自作ドラゴンクエストⅡ~悪霊の神々・206
- カテゴリ:自作小説
- 2016/08/29 22:50:32
【ムーンブルクの王女の手記】
ここまで読んでくださった方が、もしいるとしたら……あなたは私達と共に、長い戦いの旅を乗り越えてきたのでしょう。そのことにまず、お礼を申し上げます。
私達と心を共にするあなたへ。私、ムーンブルク王家最後の継承者、ルナ・ロト・ムーンブルクが、その後ロラン達がどうなったのかお伝えしようと思います。
けれどそれは決して、おとぎ話のような幸せな結末ではなかったのだということを、先に記しておきます。
私達と心を共にするあなたへ。どうか知ってください。私達があの戦いのあと、どういう道を歩んでいったのかを。
ローレシア建国100年祭は、同時に、勇者ロトの子孫達が世界を救ったことを讃える祭りにもなりました。そしてその日を記念日として、長く後世に伝えることとなりました。
花火は5夜連続打ち上げられ、ローレシア内外から城下に人があふれて大変な騒ぎとなりました。ランドの家族であるサマルトリア王と王女アリシアも、お祭りの最初の晩に国賓として招かれ、みんなで私達の帰還を喜び合ったものです。
お祭りの3日目に、アレフガルド国王、ベラヌール法王、ルプガナの港主、ペルポイ町長、それにデルコンダル王が、ローレシア城へ招待されました。そして、世界に例を見ない首脳会議が行われたのです。会議には私達3人も出席しました。
そこで私達は、ロンダルキアの洞窟で、オークキング達が略奪した財宝の山があることを教えました。計り知れないほどの額なので、これを世界中に分配して、魔物や邪教団に被害を受けた人や町の手助けにしてほしいと訴えたのです。
これに異論はなく、大きな被害を受けていないルプガナとベラヌール、およびデルコンダルは分配そのものを固辞しようとしましたが、のちに誰かが不公平を叫ばないように、ほかよりは少なめに受け取ることで承諾しました。
分配の詳しい金額は、実際に洞窟から財宝を運び出した上でということになり、その場はお開きになりました。
お祭りが終わると、数年ぶりの二日酔いに悩まされたサマルトリア王を支えながら、ランドがルーラの呪文で国へいったん帰ってゆきました。
それから3日後に、私達3人と世界の首脳達がローレシアに送ってきた使節団と共に、ロンダルキアの洞窟へ向かったのです。そこで2週間ほどかかって全部の財宝を運び終え、ベラヌール法王庁に一度預かりとなりました。なにしろ金銀の量ときたら、小さなお城一個分くらいはありましたから。
大まかな分配としては、一国を滅ぼされたムーンブルクが多く、その次に、功績を残したローレシアとサマルトリア。破壊神シドーが出現した際に起きた地震で、建物などが倒壊した地下都市ペルポイにも多めに分配されることになりました。
それから、働き手の大半を魔物に殺されてしまった、南海の孤島ザハンの町にも、私達が行ってお金を届けました。ペルポイの町には、魔物に沈められたザハンの漁船員の生存者であるルークさんがいたので、彼を連れ帰る目的もありました。
彼は地震の衝撃で、これまで失っていた記憶を取り戻していました。ザハンには、漁船沈没の悲報を伝えるためにペルポイからの使者がいたはずですが、彼もまたペルポイに戻っておらず、ペルポイの町役人がやきもきしていました。ザハンに行ってみると、案の定、彼はいまだに事実を伝えていなかったのです!
でも、私達が連れてきたルークさんが、すべてを町の女性達に語ってくれました。あまりに長い夫達の不在に、女性達は皆覚悟を決めていたようです。悲しみに包まれはしましたが、大きな混乱にはなりませんでした。
ルークさんは無事に恋人と再会し、漁師をやめて町の子ども達のために塾を開くことにしました。
そうそう、金の鍵の持ち主だった、この町の漁師だったタシスンさんの飼い犬ラジェット――彼も元気でした。私が、もうタシスンさんが帰ってこないことを話して聞かせると、彼はわかってくれたようでした。それでも、時々海を寂しそうに見つめているそうです。彼の心も癒されることを祈ります。
アレフガルド国王は、ハーゴンの脅威を恐れて長い間、城下の武器屋の2階に隠れていたそうです。けれど、私達の活躍を知って、ようやく表に出てきました。これからは心を入れ替えて、世界の復興に力を尽くしたいと表明し、ムーンブルク城再建のために多くの働き手を送ってくれました。
ムーンブルク城再建に関しては、私よりもムーンペタの町で希望が大きく、急がざるを得ませんでした。なぜなら、そこには城下から生き延びてきた多くの難民達が保護されているからです。
町で彼らを養うには財源に限りがあり、分配金だけでは数年と持ちません。早く彼らに生活の基盤を整える必要がありました。
城の再建工事は一時的にでも彼らに仕事を与えることになります。自分が何か役に立てる、働けるということは、生きる喜びにもなります。仕事や財産を失って活力をなくしている難民達のために、私は率先して仕事に当たりました。
まず、ムーンブルク城跡で大きな慰霊祭を行いました。ここでも、各地の首長らが参列してくださいました。ロランとランドも喪服で王達と参列し、祈りを捧げました。
城跡に戻ってきた城下の人々は、皆泣いていました。春が近くなり、温暖なムーンブルク地方では早くも草が萌え始め、がれきに淡い色を広げておりました。
風に揺れる小さな花や草の間に、亡き人の形見や遺体の一部を見つけ、これはお父さんだ、うちの子だと口々に言う声が聞こえていました。そして見つけたそれを、そっと大事に胸に抱きしめていました。
反対意見もありましたが、私は、城の跡地に慰霊碑を建て、城は少し離れた位置へ移すことを提案しました。人々の悲しみはまだ生きています。その真上に、元通りに家や暮らしを営むことなどできない。そう思ったからです。
よって工事は大規模なものとなりました。がれきの撤去と整地に、集まった人々が取りかかりました。そしてそこには、ロランとランドもおりました。黙って城にいるのを良しとせず、人々と一緒に働きたいと願ったからです。
最初は皆、高貴な身分である2人が、土や汗にまみれて働いてくれることを喜んでいました。でも、私は少しだけ嫌な予感がしたのです。そしてそれは、ほどなくして当たってしまいました――。