8月自作 海 「大海嘯」(後)
- カテゴリ:自作小説
- 2016/08/31 23:22:44
じゅうーと、なんともいい焼き音がする。香ばしい匂いも。
「うっめえ!」
ウサギ技師の喜びの声は元気いっぱいだ。
一仕事終えてすかっと気持ちよさそうである。
結局のところ、剣を持って行ったのは大正解で。水中に没した俺は、ちょっと記憶があやふやなんだが、赤い剣の波動が見事に魚どもの魂を総取りして吸収。
力を蓄えたところで、鯨のごとき巨大トルップを一刀両断。するついでに、その巨大魚の魂もしっかり吸収したらしい。
それで、しとめた鯨サイズのトルップを解体したわけなんだが。
「お化け魚の肉がこんなにうまいとはな」
「まあ、もとは養殖魚ですからねえ」
川岸でじゅうじゅう、巨大魚の肉をバーベキューしてみれば。
ウサギ技師もおじさんも、狼たちも大喜び。
肉のうまさもさることながら、特筆すべきは、歯や鱗やひれ。鋼鉄のごときで、ネコメさんの見立てでは、良い加工材料になりそうだという。
「でもこんなどでかいのまで出てくるのはやばいな。湾で数が増えたり巨大化してるってことは、水質がこいつらにとって最高ってことだ。工場からの毒がまだ流れ込んでいるってことなのか?」
国王陛下に工場を突っつかせてみよう、とウサギはうんうんうなずきながら焙り肉を食いちぎった。
ウサギなのに肉を食らうなんて、そこはかとなくこわいような気もする光景に、ちょっと引きつる俺。
そこへ焙り肉を抱えた娘と暫定お嫁さんが、俺を褒めちぎりにきた。
「パパ、すごい! 強い!」
娘、瞳をキラキラ。牙王は、また危ない水着姿のお姉さんになっていてうっとり顔。
今にも俺を押し倒しそう。
「うんうん、おまえほんとすごかったなー」
「はい?」
まだまだありあまっている肉。じわじわ染み出してくる皮脂。余す所なく利用しようと、肉をすぱーと切り分ける俺を、肉をほおばるウサギはしきりにうなずいて誉めそやしてきた。
「水中から、まるで竜のようにずざあって飛び上がってきてさ。マジで水柱が立ってたよ」
「水柱?」
そんな覚えは、ないのだが。
恐怖のせいだろうか。水中に沈んでからはもう無我夢中。頭は真っ白でほとんど何も思い出せないというか、状況を記憶する余裕がなかった。
「そんで化け物巨大魚の頭上高くから、剣で一閃! って、すごくね?」
「それは剣の性能がいいからで……」
「いやいや、構えの型までは、剣に指示されてないだろ?」
「構え?」
剣なんてほとんど握ったことすらない。よもや剣術なんて。
ああ、でも。
「料理の基礎は、祖父に習いましたが……」
「いやあ、料理の技じゃなくて」
ウサギはがしがし頭をかきながら首をかしげた。
「たぶんあれは絶対、剣術だと思うぜ?」
しかし身に覚えがない。
今までの生い立ちをざっと思い返してみても。人口たった百人の小さな村で。ごくごく平凡に農民少年してたというのに。
「実は剣術の天才だから、剣に見込まれたとか?」
「いいえちがいますよ」
そこで俺はようやくのこと。とある疑問を感じた。
喋る剣。どうして、背中のこの剣が、俺をおのれの主としたのか。
剣は厨房にあって、気づけば話しかけられていた。
のっけから、わが主、と呼ばれた気がする。
でも。なぜ――?
「おい、剣。お前はどうして俺を?」
『……』
しかし剣から返事はなかった。結構大技を使ったからなんだろうか。
それから長く、剣はだんまりだった。何度話しかけても聞こえてくるのは、まるで暑い昼下がりに昼寝でもしているかのような低いいびきのような音。
数日後、ようやく起きてくれた剣から、なぜ自分を主人に選んでくれたのか、聞きだそうとしたのだが。
それはもどかしくも、後回しとなってしまった。
王宮から、急報を告げる使者がやってきたからだ。
『疾く帰還せよ』
使者が持ってきた勅令状を見て、ウサギはみるみる不機嫌になり。俺たちに戦闘準備を命じたのだった。
「ちっ。なんだよ反乱って」
反乱?! どこで? どの勢力が?
かくしてウサギの塔は急ぎ王都に戻り、俺たちは今度は「反乱」を処理するべく王命を受けることになるのだが。
それはまた、長い長い、別の話である――。
――大海嘯・了――
お読み下さりありがとうございます><
剣の選定基準って一体どんな条件なんでしょうね;
ウサギはもともと人間なのでお肉も抵抗ないのでしょうか;
お読み下さりありがとうございます><
ネコメさんは剣を治してくれた人でピピウサギのお弟子さんです^^
ピピ(ぺぺ)は、このお話ではほとんどウサギでいることが多いような気がします。
ウサギが好きな奥さんのためなのでしょうか?
でもごくごくたまーに、人間の姿にもどっているのではないかと思われます^^
お読み下さりありがとうございます><
バカンスと思いきやのお仕事でしたが、家族も十分に楽しめたみたいですよね^^
ウサギ陣営とおばちゃん代理の家族も、どんどん親密になってきているようです。
次回エティアの陛下はどんな無理難題をぶちかますのでしょうか;
お読み下さりありがとうございます><
すとぉむぶりんがぁあああ♪
ですですむしろそっち系です。ダークな奴です。
腹黒すぎてもう……本当に聖剣? というような人生ならぬ剣生を送ってきていると思われます。
魂を食べちゃうなんて悪魔系そのものですよね^^;
お読み下さりありがとうございます><
はい^^今回は、特撮系っぽいお話になりました^^♪
ウルトラマンやゴジなどなどの、一昔前の公害からの突然変異体。
ぺぺ、魚肉だから導師的にはOKだけれど、ウサギ的に肉食ってどうなの・・・ですよね^^;
お読み下さりありがとうございます><
あのエク以下忘れました剣のオリジナルの方の性格を考えるだに、
ろまんちっく路線じゃない理由であることだけは確実です^^;
絶対超つまんない理由で主人にされちゃったんだと思いますw
いちおう剣の声が聞こえる人を主人に、という条件があるようなのですが、
他にもいろいろフラグ?みたいなものがある感じです^^
お読み下さりありがとうございます。
エティアの陛下は人使いが荒そうです^^;
どんな反乱なんでしょうね;
化け魚の肉をがつがつ食べるウサギ?ちょっと怖い。
ときどき人間に戻るのか
それとも兎のままなのか気になるところです
雑食系
生態的に食物連鎖の頂点にいます^^
家族の絆がしっかりと深まりましたね
ソードさんとおばちゃん代理さんとも絆が深まり
つぎの「反乱」にしっかりと対抗できそうです
実はエルリックサーガの魔剣ストームブリンガーだったのね
魔神が棲んでいる~
お魚おいしそ~
紅猫もほしいお~
夏の終わりに海でバカンス・・・と思ったら
お仕事でしたか^^;
生き物が文明の暗黒面の影響をうけて凶悪化するってのは
ウルトラマンシリーズを思いだいますねぇ(しみじみ)
そして肉を喰らうウサギと愉快な仲間たちの警備隊に
新たな指令が^^;
続きを楽しみにしております。
いつも楽しいお話をありがとうございます♪
相変わらず忙しいですね。