Nicotto Town



機霊戦記 エピローグ 未来は。 (中)

 古きものとて、新しい物に生まれ変われるのじゃが。

 ジイさんは寂しげにそうつぶやいて、卓の隣の棚を見やった。

 本やらブタの貯金箱やら置いてあるそこに、小さな3Dの立体映像オブジェがある。

 にっこり顔の白髪のお婆さんの全身像だが、まるで生きている妖精のように活き活きとポーズを変える。アニメのフィギュア人形のようなポーズを取るのがちょっと気になるけど、察するに、ジイさんがこのお婆さんの映像をリフォームしたか何かで造った、幻影像なんだろう。

「しかしなぁ……真実はどうか解らんぞ。あの帝国の内情を隠すヴェールは相当に分厚い。あの女帝陛下自身が、かなりの実権を持っておる可能性もあろう。なにせ、覇道を行った高祖帝のコピーじゃ。性格も性癖もそっくりじゃろうて」

 たしかになぁ。事情を知ったら率先して、先代のクローン体を排除しそうな雰囲気ではある。

 まあともかくも、とジイさんはナノビジョンの中の女帝の姿を見てつぶやいた。

「融合型はこれからも進化していくじゃろう。主人が死ななければ取り外せないという仕様も、いずれ克服するじゃろうて」

 え。そうなると、分離型と変わらなくなるような。

 いつか二つの型が統合するとか、そんなことが起こるってことか?

「うんまあ、機霊機を取り外せるのって、すごくいいと思うぜ?」

 今の俺は、非常にすがすがしい気分。

 メンテとさらなる改造補強のためにミッくんを背中から下ろして、テルに預けてるからだ。

 背負う形の機霊機って結構重いんだって、実感しているところである。

 分離型だったら、好きなときに完全に独りになれる。それがいい。

 オレがこう思うのって、日々ミッくんにベタつかれてるせいなんだろうなぁ。

 あのミッくんがもし融合型だったらと思うと。恐ろしくて、夜も眠れな――。

「ぁぁぁぁあああああああああ!!」

「う?!」

「テル? どうしたんじゃ?」

「ロッテさん! 早く背負って! 機霊機背負ってえええ!」

 地下の隠し工房から、テルがオレの機霊機を抱えて駆け上がってきた。

 目玉かっぴらいたすごい鬼気迫る表情で、オレに機霊機をどずんと背負わせてくる。

 とたんに、右肩にイケメンな相棒が現れた。

「どどど、どうした?!」

「ミッくんが、今すぐロッテさんに会わせなかったら、合掌翼ぶちかますって駄々こねてええ」

「ひっ? 合掌翼って、今回注文した新機能じゃん。もうつけてくれたのかっ」

「そ、そりゃあ、優秀な助手がいっからさぁ。そこはもうちょちょいと……」

『ロッテー! いとしの君! 会いたかった!  私たちは、もう二度と会えないかと……!』

 みみみミッくん! わざわざテルにつけてもらったばかりの新能力を、脅しに使うなよ!

 ていうかオレたち。

「離れてまだ一時間も経ってねえだろうがあああ!」

『テルの助手がっ……わた、私をいじめるんだっ……』

「うがふっ」

 情けない顔でオレの腰にタックルしてしがみついてくるミッくん。

 なんだよこの上目遣いのうるうる目はっ! かわいいけどきもい! 果てしなくきもい!

「テル……こいつの性格も今すぐ直してくれ……後生だ……」

「無理だよロッテさん」

 ハハハと、テルが苦笑して冷や汗たらんしながら、ほっぺたを人差し指で掻く。

「ミッくんは純粋な機霊じゃなくて、どうもおたくの家で実際に人間として生きた、ロッテさんのご先祖様? らしいから……」

「ええええっ?!」

「つまりなんていうか、AIじゃなくて本物の人魂が、この機霊箱に封印されてる稀有な形態っぽくて……」

『もう嫌だ! 改造は嫌だロッテ! 家に帰りたいっ。私の城にっ……』

 ミッくんが……オレの、ご先祖だとお?!

 そ、それで父上も母上も姉さんたちも、ミッくんがオレを後継者に指名したとき、反抗できなかったのか!

――「おい! まだ部品を全部取り付けてないぞ」

 階下から颯爽とテルの助手が上がってきた。

 腕まくりの作業服姿。腰に平たいベルト状の道具袋を巻き、両手にはかっこいい革手袋。機霊用のちっちゃな部品とスパナを持っている。頭には、テルとおそろいの拡大鏡とゴーグル。

 テルが数日前に雇ったばかりの、新米助手だ。

 目の覚めるような銀の髪のまぶしさに、オレの目が一瞬焼かれる――。

 「ほうほう。その部品は反動調節弁じゃな。ミッくんよ、おぬしの翼につけないと、ロッテくんが大変なことになるぞい」

『ででででもっ』

「いやぁ、俺の助手がさ、新しい部品を見て怖がって泣きだしたミッくん見てさ、根性が足らねえって切れて、ひっぱたいちゃって。てことでロッテさん、いつものように一緒に作業に立ち会ってくんねえか?」

 テルがごめんごめんとへこへこ頭を掻くその隣で。

「ふん、軟弱者が。大年寄りのくせに、子供のように泣くなど情けない!」

 新米助手が呆れ顔でミッくんを見下げて腕組みする。とても目つきが悪い奴だ。顔はナノビジョンに映ってる女帝と、瓜二つ。

 すなわち女の子とみまがうっていうか。いや実際に女の子でもある……んだよな。

 エルドラシア帝国に伝わる伝説では。

 かの帝国の高祖帝は、完全なる者。陰と陽、光と闇が打ち合わさりし完璧なる存在、とかなんとか、褒め称えられている……。

 

 

#日記広場:自作小説

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2016/11/25 06:08
愛されましたかな。




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