自作ドラゴンクエストⅡ~悪霊の神々・213
- カテゴリ:自作小説
- 2016/08/31 09:05:50
【ムーンブルクの王女の手紙】
私達と心を共にする、親愛なる皆さんへ。
ロランとランドがアレフガルドで消息を絶ってから、3年がたちました。
魔物は、森や草原に棲む動物と同じで、いなくなりはしません。邪教団が消滅してからは、活性化していた魔物の活動は一時収まっていましたが、また以前のように森や海、洞窟などにひそみ、旅人を襲ったりしています。
ハーゴン達が召喚した悪魔族のたぐい――下等なグレムリンなどは、今もあちこちに出現しています。
魔物を鮮やかに退治して町の人を助けたという少年冒険者二人のうわさが、各地から流れてきました。吟遊詩人達が、城を捨てて放浪する王子二人の歌をこぞって歌い、皆が哀切な歌に酔いしれました。
その二人がロランとランドであった確信はありました。でも確かめる前に、うわさはふつりと途絶えたのです。
その間、ムーンブルク城は素晴らしい速さで復興を遂げ、私は4代目ムーンブルクの女王として即位しました。
国を治める忙しい日々で、時々、あの旅のことを思い出します。ロランとランド、彼らがいた日々を。戦いはつらかったけれど、あのころが一番楽しかった。そして輝いていた時間でした。
ロランに続いてランドまでもいなくなり、サマルトリアは騒然としました。しかしサマルトリア王は、ランドの行方を無理に捜そうとはしませんでした。
消沈しつつ、それでもランドが幸せならと、意思を尊重されたのです。
ランドの妹アリシアも、大好きな兄を失ってとても落ちこんでいました。3ヶ月ほど部屋にこもって出てこなかったほどです。
私は、そんなアリシアに頻繁に会いに行きました。部屋の前で追い払われることがほとんどでしたが、たまに会えた時は、他愛のない話をして過ごしました。皆が、腫れ物のように避けるランドの話題をお土産にして。
アリシアは私が話すランドのことを、もっと知りたがりました。そして打ち明けてくれました。皆が、失踪してしまったランドを、もういないことのように振る舞うのが悲しいのだと。
私も深くうなずきました。そして、アリシアは私に、良い女王になるにはどうしたらよいか、教えを求めてきました。後継者であるランドがいない現実を受けとめ、幼いなりに将来を考え始めたのです。
私とアリシアは姉妹のように仲良くなりました。ちょっとわがままでおちゃめだったアリシアは、見違えるように立派になました。落ちこんでいたサマルトリア王も、娘の成長に将来を見いだし、少し安心したようでした。
それも、兄なき寂しさをこらえてのこと。時には、私の胸でアリシアはランドを思って泣きました。人前で気丈に振る舞うのは、つらいのは自分だけではないと知ったためです。だから同じようにつらい思いをしている父達を励まそうと、気を張っているのでした。
そんな姿を見ると、ロランを思い出します。ロランもまた、そういう人でした。
今頃、ロランとランドはどうしているのでしょう。ローレシア王の元へは、時間をつくって会いに行っています。国王がひと月に何度も城を留守にするべきではない、という人もいますが、私はあえて慣例を破りました。後見人でもあるローレシア王は、それ以上に大切な身内。私のもう一人の父というべき存在です。
それに、ロランが何もかも捨てて旅に出てしまったのは、十数年前、私達の父達が、無理に会わせないようにしたのが原因だと考えています。
私とロラン、ランドは、さまざまな垣根を越えた、強い絆で結ばれています。私達の姿が、ローレシアⅠ世とローラ王妃との間に生まれた3人の子ども達――私達の祖父母によく似ているのは、きっと偶然ではありません。
私達は、もう一度生まれてきたのです。勇者の子として。だから、天界におられる曾祖母ローラが、戦いの中で力をお貸しくださったのでしょう。
本当なら、ひとつの場所で3人、共に暮らすのが理想だったのでしょう。でも、なまじ引き離されてしまったばかりに、お互いを求め合う気持ちが強まりすぎたのです。そのことが、もともと寂しがりやだったロランの心に影を落としていました。
私達は3人で1人。生まれた場所も親も違うけれど、確かにそうだったのです。そしてランドは、分かたれた魂をひとつにするために、ロランと共にゆきました。
私はそんなランドを祝福しつつ、少しうらやましくも思っています。
私も自由になりたい。また彼らと旅がしたい。でも、背負ったものを思うと気持ちが鈍ります。