Nicotto Town


ま、お茶でもどうぞ


自作ドラゴンクエストⅡ~悪霊の神々・205

 ローレシア城下に降り立つと、すでに衛兵が2人、馬車を仕立ててロラン達を待っていた。城下は出店が出るなどして大騒ぎだ。城へ向かって道を歩かせると、人々が王子をひと目見ようと押し寄せるため、馬車を用意したのだという。
 馬車の窓から、ロラン達は喜びに沸き返る人々を見た。よかった、と改めて思う。苦しかった戦いや傷の痛み、恐怖も癒されていくようだった。
 城門で降ろされると、ロランは城を見上げた。中へ、とうながす衛兵にも応えられない。こんなに緊張したのは初めてだった。
「なあに、あがってるの?」
 ルナがからかうようにロランをのぞき込む。む、とロランはルナを見返した。
「そんなんじゃないよ」
「じゃあさっさと行きなさいよ、かっこいい王子様」
「よせってば……」
「ほら、お父上も待ってることだし」
 ランドも急かす。やっぱり自分はあがっていたのだと、ロランは認めた。観念する。
「うん。わかってる……」
 深呼吸すると、ロランは城の中へ足を踏み入れた。途端、弾けるような歓声が湧く。赤い絨毯が敷かれた通路には城の人々がこぞって立ち、儀仗兵がラッパでファンファーレを吹き鳴らした。紙吹雪が舞う中、ロラン達は奥で待つ王の元へと進む。
「ぼくの時と違う……」
 またも憮然とつぶやくランドに、ルナがぷっと吹き出す。しかしロランは笑える余裕がなかった。硬い面持ちで父王の元にたどり着く。ランドとルナは気を利かせてか、ロランの少し後ろに離れた両脇に立った。
「父上。ただいま戻りました」
 ひざまずいたロランに、父王は深々とうなずいた。
「うむ。よくぞ戻った、ロラン。そしてランド王子、ルナ王女。よくぞハーゴンを討ち果たしてくれた。世界が邪教の脅威から去ったことを、皆が喜んでおる。ローレシア国民一同、感謝している。ありがとう」
 王が言うと、集まった人々が歓呼と拍手の嵐を浴びせた。ロランは立ち上がると、迷ったが、意を決してロトの兜を脱いだ。現れた銀髪に、父王や近臣マルモア達が目を見開く。場が静まり返った。
「お、王子、その髪は……」
 マルモアが震えてロランの頭を凝視した。ロランは苦笑して言った。
「戦いの間に、こうなったんだ。体はなんともないよ」
「そうか……。さぞ、つらい戦いであったのだな……」
 父王もそう言うのがやっとだった。つらい、と一言で片づけるのが心苦しいが、それしか言葉が見つけられなかったのだと、苦渋に満ちた白い眉が語っていた。
「1年遅れたが、今からローレシア建国100年祭を5日間にわたって行う。正式な式典は明日にして、今宵はまず、その体を休めるがよい。さあ、ランド王子とルナ王女もこちらへ」
 うながされ、ランドとルナもロランの傍らに立った。ローレシア王は一同を見て、高らかに宣言した。
「これより、ローレシア建国100年祭を開催する。そして我らはこの日を忘れまい。勇者ロトの子孫が、再び世界に平和を取り戻したことを!」
 人々が万歳を叫ぶ。ファンファーレが再び高らかに王子達の凱旋を歌い上げた。ロラン達は城下を見渡せるバルコニーに導かれた。3人の姿を待ち望んでいた人々が、一斉に感極まった声を上げる。夕暮れの空に、花火がいくつも打ち上げられた。
「きれいね」
 人々に手を振り返しながら、ルナがうれしそうに色彩閃く空を見上げる。
「でも、私がイオナズンを放ったら、もっと派手なのが打ち上がるかも」
「あ、それならぼくのベギラマも合わせたら色がきれいになるんじゃないかなぁ」
「そうね、今度練習しましょうか?」
「いいねえ」
「冗談だろ……?」
 色と音が弾ける中、3人は笑い合った。そこへ父王も来て、共に空を見上げる。しばし花火に見とれていたが、やがて真顔でロランに言った。
「……ロラン。こうしてお前が若くして偉業を成し遂げたことは、機をうながしているのやもしれぬな」
「父上……」
 喜ばしい気分が一気に消し飛び、ロランは笑みを消して父を見た。
「そろそろ、わしもそなたに王の座を譲る時が来た。ロトの子孫がその名に恥じぬ功績を残した、このことはそなたが将来を築くのに強い礎となるであろう。この機会が重要なのだ」
 ランドとルナもはしゃぐのをやめて、静かにロランと王を見ていた。ロランは返事をしなかった。
「近いうちに、即位の礼を行う。嫌とは言わせぬぞ」
 ロランは黙っていた。いくつもの花火が弾け、空に消えていった。
「……はい」
 どおん。腹に響くような深い音が、まばゆい大輪とともに尾を引いた。ややうつむいたロランの横顔を、光が瞬きながら照らしていく。
 ランドとルナは、無言でロランの手を握った。ロランは目を伏せた。終わらない花火と人々の歓声が続いていた。




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