機霊戦記 7話 PPD・AG(前編)
- カテゴリ:自作小説
- 2016/09/19 16:06:10
まぶしい。
あたり一面、光の渦だ。
俺はプジを抱えて通りに飛び出しながら、店がふっ飛ぶんじゃないかって心配だった。
銀髪のアムルは、天使。それも超強力な機霊を持つ奴。
そのことは、始めっから把握してた。
大穴から家にこっそり運び込んだとき、じっちゃんはことさら難しい顔をしたもんだ。
『テルよ、うまいこと運んできたのう』
『まあねー。プジが索敵妨害電波出してくれたから、どこの誰にもバレてないぜーきっと』
『しかしこれは……』
地下工房の機材を使って銀髪少年の体をざっと調べたじっちゃんは、背中に埋め込まれてる機霊がどんなものか推測して唸ってた。
『融合型は、起動したら主人の生命エネルギーを吸収するんじゃが。この機霊は起動せんでも、微量ながら主人のエネルギーを吸い取っているようじゃなぁ』
『じっちゃんそれって……』
『今の融合型機霊には、まずありえん仕様じゃ。おそらくこの子の機霊は、世界遺産級の相当古いものじゃろう』
銀髪少年の機霊は、顕現しなくても主人の寿命を吸い取る恐ろしいもの。
それだけハイスペックで強力、ということなんだけど。
そんな無茶苦茶な仕様を持ってて今も現存してる機霊といえば、この世に一機あるかないか、だ。
じっちゃんは背中が焼けただれた少年を入れた回復カプセルの前で、暗い顔をうつむけてた。
『さきほどうちの端末機が暗号通信を傍受したんじゃが……。エルドラシア帝国所有の全隠れ拠点に、当局から一斉に極秘命令が流されたぞ』
『な、なんて?』
うちの工房は無国籍。
基本、国家とは契約しない主義で、個人契約しかしない。
だから顧客は、島都市を渡り歩く傭兵さんたちが多い。知る人ぞ知る的な隠れ工房なんだけど、天上の情報は逐次ちゃんと盗……いや、拾っている。
『PPD・AGが、不慮の事態により帝都より持ち出され、大陸に墜落したそうじゃ』
コードPPD・AG。それは機霊を扱う関係者ならば、誰もが知ってる公開コードだ。
『島都市連合永久P保存P指定D及び星域遺産指定物……エルドラシア初代皇帝機アルゲントラウム……』
『うむ。大陸拠点詰めの帝国の天使たちに、発見・回収命令が出とる。しかしなぁ、この指令を出した御仁の肩書きが、気になるのう』
『お? 偉い大臣とか軍人とかそんな人じゃないの?』
『第五十一代エルドラシア新皇帝、じゃ』
『え?! 五十一? 今のあの国の皇帝って……五十代目、じゃ?』
『指令の最後の一文がさらに気になるのう。「PPD・AGを回収次第、帝国は全世界に最新鋭の新皇帝機をお披露目する」……だそうじゃ』
つまり永久保存指定物として、世界中知らぬ者とてない超有名なアルゲントラウムは。
今までのように「戦には決して出ず、常に代理騎士を立てている現役の・・・皇帝機」ではなくなる――
『そ、そうなると、俺が拾ったもん、どうなるの?』
『うーむ……永久保存指定は取り消しになっておらんということは。帝国は今までとは別の形で、AGを保存することにした、ということかのう。凍結保存が一番ありそうじゃなぁ』
『いったん融合した機霊は、主人の生命エネルギー寿命が尽きるまで分離は不可能だろ? てことは、銀髪の奴も一緒に、永久凍結なり封印されるってことか?』
『そうなるのかのう。「いけにえ」はこれで最後にする、と帝国はついに決断したのかもしれん』
一千年の昔。
初代マレイスニール帝の頃からすでに、エルドラシアの皇帝機は、主人の生命エネルギーを食いすぎる化け物として知られていた。
とはいえ、アルゲントラウムはネクサス・コロニアの暗黒帝を打ち倒した、最強の名機。ゆえにかの帝国は高祖帝以後、その大機霊を起動させたまま保存することで、国の権威を高めてきた。
島都市連合にアルゲントラウムを永久保存指定させたのは、世界的な権威を強めるために帝国が画策した政策に他ならない。
PPD・AGの保存方法はいたって簡単。数十年おきに、人工生成された「高祖帝のクローン」に融合させる。
だが戦に出すのは、厳禁だ。AGのコスパは冗談レベルじゃなく、すさまじい。
飛翔するだけで、主人の寿命がガリガリ削られる。よって人形の皇帝に宮殿でぬくぬくお飾り生活をさせて、できるだけ長生きさせるようにするそうだ。
人形皇帝を象徴とするかの帝国において、実際に他の島都市(コロニア)を相手に戦っているのは、「代理騎士(皇妃)」を旗頭とする皇帝親衛隊だ。
つい最近までこの「代理騎士(皇妃)」が政の実権を握って女帝のごとく振舞っていたが、内乱が起きて島都市ひとつを失ってからは久しく選出されず、元老院が内政を切り盛りしているという。
五十代一千年。
アルゲントラウムに命を吸われる人形皇帝の寿命は、およそ二十年で尽きる――。
帝国はえんえんと続けてきたこのシステムを、ついに変えようとしているんだろうか。
『なあじっちゃん、カプセルに入ってる銀髪くんて……つまり五十代目の人形皇帝、だろ? 凍結とかされるのが嫌で、下界に逃げてきた……のかな?』
『どうじゃろうの。今回の事象は、突然に起こされた政変のようではあるが』
『回復後にそれとなーく、聞き出してみっかなぁ』
『うむ。しかし心配じゃのう。今のままでは、AGのシステム損壊の程度がわからん。もし深刻なダメージを受けとると、厄介じゃなぁ。再起動の際に自動修復しようとして、うまくいかんで、過剰な負荷がかかるかもしらん。空回りして熱暴走するかもしれんのぅ……』
まぶしい。
まぶしい!
まぶしい!!
熱い――!!!
「じじじじっちゃん! めっちゃ負荷かかってるよこれー!」
「ぬうう、こりゃいかんぞっ。暴走しておるっ」
「テルうう! まぶしすぎて視界がホワイトアウトー!」
腕の中のプジが、蒼い目をぎゅっとつぶって悲鳴をあげる。
背中から炎のような柱を噴き出してるアムルが、このままでは俺んちどころか、その上のスラムマンション全部を焼いちまうと気づいてくれたらしい。
「ぐううう!」
苦痛に呻きながらも、ごろろと通りに転がり出てきた。
とたん、太陽のごときまばゆい輝きが俺たちの目を焼いた。
熱量がものすごい。肌に何かが刺さったように痛む。なんて光だ……。
「テルくん! シングさん! 大丈夫か?!」
赤毛のロッテさんが、俺たちとじっちゃんの盾になるように立ち。
「ミッくん! 展開(ディストリクト!)」
アホウドリサイズの機霊を顕現させた。
ロッテさんが肩に背負ってる機霊機が、巨大な金属の翼を雄大に広げる。と同時に、ロッテさんの右肩付近に、金髪イケメンがふわっと現れる。
『ロッテ! なんだこの光は!』
「ミッくん! すんげー熱い! だから俺たちを守れ。俺たち、だぞ! 俺たち!」
『なぜ他の者まで? いとしい君は絶対に守るが――』
「命令だっつの!」
『嫌だ……』
「こら! 俺のことほんとに愛してんなら、そんな切ない顔しないで言うこと聞けー!!」
『う……』
うわ。ミッくんてば、相変わらずの反応だ。前に改造請け負った時も、ロッテさんがそばにいないと、機霊機の中を開かせてくれなかったよこいつ。俺の顔なんてまともに見もしなかったもん。黒髪は好みじゃないとか赤毛こそ最高だとか、ぶうぶう言ってさ……
イケメン機霊が、じとっと俺とじっちゃんを睨んでくる。
『だ、だがロッテ、こやつらは、オスだ。ロッテを襲うかもしれな――』
「つべこべいわずに、最高範囲まで結界展開(シールドディストリクト)ーっ! やってくれたら、俺のほっぺたにチューすんのを許すーっ!!」
これから先どうしましょう・・・。