした。
 髪の毛と眉が銀色だった。ロンダルキアの雪にも負けぬ、鮮やかな白髪である。
「――」
「ごめん」
 絶句するロランに、ランドが眉を下げ、口をへの字にした。
「君ひとりに背負わせてしまったね」
「――そんなことない」
 ロランは微笑み、ランドの髪をかき回した。
「なんでも自分のせいにするなよ。僕もそう望んだんだから」
「本当に大丈夫? 体は?」
「なんともない。平気だよ」
 ルナの心配に、ロランはにっこりした。雪原の風が銀色の髪を梳いていく。片手でなでつけ、済みきった空気を胸一杯に吸いこんだ。
「さあ、帰ろう」
 二人に向かって、ロランは言った。あれほど恐れていた言葉――旅の終わりを告げる言葉を。
「うん!」
「ええ!」
 ランドとルナも満面に笑ってうなずく。でもその前に、とルナが言った。
「寄らなきゃいけないわ。あの場所に」




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