Nicotto Town


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自作ドラゴンクエストⅡ~悪霊の神々・207

「ロラン。もう来ないで」
 こう告げるのはつらかったですが、私はロランのためを思って言いました。
「あなたが来てから、場が悪くなっているの。あなたは、国に戻った方がいいわ」
 ある夏の夜のことでした。整地工事は驚くほどの速さで進んでいました。それなのに、私はロランに、もう仕事をするなと言ったのです。ロランは、自覚があったのでしょう、悲しそうに黙っていました。傍らのランドは、言葉を探しているようでしたが、何も言えませんでした。
 場が悪くなっている、というのは、現場で働く人達に不穏な噂が流れていることがひとつ。そして、あからさまに仕事をしなくなった人が増えたことでした。
 原因はロランでした。ランドはあまり肉体労働に従事せず、働く親達から子ども達を預かって、勉強を教えたり、山彦の笛で曲を吹いたり、一緒に遊んだりしていました。
 ロランは率先して、一番きついがれきの撤去を行っていました。彼の膂力はすさまじく、たった一人で次々と大きな壁の破片や岩などをどかしてしまいます。
 初めのうちは、これがロトの子孫の力かと、皆が感心し、驚くだけでした。ところが、自分と彼との間に大きな差があるのだと知った男達は、やがて無気力になっていったのです。
 自分がやっとひとつどかしたがれきを、ローレシアの王子は、何倍も効率よく撤去していく。自分のやっていることに意味はあるのか。生まれながらにして家柄や血筋に恵まれた人間は、苦労もなくやってのける。それに比べて自分は――という、堂々巡りにはまってしまったのでした。
 無気力は仕事の意欲をなくさせ、酒や博打に生きがいを見つけるようになりました。中には、いら立ちを家族にぶつける者さえおりました。
 それだけではありません。人並み外れたロランの力を、誰かが冗談にも化け物呼ばわりし始めたのです。彼らの目つきは、恐ろしい魔物を見る目と変わりがないものでした……。
 私はムーンブルクを束ねる者として、これらを見過ごすことはできませんでした。
「……わかった」
 やっとのことでそう応えたロランは、かわいそうで見ていられませんでした。良かれと思ってやったことが、かえって人々を傷つけるなんて思いもしなかったでしょうから。
 ロランが国に帰ると言うので、ランドも自分の城へ帰ると言いました。ランドが引き受けていた託児の仕事は、手が空いている女性やお年寄りらに任せることにしました。ランドはとても人気者だったので、そのあと子ども達がひどく寂しがったことを記しておきます。

 

 それからのロランは、まるで別人になったかのようにおとなしくなりました。
 もともと、あまりはしゃぐ方ではありませんでしたが、それにも増して口数が少なくなったのです。
 ロランは城からも出してもらえなくなりました。即位を控える大事な身だから、という理由です。
 ロランは、ロトの鎧と兜を、アレフガルドにある聖なる祠に返しに行きたいと申し出ていました。ロトの鎧は所有者に不吉なことが起こる可能性が高いため、聖地に安置したいと言ったのです。
 かつてアレフガルドにあったドムドーラの町の悲劇や、ロトの鎧を預かっていたムーンブルク城の惨禍もあり、ローレシア王は、鎧と兜を安置する案は認めました。しかしロランにその役目を与えませんでした。ロランが、旅に出たきり戻ってこなくなることを恐れたからです。
 鎧と兜は、近衛隊のカイルが使節を率いて祠へ無事に送り届けました。ロトの剣は、ロランが一度ランドにあげていましたが、もう戦いは終わったからと、ランドが直々に剣をローレシアに納めました。代わりに、ロランが持っていたロトの盾を再び返してもらい、サマルトリアの国宝として、城の聖なる間に安置したのです。
 復興工事のために、私はムーンペタ町長の屋敷に間借りをし、5日に一度、後見人であるローレシア王に会いに行き、事の次第を報告していました。ロランとも、その滞在時に会って話すぐらいだったのです。
 ローレシア城では、ロランの即位式のために準備が着々と進められていました。ロランのために、新しく王の衣が仕立てられ、お針子達が制作にいそしんでおりました。
 私も作りかけのを見せてもらいましたが、それでも見事なものでした。国の色である青を基調とし、絹や毛皮、宝石をふんだんに使って、稀代の英雄である王子を飾り立てようとしていました。
 それと同時に、ロランにはお見合いの話も持ち上がっていたのです。すでに貴族などの家柄から、年頃の娘達が候補に挙がっていました。城で働く娘達には、ロランを熱く慕う者もおり、そのことに少なからず衝撃を受けていたようでしたが、それはまた別の話です。
 一見、ローレシアの城は華やかさに満ちていました。けれどロランの表情が晴れることは、決してありませんでした。ある日私は、決心してロランに話しかけました。ずっとつらそうな理由を知りたかったのです。季節は夏を迎え、満月がきれいな晩でした。




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