機霊戦記 5話 来客(後編)
- カテゴリ:自作小説
- 2016/09/06 14:42:04
「この街は遺跡に近くて、発掘屋が結構いる。奴らは、落下物は隕石系のモノって思い込んでるぜ。しかもかなりな大きさのモノってな。だから、かなーり色めきたってる」
「色めき……?」
「一体誰が一番乗りして、隕石おたからを持ち去ったかって騒いでるんだ。お宝の行方を嗅ぎ回ってる輩が、最近わらわら沸いてきてるよ」
テルが店の奥の作業台で、ハンダごてを使い始めた。
しきりに、鉄板に小さな部品をいくつもくっつけている。
金属が溶ける嫌な匂いが漂ってきて、ウッと顔をしかめたとき。噂の「発掘屋」が二人、探りにやって来た。ずいぶん柄が悪そうで、センスの悪い派手な模様がプリントされたシャツを着込んでいる。
店主の名を大声で呼ばわったので、二階の厨房から老技師が腰をかがめて降りてきた。
「ほうほう隕鉄? そんな高価なものは、ありませんなぁ。うちの材料はみんなリサイクル品ばかりですじゃ」
老技師は少しもうろたえず、にこにこ顔で店の奥へと二人組を案内する。
奥は倉庫なのかとちらりと覗いてみたら。
そこは人目をたばかるための、「表の工房」のようだ。
豆電球で照らされた室内は……実に狭い。店とさして変わらぬレイアウトで、作業台がいくつかある他、棚いっぱいに部品箱が詰め込まれている。壁についているのは、おびただしい数のハンダや工具だ。
「確かに店もここも、ガラクタばっかだけどよぉ」
発掘屋の一人が、棚に置いてある水鉄砲型のじょうろを手に取り、口を尖らせた。いきなりじょうろからびしゅっと水が出たので、なんだこれは、とむかついている。
もう一人が忍び笑いながら棚をさらに漁った。
テルは知らん顔で、店で作業続行。いつものこと、という感じで無関心だ。戸口から様子を伺う僕の後ろにきたのは――
「あらん、まーたあの手の輩が来たのねー。これで何人目かしら」
額がハゲているネコだった。
「おいおい、こんな原始的な機材使ってんのかぁ?」
「プラスチックの破片ばっかだな。お? こりゃなんだ? じいさん、こいつを開けて見せろよ」
「いやー、それはものすごく大事なもんでしてなぁ」
「おお、てことはここに隠してんのか?」
「いやいや、鍵などはかけておりませんぞ」
「あ、開いた。ひ?! なんだこれ。塩ビニ人形?!」
工房を物色する二人組が馬鹿にしたように大笑いすると。
ハゲネコが一瞬たじろいだ。
「えっ? 塩ビニ人形そこ?」
大きな蒼い目をヒクヒクとすがめている。
「どうした、タマ」
「タマじゃないわよっ」
む? 老技師はそう呼んでいたと思ったが、違うのか。
「私、プジよ。あのね、おじいさまはね、あの大事な箱に、おばあさまの写真を入れてたはずなの」
蒼い目のネコは心配げにブツブツつぶやいた。
「ほんとおじいさまったら、頭は真っ白でたてがみのように猛ってるし。しわくちゃだし。まだボケてないって信じたいけど、かなり微妙なお年頃なのよね」
ボケ……いやそこは、大丈夫だろう。
「隠れ拠点」の主の腕は確かなもの、どころではない。
三日で背中のやけどが完治するほどの、高性能なカプセル培養液を配合できるのだから。
「笑わんでほしいのう。塩ビニ人形は、溶かすとええ素材になるんじゃ」
「でもちょっとこれはチープすぎるぜ、じいさんよお。うへえ、モーレンジャーなんて、俺がガキのころやってたシリーズじゃん。ふっるー」
「うわほんとだ。他のレンジャー人形もそろってんじゃね? ていうか、じいさん、オタク? きんもー」
――「まったくもぅ。商品を作る材料だって言ってるじゃないの。あたしもあそこに入れるのはどーかと思うけど」
ネコがふーっと怒りの怪気炎を吐く。
「ほんと、嫌な奴らね。おじいさまを笑うなんて。あとで塩撒いてやらなきゃ」
老技師はとぼけているとちゃんと分かっているようだが、馬鹿にされる姿を見るのは嫌なのだろう。
「じいさんよ、万が一お宝を拾ったら、うちのギルドに連絡くれや」
「ボスが高ーく買い取ってくださるぜ」
聴取料だとかなんとか難癖をつけ、二人組は水鉄砲を没収していきかけた。
ネコが置いていきなさいよと声を荒げて、飛び出していく。なかなか忠義心のある奴のようだ。
「うるせえこのハゲ猫」「猫だってのに、番犬気取りかー?」
「みぎゃ!」
が、あっけなくげこんと蹴り飛ばされた。
そのとき。
テルがネコの悲鳴に気づいて、血相を変えて店から飛んできた。
「プジ!」
やはり名前は、タマではないらしい。
テルがくてっと伸びたプジを拾い上げている間に、二人組がようやくのこと戸口の影にいる僕に気づいた。
「なんだー? 随分べっぴんさんがいるじゃねえか」
「おぉ? 美少女? 美少年?」
はっきり言って今さらだ。観察力がなさすぎる。
「おいやめろっ。うちの客だぞ? 絡むなよっ」
テルが庇おうとするも、二人組はニヤニヤ笑って僕の左右を固める。
隙だらけだ。機霊は出せぬが、護身術でなんとかなるだろう。
僕が目を細めて、すう、と腰を落としたとき。
店の呼び鈴がリンゴロンと鳴り響いた。
「あーっ客だ客! また客ー!」
テルが聞こえよがしに大声をあげるも。
僕の腕をつかもうとする相手の動きは、止まらなかった。
「動きが遅いっ」
僕はそう言って身をかがめ、腕に迫った手をはっしとつかんで気を入れた。
「ひ?!」「へっ?!」
いったん胸元に引き寄せ。手のひらから気を流し込みながら、押し飛ばす。
「圧掌波ブレス!」
ボクの左右についた二人組が、一直線に店の間口にふっ飛んでいく。僕の手が目の前に合わさるように角度をつけたから――
「なななな?!」「ぐへ?!」
二人組はきれいに勢いよく、がっつんとぶつかり合い。
「ひゃ!」
ちょうど店に入ってきた客のまん前に、尻もちをついて落下した。
一瞬唖然としたテルが、ハンダごてを振り回して怒鳴る。
「接客のじゃまー! 営業妨害は勘弁だぜ! とっとと出てかないと、ギルドに苦情入れっぞ!」
「ひい!」「なんだあいつっ。強ええっ」
あたふたと立ち上がろうとする二人組の首根っこを、入ってきた客がすんでのところで掴んだ。
――「おいちょっと。あんたら、三軒となりの金物屋で、金属基盤ちょろまかしただろ」
そのちょっと甲高い声の客を見たとたん。
僕は、その場に硬直した。
「俺見てたぞー。ここでも何か取っていこうとしたのか? ん? とったもん、出しな。俺が戻しといてやる」
がしゃ、とその客の背中で背負っているものが揺れる。
一緒に、赤くて長いツインテールも。
「うわ? ななななんだ? かわいーおねーさんだぞおい」「む、胸でかっ」
――「さわんなコラ。ホンモノじゃねーよ」
ふらふらとそいつの胸に手を伸ばした二人を、そいつはごっちんと頭を思い切り鉢合わせさせて。
「ぐが」「げふ」
火花を散らして気絶させた。
「あ。ロッテさん!」
テルが嬉しげに間口に駆け寄る。
「きゃあ。ロッテさーん!」
ハゲたネコも。
一人と一匹は凍りつくボクを尻目に、明るい声で一緒に同じ言葉を叫び。そいつを花火でも上げそうな大歓迎で出迎えた。
「「おかえりなさーい!」」
「おう。今帰ったわ」
「そんでそんで? 首尾は?」「どうだったのー? 就職できたのー?」
テルとネコがはしゃいで聞く。
するとそいつは、ピンクのリボンだらけの服をわさっと揺らし。
ピンクのガーターをはいた長い足をだん、と踏みしめて。
「いっやー、だめだったわ。クソガキに馬鹿にされてジ・エンド」
赤毛のツインテールのリボンを解き、吐き出すように呻いた。
「せっかく、俺様渾身の女装で挑んだってのにー」
読んでくださりありがとうございます><
この星、地球なのかそれとも……
舞台がどこかもちょっと気になるところです。
ロッテさん乱入で話がどどんと?進みます^^
読んでくださりありがとうございます><
帝国はどんな動きをしてくるのでしょうか…
アムルを狙ったのは誰なのかなどなど、この時点では不安要素がいっぱいですよね。
運び込んだお客さんの次は招かれざる客。
塩の退魔浄化効果は宇宙共通なんですねぃ^^
どこまでも自然体の師弟と、どこまでも疑心暗鬼の遭難者・・・
そして、運命の再会・・・が待っているのでしょうか^^;
人と人のつながりがじわじわ出てきて面白くなってきました。
続きが楽しみです♪
帝国の争いに巻き込まれなければ良いのですがね・・・。