機霊戦記 6話 ロッテの憂鬱(後編)
- カテゴリ:自作小説
- 2016/09/14 09:38:21
直後。
「ごめんっ!」
赤毛少年は苦悩の呻きを上げ、作業台から降りてテルとネコに土下座した。
代理騎士に選ばれていれば、ツケも借金も一切合財支払えたはずだとぶうぶう言う。
みるみるがっくり肩を落とすテル。ぷがぷが怒り出すハゲネコ。
つまり僕がこいつを雇っていれば、大団円になる展開だったらしい。
『男の機貴人を探せ!』
考えてみれば、この赤毛少年は僕の望みを満たしてはいる。
でも、アホウドリサイズの骨董品なんて……冗談じゃない。性格うんぬんというより機霊の性能的に、就職難になるのは当然だろう。
「ほ、ほんとごめんな? ミッくんがまともになったら、きっとどこかに就職できるはずだからさ、もう一度ツケで頼むよ」
「うーん……超改造した今のミッくんなら、だれもが欲しがると思ったのになぁ」
「だよなぁ。でもあのクソガキ、ろくにミッくんの能力検証もしないでダメ出ししやがったんだよ。ほんとむかつくけど仕方ないっ。この通り!」
「……クソガキ言うな」
――「へ?」
あ。思わず反応してしまった。
僕の呟きを聞いて、赤毛少年がようやく、店の片隅に埋没している僕に気づく。
「あちゃ、他のお客さんいたのかー」
目をすがめてこちらを凝視してきたので、僕はとっさに近くの作業台に置いてあった鉄の兜のようなものをかぶった。挙動不審だが致し方ない。顔を見られる方がずっとまずい。
「な、ななな何のつもりだあんた。バケツなんかで顔隠して……」
「あ! アムルくんそれ……」
「にゃ?! それって、バクテリア金属用のじゃない?」
少年二人とネコがうろたえる。多少変な匂いがするが、中身はからっぽだから大丈夫だろう。
僕は鉄兜のせいでくぐもる声で、びしりと赤毛少年に言い放った。
「おまえ、もうすこし自国の君主に敬意を払え」
「は? なんだって?」
「エルドラシアの今上陛下は、畏れ多くも、日輪のアルゲントラウムを背に埋めている御仁だぞ。現人神なんだからな」
すると赤毛の少年は一瞬ぽかんとして。それからドッと笑い出した。
「あ、あらひとがみぃー? いやいやいやいや、あの国の皇帝は、ただの看板。超骨董品のアルゲントラウムを保存するために作られた、お人形さんだろ?」
「なっ……?」
あろうことか。アホウドリサイズのくせに、赤毛少年は僕とアルをせせら笑ってきた。
「何言ってる! 僕のアルは骨董品なんかじゃ――」
「へ? 僕の?」
「いや! その! 今上陛下の機霊は、黄金オーロ級の機霊だぞ? たしかに少々古いかもしれないがっ……」
「少々どころじゃあないだろ。エルドラシアの皇帝機は、作られて一千年越えてる。世界初の融合型機霊。つまり体内埋め込み式で生命エネルギー吸収するやつの先駆けね。スペックはバカみたいに高い。だけどコスパがものっそ悪いんだよな」
コスパ? つまり供給源のことか?
赤毛少年は、何を言ってる?
「あの皇帝機はさ、まともに起動したら、たった数年で主人の生命エネルギー絞りつくしちゃうっていう、おっそろしい代物さ。高祖帝マレイスニールはだから若死にしちゃったって、貴族学院の歴史の授業で習ったぜ?」
なん……だと?
「まあ、歴史的な名機だからさ。現在エルドラシア帝国は、皇帝機専用に作った人形の背中にアルゲントラウムを埋めて、その生命エネルギー食わせて保存してるってわけだよ」
「な……だれが人形だ!」
こいつの機霊は、黄金オーロの光に怖気づいて引っこんだくせに。
なのになんでえらそうに、変なことを言ってくるんだ?
エルドラシアの皇帝が――僕が、アルゲントラウムのために作られた人形だなんて。
僕は……ちゃんと国を治めている。
毎日廷臣たちが横に侍り、僕に報告してくる。
大地に降りる騎士たちの戦況と、国の情勢を。戦いから帰ってきた親衛隊たちは、僕のアルに情報を取らせてくれる。
ああすることにした、こうすることにした、とちゃんと教えてくれる。
僕はそれにうなずく。
政は廷臣たちに、戦は騎士たちに任せておけば間違いない。
そう、アルが言うから……
「無礼な奴! エルドラシアの大皇帝を、何かのいけにえみたいに言うなど不埒……けほっ!」
かっとなった僕はむせた。鉄兜もどきの匂いがひどい。
「あああ、アムルくんバケツ取って。それ洗ってねえから、バクテリア金属の胞子が残ってるんだ。吸い込んだらやばいって」
あわてて近寄る足音。テルがこちらに来る気配がする。
「無礼者! 近寄るな!」
叫ぶなり、ずきりと喉が痛んだ。
とたんに胸も焼けるように痛くなる。一瞬息ができなくなったと思ったら、今度は背中が焼けるように熱くなってきた。
「う……!」
なんだこれは。熱い。
鉄兜に残っていた、胞子というもののせい?
熱い……熱い……背中が焼け……
「ああああ!」
「わわわなんだ? アムルくん背中燃えてる!! ほ、胞子だけでこんなになるはずはっ」
「きゃああ! 大変!」「ななななんだー?!」
少年二人とネコが騒ぎ出す。
僕は片膝をついて縮こまった。なんだこの熱さは。
背中が、ぼうぼうと燃えているようだ。
まさかアルが……僕の体内にいるアルゲントラウムが、どうにかなっているのか?
死んだ状態から再起動しようとして空回りしてオーバーヒートしているとか?
「あ……ひあああっ!」
ばりばりばちばちと音がする。なにかが背中から飛び出してきそうな感覚がする。
肉をはがされるような気がして、僕はたまらず悲鳴をあげた。
「いやあああああっ!!」
刹那。
どうっと、まばゆい炎のごとき柱が、僕の背から飛び出した。
おそろしいほどに勢いよく。店の天井を貫き通すぐらいの、すさまじい威力で。
「ひええええ!!」「なんだこの光!」「にゃーっ! なにこれーっ!」
少年二人とネコのわめき声に。
「ななななんと、いかん!!」
奥にいた老技師の声がかぶさってきた。
「みんな外に出るんじゃー! 退避ー!」
お読みくださりありがとうございます><
バケツっこの前でいろいろな真実が;ω;
今回レシーブされた話は次回空高く?トスされます。
アタック模様はその次の回からじっくり……という感じです。
お読みくださりありがとうございます><
ちょっと尋常ではない光の放出。
仰る通りの緊急事態です。
アムルくん、どうなってしまうのでしょうか;
隠していたこと、隠していたものが
隠したかった本人の前であらわになっていきますねぃ^^;
なにやら強そうなエネルギーまで出てきてしまって
大丈夫か、工房
大丈夫か、みなさん・・・
光とともに物語も弾んで次の展開へ^^
続きが楽しみです♪
何か嫌な展開に成りそうですね。