Nicotto Town


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自作ドラゴンクエストⅡ~悪霊の神々・204

最終章

【勇者達の凱旋】

 天意の祠にあった旅の扉は、ベラヌール法王庁の執務室にある旅の扉と直結していた。ロラン達が出現すると、法王ハミルトをはじめ、多くの神官や僧侶、異端審問官までもがそろって拍手したので驚いた。
「いましがた、暗黒に包まれていた空がきれいに晴れ渡ったのです。おそらく殿下達が邪神官ハーゴンを倒した証であろうと、ここでご帰還をお待ちしておりました」
 ベラヌールの町もこの奇跡に沸いているという。ぜひ祝賀の宴にというハミルトの招待を、ロラン達は丁寧に辞退した。まずは自分達の国へ戻って報告したかったのだ。
 落ち着いたらまた後日に歓待を受けると約束し、3人はランドの唱えたルーラでルプガナへ飛んだ。町と港の主であるルートンに借りていた船を返すためである。
 ルプガナも、空が反転した奇跡にもちきりだった。ロラン達がルートンの屋敷に行くと、自分の孫が帰ってきたかのようにルートン老は喜んだ。ルートンの孫娘エレーネも、最近結婚したたくましい船乗りの夫と出迎えてくれた。
 ルートンも町を代表してロラン達を招きたいと申し出たが、3人は固辞した。
 返した船は、またいつでも貸すとルートンは別れ際に言った。やる、と一言で言わないのがいかにもルプガナの男らしいが、好意はありがたかった。彼らの見送りを受けて、3人はルーラで町を後にした。


 そしてロラン達はムーンブルク城に来ていた。ハーゴンの放った魔物達によって惨殺と破壊が行われた場所は、穏やかな昼の日差しにたたずんでいた。
「瘴気が消えている……」
 城と城下町を見て、ロランは驚いた。毒沼に汚染されたムーンブルク城は、かつてその姿もおぼろげなほど濃い瘴気に覆われていた。だが、毒沼は無害な湿地と化し、徘徊していた毒蛇や虫、動く死体も見当たらない。
「ルナ!」
 ランドが声を上げた。ルナが待ちきれないといった風に城へ駆けだして行ったのである。
 ロランとランドも追いかけ、崩れた城門をくぐって城へ入った。すると、入って正面にあらわになっている謁見の間で、亡くなったムーンブルク王をはじめとする城の人々が並んで立っているのだった。
「お父さま!」
 涙声でルナがムーンブルク王に駆け寄ると、王は慈愛を浮かべてルナへ両腕を広げた。
 ――おお、我が娘ルナ。よくぞ無事で戻ってきたな。そして、よくぞ使命を果たした。おかげで我らが無念も晴れ、今ようやく、天の国へ旅立つことができる。
「お父さま、私……」
 ルナは何か言おうとしたが、嗚咽が代わりにあふれた。王は優しく娘の頬に手を当てた。かすんでいたが、ぬくもりは伝わっただろう。
 ――ルナ。そなたが我が娘でよかった。達者でな。ロラン王子、ランド王子と、これからも世界を守ってゆくのだぞ。
「お父さま、私、きっとムーンブルクを復興いたします。また元のように、みんなが暮らせる場所を」
 王は、なぜか励まさなかった。ただ穏やかにうなずいた。そして、ロランとランドへ向き直ると、一同そろって深々と礼をした。王の隣に、ルナの婚約者になるはずだった若き騎士、キースの姿もあった。
「……さようなら」
 ランドが涙をこらえて言うと、それがきっかけだったかのように、王達は一斉に光り輝く球体となった。天井に空いた穴から次々と天へ昇っていく。
「お父さま……。キース……」
 ルナは頬を伝う涙を拭いもせず、最後の魂が天へ消えるまで見送った。


 サマルトリア城は、沈鬱な雰囲気に包まれていた。空は晴天に戻ったものの、城の主である王とその娘のアリシア王女が悲しみに沈んでいたからである。
 ロンダルキアの地でランドが命を落としたのだと、王とアリシアは家族の直感で確信していた。それを伝え聞いた城の人々から城下にも話が伝わり、皆があののんき者の王子を悼んでいた。
 だから、当の本人がロラン達とのこのこ現れた時、城の門番の第一声が「でででで出えたあーーー!!」であった。さすがのランドも憮然とする。
「……ちょっとひどくない? いくらぼくが期待されてなかったからってさあ……。そりゃあたしかに、1度死んだけど」
「正確には2回だけどね……」
 ルナが小声で言い、ロランが吹き出した時。
「ランドー!」
「おにいちゃーん!」
「うわ! 父さんにアリシアまで?!」
 一報を受けた王とアリシアが、しきたりを無視して城門まで走ってきた。なりふり構わずランドに二人で抱きつき、おいおいと泣く。
「よかった、ランド、わしはてっきりお前が……あの地でっ……」
「うわーん! お兄ちゃんが帰ってきた! おばけじゃないよね、ね?」
「大丈夫だよ、ほら、だから離れてっ。みんなが見てるよ」
「おお、そうであった」
 王衣で構わず洟を拭い、王は威儀を正して咳払いした。皆で謁見の間に行き、王は玉座に座ると、改めてロラン達を見た。アリシアは王の隣に立つ。
「ロラン王子、ルナ姫、そしてランドよ。よくぞハーゴンを討ち、世界を平和に戻してくれた! サマルトリア国民一同、お礼申し上げる。ランドはいささか頼りないところがあったが……そなた達の役に立ったようで何よりだ」
「とんでもない」
 ロランは笑顔でかぶりを振った。
「ランドがいてくれたから、目的を果たすことができたんです。頼りないどころか、もう僕の右腕です」
「そうか。成長したのだな……」
 我慢していた涙がまたこぼれて、王は急いで目元をハンカチで拭った。
「ローレシアには、先ほど伝令をルーラで飛ばした。今頃はローレシア王ともども、皆がロラン王子の帰還を待ち望んでいることだろう。わしとアリシアも、夜にはそちらへ向かわせてもらう。さあ、ランド、ロラン王子をローレシア城へお連れせよ」
「はい!」
 晴れやかに返事をし、ランドは華麗に一礼した。去り際、アリシアがランドへ駆け寄って言う。
「お兄ちゃんやったじゃない! あたし見直しちゃった!」
「こらぁ」
 ランドは腰に両手を当てて妹をにらみ、こつんとやる真似をした。
「なまいきだぞ、こいつ」
「えへへ……」
 アリシアが笑うと、ランドも笑って妹の頭をなでた。見ていたロランとルナも、なんだか幸せな気分になって微笑んだ。
「さあ、行こう!」
 ランドが言い、王達が城の外で見送る中、ルーラの呪文を唱えた。




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