Nicotto Town


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自作ドラゴンクエストⅡ~悪霊の神々・212

 アレフガルドの草原を、青い服の少年がひとり歩いていた。乾いた秋風が渡っていく。見覚えある背を見つけたランドの胸は割れんばかりに激しく鳴った。
「おーーーい! 待ってくれよー!」
 駆け寄りながら声の限りに呼びかける。ただならぬ気配を感じたのか、少年は驚いて振り返った。間違いない、ロランだ。背に帯びた、特注の鞘に収まった稲妻の剣が揺れる。
 息せき切って追いつくと、ランドはあっけに取られるロランの前で膝に両手を置き、荒い息を整えた。
「はあ、はあ、はあ……ひどいじゃないかっ、ぼくを置いていくなんて!」
「ひどいって……」
 ロランは鼻白んで、眉根を寄せた。
「ちゃんと手紙、書いたじゃないか」
「あんなの言い訳にもならないよ! 元気で、としか書いてなかったじゃないか。それでぼくが納得すると思ったのかい?」
「……言葉にできなかったんだ」
 ロランは寂しげに微笑んだ。
「それに、ランドだって国を継がなきゃならないだろ。誰か良い人を見つけて、将来を築かなきゃならないだろ。それがランドの幸せだと思ったら、一緒に来いなんて書けないよ」
「でもぼくは待ってたんだぞ。君が迎えに来てくれると思って、7日も」
「7日も?――のんきだなあ」
 昔のことを思い出して、ロランは笑い出した。ランドはふくれた。
「だって、またすれ違ったら嫌だからさ。――それにねえ、」
 感極まって裏声になり、ランドは咳払いした。
「君が言うぼくの幸せって――それは押しつけだよ。ぼくが思う幸せは、そんなことじゃないよ。君にだってわからないさ」
「じゃあ――何なんだ、ランドの幸せって?」
 それを言わせるのか……。さすがにランドはロランが少し恨めしくなった。
「……旅立つローレシアⅠ世に何度も『いいえ』と言われてもめげなかったローラ姫はすごいよ……」
「えっ?」
 ロランは肝心なところで鈍いのだ。ランドはあえて答えず、腰に手を当てて見すえた。
「まさか君は、このぼくに帰れとか言うんじゃないだろうね?」
「……ごめん。さっき、ちょっと言いかけた」
「ばかあ!」
 間髪入れず怒鳴り返すと、ロランは一瞬の間をおいて、笑い出した。腹を抱えながら、時々洟をすすって。
「……でも、本当にいいのか?」
 ロランは濡れた目元を指で払って、ランドを見つめた。ランドは、うなずき返す。
「半年」
「え?」
「半年間も君を捜し回ってたんだ。気持ちが変わるなら、とっくに変わってるよ」
「……そうか」
 ロランは初めて、安堵した顔を見せた。荷物を背負い直す。
「――じゃあ、行くか。アレフガルドを巡ったあと、竜王のひ孫に、もう一度会いたいと思ってるんだ」
「いいね。行こう!」
 ロランとランドは、肩を並べて歩きだした。やがて二人の姿は、なだらかに続く草原の彼方に見えなくなった。




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