8月自作 海 「大海嘯」(中)
- カテゴリ:自作小説
- 2016/08/31 22:59:45
「ひいいい! こえええ! 今年は一段と多くないかー?」
サーフボードに思わずしゃがみこむ黒髪おじさん。
「ああ……奥さんの華麗な水上の舞いを見たかったのに……」
ウサギがぶつぶついいながら後ろを確認する。
「うわ! なんだかすげえ。まあ今年は、囮がひとり増えたからかなー」
囮……。
つまりやっぱり、後ろから迫ってくるものは危ないってことかああ。
『あらまあ、なんですかこの群れは。ずいぶんと頑丈そうな生き物が迫ってきてますねえ』
念のために背負っている剣が、ずいぶんと嬉しそうに言ってくれる。
『これ、そこの湾や、ちょいと沖にいるトルップでしょう? 養殖魚の』
「うん。でもなぜか肉食。ちっちゃいが獰猛になってる」
『ああ、人肉に異様に反応する突然変異を起こしたとか?』
「う、うん」
『最近どこかの港でそれが爆発的に増えちゃって、大変なことになってるって噂をどこかで……』
「そう、まさしくそれ!」
波に押されて遡上してくるこの黒い肉食魚の群れは、養殖に失敗した魚のなれの果て。
近くの有機体工場が垂れ流した老廃毒物を食って、恐ろしい人食いの習性を持つ魚と化した。
その危険度はすさまじく、人影を一瞬でも水面に見せようものなら、おそろしい勢いで水中から飛び上がってきて、食いついてくるほど。しかも体は鋼鉄のような硬さ。
そんな恐ろしい化け物魚が、爆発的に増えてしまっているそうだ。
港町の人は湾内では漁ができなくなってしまい、かなり遠くの海で漁をしているんだとか。
『網なんざ簡単に食い破るし、がちがち食いついてきて、駆除もろくにままならんのよ。ここまですごい変異をしたらば、機械魚と変わらないぐらいだよな。それでここ数年、俺たちが陛下から駆除を頼まれてる。しっかし生殖力がとにかくすごくてねえ、なかなか減らないんだわ』
毎年海嘯の時に一網打尽にしているのに、と、ウサギは作戦会議の時にため息をついたものだ。
『それでな、この変異トルップ、唯一の弱点みたいなものがきれいな淡水、なのさ』
毒物で急進化した魚には、清い水こそ猛毒であるらしい。
それで海嘯の勢いにまきこまれたトルップを、囮を使ってできるだけ遡らせて退治しよう、というのが今回の作戦の概容である。
んだけど……
「ひい! 飛んできた!」
おじさんのうなじに食いつこうと、黒い影玉のごときお化け魚が飛びかかってきた。
とたんに俺たちにかけられている防御結界が、魚を阻んでばりばりと火花を散らす。
それでも魚は死なない。いったん水中に落ちて行くが、また同じ奴が果敢に飛んでくる。
「パパー! がんばってえ! 大丈夫だからねー!」
が、がんばりたいが、こわい! いくら結界で守られてるからって、ガチガチガチガチ、聞こえるんだよ。すぐうしろで、お化け魚が歯を鳴らしてるのが……
より近い所にある獲物に突進する習性を持ってるおかげで、狼たちやうちの娘は標的にされないってのだけが救いだ。
「おばちゃん代理! たいぶさかのぼって淡水濃度が濃くなってきてるぞ」
ウサギ技師に続けて、隣のネコメさんが俺を励ましてくれる。
「もう少しすれば魚の動きが鈍り、次々死んで行きます。それまでがんばりましょうっ」
「り、了――」
俺がうなずこうとした時だ。
ぼぶばあ、というおよそ逆流並の音とは思えない水音が、背後から轟く。
黒髪おじさんが、悲鳴を上げた。
「なんじゃこりゃああ!」
また大げさな反応を、と呆れ気味のウサギも、背後を見てウッとたじろぐ。
「おっ。おばちゃん代理! ネコメさん! よ、よけろ!」
「はい?!」
「あ、あぶな――」
「ぐは?!」
こわくて後ろを向けない俺は。次の瞬間、結界ごとサーフボードから吹っ飛ばされた。
宙を舞い、さかたんぼりに川に転落する俺の目が捉えたのは。
ウサギ技師に引っ張られて難を逃れたネコメさんの姿と。
すさまじい勢いで遡上してきた、でかいトルップ――の、進化体。
もともとは片手に乗るぐらいの魚のはずが、そいつはなんと、二階建ての家ぐらいある。
まるで鯨だ!
しかしこれも凶暴な変異トルップのようで、ガチガチ歯を鳴らして俺たちを食おうとしている。
『わが主!』
剣を。持ってきてよかった――けど!
「うあああああ!」
俺、見事に水中にどぼん。結界があるとは言え。あるとは言え――!
水中に入ったとたんに遅いくるお化け魚の群れ。
がちがち体当たりしてくるわ、噛み付いてくるわ……
「……!!!!」
俺は結界の中で悲鳴をあげていた。声をあげながら剣を構えていた。
柄の部分が真っ赤に光りだした剣に、望みを託しながら。
ただただ、声をあげていた――。
サーフボードに思わずしゃがみこむ黒髪おじさん。
「ああ……奥さんの華麗な水上の舞いを見たかったのに……」
ウサギがぶつぶついいながら後ろを確認する。
「うわ! なんだかすげえ。まあ今年は、囮がひとり増えたからかなー」
囮……。
つまりやっぱり、後ろから迫ってくるものは危ないってことかああ。
『あらまあ、なんですかこの群れは。ずいぶんと頑丈そうな生き物が迫ってきてますねえ』
念のために背負っている剣が、ずいぶんと嬉しそうに言ってくれる。
『これ、そこの湾や、ちょいと沖にいるトルップでしょう? 養殖魚の』
「うん。でもなぜか肉食。ちっちゃいが獰猛になってる」
『ああ、人肉に異様に反応する突然変異を起こしたとか?』
「う、うん」
『最近どこかの港でそれが爆発的に増えちゃって、大変なことになってるって噂をどこかで……』
「そう、まさしくそれ!」
波に押されて遡上してくるこの黒い肉食魚の群れは、養殖に失敗した魚のなれの果て。
近くの有機体工場が垂れ流した老廃毒物を食って、恐ろしい人食いの習性を持つ魚と化した。
その危険度はすさまじく、人影を一瞬でも水面に見せようものなら、おそろしい勢いで水中から飛び上がってきて、食いついてくるほど。しかも体は鋼鉄のような硬さ。
そんな恐ろしい化け物魚が、爆発的に増えてしまっているそうだ。
港町の人は湾内では漁ができなくなってしまい、かなり遠くの海で漁をしているんだとか。
『網なんざ簡単に食い破るし、がちがち食いついてきて、駆除もろくにままならんのよ。ここまですごい変異をしたらば、機械魚と変わらないぐらいだよな。それでここ数年、俺たちが陛下から駆除を頼まれてる。しっかし生殖力がとにかくすごくてねえ、なかなか減らないんだわ』
毎年海嘯の時に一網打尽にしているのに、と、ウサギは作戦会議の時にため息をついたものだ。
『それでな、この変異トルップ、唯一の弱点みたいなものがきれいな淡水、なのさ』
毒物で急進化した魚には、清い水こそ猛毒であるらしい。
それで海嘯の勢いにまきこまれたトルップを、囮を使ってできるだけ遡らせて退治しよう、というのが今回の作戦の概容である。
んだけど……
「ひい! 飛んできた!」
おじさんのうなじに食いつこうと、黒い影玉のごときお化け魚が飛びかかってきた。
とたんに俺たちにかけられている防御結界が、魚を阻んでばりばりと火花を散らす。
それでも魚は死なない。いったん水中に落ちて行くが、また同じ奴が果敢に飛んでくる。
「パパー! がんばってえ! 大丈夫だからねー!」
が、がんばりたいが、こわい! いくら結界で守られてるからって、ガチガチガチガチ、聞こえるんだよ。すぐうしろで、お化け魚が歯を鳴らしてるのが……
より近い所にある獲物に突進する習性を持ってるおかげで、狼たちやうちの娘は標的にされないってのだけが救いだ。
「おばちゃん代理! たいぶさかのぼって淡水濃度が濃くなってきてるぞ」
ウサギ技師に続けて、隣のネコメさんが俺を励ましてくれる。
「もう少しすれば魚の動きが鈍り、次々死んで行きます。それまでがんばりましょうっ」
「り、了――」
俺がうなずこうとした時だ。
ぼぶばあ、というおよそ逆流並の音とは思えない水音が、背後から轟く。
黒髪おじさんが、悲鳴を上げた。
「なんじゃこりゃああ!」
また大げさな反応を、と呆れ気味のウサギも、背後を見てウッとたじろぐ。
「おっ。おばちゃん代理! ネコメさん! よ、よけろ!」
「はい?!」
「あ、あぶな――」
「ぐは?!」
こわくて後ろを向けない俺は。次の瞬間、結界ごとサーフボードから吹っ飛ばされた。
宙を舞い、さかたんぼりに川に転落する俺の目が捉えたのは。
ウサギ技師に引っ張られて難を逃れたネコメさんの姿と。
すさまじい勢いで遡上してきた、でかいトルップ――の、進化体。
もともとは片手に乗るぐらいの魚のはずが、そいつはなんと、二階建ての家ぐらいある。
まるで鯨だ!
しかしこれも凶暴な変異トルップのようで、ガチガチ歯を鳴らして俺たちを食おうとしている。
『わが主!』
剣を。持ってきてよかった――けど!
「うあああああ!」
俺、見事に水中にどぼん。結界があるとは言え。あるとは言え――!
水中に入ったとたんに遅いくるお化け魚の群れ。
がちがち体当たりしてくるわ、噛み付いてくるわ……
「……!!!!」
俺は結界の中で悲鳴をあげていた。声をあげながら剣を構えていた。
柄の部分が真っ赤に光りだした剣に、望みを託しながら。
ただただ、声をあげていた――。
ネコ目さん、どういうキャラだったか…
これはこれで流して読みます…
ジョーズとの格闘に…