Nicotto Town


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自作ドラゴンクエストⅡ~悪霊の神々・203

「よくぞ来た、ロラン! わしはそなた達をずっと待っておった!」
 神官ジェリコが誇らしげに言い放ち、その後うっと声を詰まらせた。
「……最初にこう言いたかったのだ……。しかしそなたは破壊の剣に呪われ、人事不省であったしなぁ……」
「……申し訳ありません」
 ロランは素直に頭を下げながら、前にもこんなことがあったなと思った。そうだ、聖なる祠でロトの兜を受け取った時だ。
 ジェリコの娘である尼僧マリアンヌがつつましく笑った。
「お父様は本当に、その台詞を言うのが夢だったんですよ。よかったですわ、こうしてかなえることができたのですから」
「うふふ、ほんとね」
 ルナも同調して笑う。いささか照れくさげにジェリコが咳払いをした。
 ハーゴンの神殿跡から、ランドがルーラで天意の祠に飛ぶと、中で二人がうれしそうに出迎えてくれたのだ。そしてこのくだりである。
「そのせつはお世話になりました。あなた達がいてくださらなかったら、今頃はどうなっていたことか」
 ランドが丁寧に頭を下げる。
「うむ。そう言ってくれるとこちらも喜ばしい限りだ。そなた達のおかげで、世界は救われた。暗黒に染まった空が元通り晴れ渡った奇跡を、皆が見ているぞ。わしの千里眼には、世界中で歓喜する人々の姿が見える。もうハーゴンの脅威は消え去ったのだと、皆が皆伝えあっておる」
「わたくし達がそのお手伝いをできたこと、誇りに思いますわ。これでお役目を終わらせ、神の御許にゆくことができます」
「そうだったわね、あなた方は、もう……」
 ルナが痛ましげに二人を見る。ジェリコとマリアンヌは一度ハーゴンの手にかかって命を落とした。だがその身を天に拾われ、この世ならざる者としてとどまっていたのだ。ロラン達をハーゴンの神殿へ導くために。
 そのことに気づいたロランは、思わず尋ねていた。
「……つらくなかったのですか。死さえも自分の意思と反してねじまげられ、この場にとどめ置かれたことを」
 マリアンヌは淡く微笑んだ。
「ロラン様、ありがとうございます。お気遣い、うれしく存じます。でもわたくし達は望んでこの場にとどまったのです。ハーゴンと邪教によって世界が滅びに向かうのを、わたくし達はどうしても止めたかった。神はその意志を拾い上げてくださったに過ぎません。もしあなたが同じ立場なら、同じように願ったことでしょう。自らを灯火となしても、それを成し遂げる人への助けになりたいと」
「……おっしゃる通りです。愚問でした」
 ロランが謝罪すると、ジェリコが深くうなずいた。
「そう感じる気持ちが大切なのだ。相手を思いやることは恥ずかしいことではない。それにそなたらも、ハーゴンらを倒す時、そう願って戦っていたのではないかね? 自らを剣と化してでも、弱きものらを守ろうとしたのではないかな」
 3人は強い目でうなずいた。うんうん、とジェリコは微笑んだ。
「さあ、あそこに見える旅の扉からベラヌール法王庁に戻れるぞ。この祠ももうじき崩れる。ゆくがよい。達者でな」
「はい。ありがとうございました!」
 祭壇の向かい側の壁に渦巻く旅の扉の前で、ロラン達は頭を下げた。そして一緒に青い渦に踏みこむ。一瞬で姿が消え、静けさが堂内に戻った。ジェリコとマリアンヌは、寂しそうに旅の扉を見つめていた。
「……終わったな」
「ええ。……さあ、わたくし達も参りましょうか」
「うむ……ゆこう、天の御許へ」
 親子は向き合い、手を取りあった。二人の姿がおぼろにかすみ、二つの光球となって消える。同じくして、ロラン達を送った旅の扉もかき消えた。

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