機霊戦記 9話 グングニル(後編)
- カテゴリ:自作小説
- 2016/10/13 11:26:24
『ロッテ! 接触バリアがもたない!! 下の熱玉が熱すぎる!』
「りっ……離脱! 離脱だミッくん! 頭上の敵が一掃された!」
『了解!』
「う……うあああああああああ!!」
背中が焼ける……。
すさまじい熱と光を放熱する僕を掴んで、むかつく赤毛少年が空を飛ぶのを、親衛隊が見つけてくれた。
迎えに来てくれたのだと、思った。
だってあの白銀の翼の騎士たちとは、謁見の間でよく会っていたから。
『陛下は、私たちとは違います』
礼をとり、にっこり顔で言上する金髪の乙女たち。
みんな、僕のことを敬愛してるはずだ。
なのに。なぜ?
なぜ――
「僕を地に落としたのは誰だ!」
降り注いでくる、蒼い光。騎士たちはなぜ、白銀《アルゲン》の光を僕に浴びせる? なんで僕もろとも滅そうとしている?
僕を人形呼ばわりしたやつが僕を守るなんて。
アホウドリサイズの機霊は思ったより強かったが、こんな奴に守られるべき僕とアルじゃない!
「不忠にも反乱を起こしたのか? ならば制裁あるのみ!」
そういえば。親衛隊は普段から、注意ばかりしてきた。
『陛下、極力、飛翔はお控えを』
『陛下、アルゲントラウムの顕現は抑えてくださりませ』
『陛下の御ためです』
なぜ僕は戦場に降りて戦えない?
なぜ普通にアルと飛ぶことができない?
決められた時間。なぜたった一刻だけしか外に出られないんだ?
『Welle・Wahrnehmung……』
「アル……! 目覚めてくれたのか?」
背中が熱い。何かがじわじわと出てくる。
この感触は、まごうことなくアルゲントラウム。
きっと自己修復が終わったんだ。
顕現……する――!
『……Mareisunir……』
「アル?! 違う僕は、マレイスニールじゃ、ないっ」
アルゲントラウムは、僕の名前を忘れている。僕のことを初代皇帝だと認識しているようだ……。
『ich spürte……Die schwarz Maschine Geister im Nexus Colonia……』
言葉がおかしい。いつもの共通語じゃない。古代語だろうか。一体何を言っている?
僕の背中から、光の柱がどうっと空へと立ち昇った。
そのすさまじい波動で、この場から離脱しかけていた赤毛少年が後押しされるように吹き飛ばされていく。
「うがあああ! 熱玉少年! ぱねえことするんじゃねえええ!」
『ロッテー! ま……も……るー!!』
イケメン機霊にしがみつかれた赤毛少年が、はるか視界のかなたへ飛んでいくのを、僕自身も背中の光に押し上げられながら見つめた。
頭上にいるのは黒い奴一騎。こいつが、僕を攻撃した帝国の騎士どもを蹴散らした。
僕の黄金の翼が激しくはばたく。
みるみる、黒いコウモリのような翼を生やした少年に近づく――
「テル……?!」
「おおっ。アムル! お前の機霊、復活したみたいだなっ」
テルが嬉しそうに笑う。
左肩にいる異様な機霊。漆黒の少女も僕を見てにやっとする。
テルが、僕を助けてくれた?
「しっかしまぶしいぜ。さすが黄金級だなぁ」
「テル……」
黒髪少年の機霊は変な機体だ。国籍の標識も信号も見えない。
「テル、ありが……」
礼を言おうとした僕は、勢いあまってテルの腕の中に飛び込んで。
思わず奴の胸をひっつかんだ。
その瞬間。
『Reparatur Wert achtundachtzig Prozent
Stellen Sie sicher, dass es ein Krieg möglich Bereich
sofort, Krieg……Start!』
左肩にぼやけて顕現しているアルゲントラウムが、勝手に僕の翼を最大展開させて。
「アル!?」
僕の頭上にて武器顕現を開始した。
『Laden Sie die Gungnir……Ladebeginn……Countdown!』
「なっ!? アルやめろ!!」
『zehn・neun・acht・sieben・sechs・fünf……』
「う? なななな?! 翼から槍が出てきたー? なんか数えてるぞこれっ?!」
『業主! 相距!』
アルには、僕の声が聞こえないのか?
危機を察して、テルと黒い機霊が僕から離れていく。
「アムル! そいつをどうにかして止めろー!」
必死の形相で叫びながら。
「極力動かすな! でないとお前っ……」
テルも騎士たちと同じことを?
アルを戦わせるな?
たしかに標的がテルになってしまっているから、止めないといけないが……
『でないとお前っ……』
僕? 僕がどうしたっていうんだ?
僕は特別だ。帝国皇帝。現人神。
アルを使えるのは、僕だけ――。
「やめろアル!」
『Mareisunir……Ich werde Sie schützen!』
「アル!!」
自動修復中ということもあるのかもしれない。
でも僕の声が、全然聞こえないなんてそんな……。
我が頭上にみるみる形成されていく光の槍。これはどこかで見たことがある。
そうだ謁見の間の……天井に描かれた高祖帝の姿。
暗黒の島都市《ネクサス・コロニア》の暗黒帝を貫いた、神の槍――
「だめだアル! その槍は破壊力が強すぎる!」
『Injektion!!』
「うわああああ! こっちくる! でけえええ!!」
逃げるテルめがけて、アルが勝手に放った槍が飛ぶ。
「テル! 避けろ!!」
お願いだ。当たらないでくれ。頼むから。頼むから。
あいつは僕を助けてくれたんだ。僕を……
おのれの親衛隊に攻撃された僕を……
テルの黒い機霊がものすごい速さで旋回して。
太い光の槍をぎりぎりのところでかわした。
「ああ……よかっ……」
ホッとしたのもつかの間。
「あう?!」
僕は我が口を押さえて身を二つに折った。
全身を襲う、恐ろしい疲労感。そして……
「ぐふっ……!」
僕は胸にこみ上げてきた熱の塊のようなものを、抑えきれずに吐き出した。
口の間からどろどろと、熱いものが出てくる。
うめき声と一緒に。
それは。おびただしくも大量の。
真紅の血。
「なにこれ……」
――「アムル!! アムル大丈夫かー!!」
真っ赤に染まった両手を見て愕然とする僕に。
テルが必死に叫んでいた。
「アムル、アルゲントラウムを使うなーっ。でないと、おまえ……おまえ命を吸われてっ……」
その声は。黒い機霊が放つ紫の風に乗ってきた。
「死んじまうぞおおおおっ!!」
お読みくださりありがとうございます><
西はドイツ語、東は中国語で機霊がしゃべってます^^
煌の国では現地人も中国語をしゃべっているらしいのですが、
エルドラシアではドイツ語はかなり古い古代語になっている感じで、
アムルくんにはわからないみたいです。
ドイツと中国、赤い大地にかつてあった国なのかそれともそれとも…
お読みくださりありがとうございます><
熱血てきとー型テル、次回王道でがんばります><
西の帝国の言葉とともに顕現する皇帝幾。
そこから放たれた神の槍をぎりぎりかわす
東の帝国の言葉をあやつる機霊を持つ少年・・
狙われた理由と命の行方、
次回が楽しみです^^