機霊戦記 エピローグ 未来は。 (後)
- カテゴリ:自作小説
- 2016/11/24 11:44:30
「テルにアムルくん。ミッくんを仕上げる前に、茶でも飲んでひと息入れんかね?」
シング老がこぽこぽとポットから茶色い液体をカップに入れて、新米助手に差し出した。
「泥水か!」
とたんに新米助手は目を輝かせ、甘ったるい香りが漂う飲み物を受け取った。
その隣でじっちゃん俺のはー? と、御大の孫が口を尖らせる。
「テルはいつものコーヒーでよかろう。自分で入れなさい」
待遇違いすぎねえ?! と目を剥きながら、オレが飲んでるのと同じインスタント合成コーヒーの粉をざっくざっくカップに入れて、魔法瓶でどぽどぽ湯を入れるテル。
くそまずいコーヒーの香りは苦そう。
かたや新米助手が飲んでる甘い飲料の香りは、ほんとにおいしそうだ。
ジイさんが裏庭で栽培している、なんとか豆っていうのを挽いた特製合成飲料らしい。
『これよりエルドラシア女帝陛下が、次の戦に挑む息込みを表明なさいます!』
卓に嵌ったナノビジョンからのアナウンサーの声に、一瞬、新米助手がびくりとする。
だがその怯えのような表情は。
カップから立ち上る甘くとろけそうな匂いの湯気で、ほろっと溶かされた。
「おいしい……」
――「あー。いいにおい~♪」
そこに、先っぽが禿げた尻尾をぴんと立てたむら毛猫が鼻歌混じりに入ってきた。
プジちゃんだ。
シング老が、こらこら飲んではいかんぞ、と機霊猫に釘を刺す。
「こいつは特殊配合で、アムル専用じゃ。もうなめたらいかんぞ、タマ」
「んもう、わかってるわよぉ。まさかカカオ豆と仙丹のブレンドだって思わなかったからぁー」
プジちゃんがゴロゴロとのどを鳴らして、ジイさんの足にぬそーと尻尾を絡みつかせる。
そうそう、カカオ。カカオだよ、豆の名前。
……ん? 仙丹って、なんだ?
「通りであたし、かわいい幼女に若返っちゃったわけよねえ」
「じっちゃん、だからこいつはプジだってば……」
がっくりするテルを尻目に、御大が新米助手に微笑む。
「アムルくん、あとひと月ほど、毎日飲みつづけるとよいぞ。内臓が丈夫になって、百歳まで生きること間違いなしじゃ」
「ひと月? もっと飲み続けたいんだが。できれば一生」
「ほうほう。そうしたらおぬし、赤ん坊になって消滅してしまうぞい。では仙丹の成分を抜いたココアを作ろうかのぅ」
ここの御大って……ほんと一体何者なのよ?
機械だけでなく、一風変わった医術の知識も持ってるようで、銀髪の新米助手は現在元気もりもり。とてもいったん心臓が停止して、死亡確認された身だとは思えない。
新米助手がいったん死亡した直後、プジちゃんは大爆発を起こして、帝国騎士たちの目をくらました。
『アルゲントラウムと元皇帝は、槍の破裂を止めようとした黒機霊を巻き込んで、爆発。自身が放出した黄金の熱で蒸発してしまった』ように、見せかけたんだ。
それで集まってきた野次馬も群がるどころじゃなく、退避を余儀なくされたわけだが。
じいさんもプジちゃんをつくったテルもたいしたもんだ。
このジイさんと孫、どこの島都市から流れてきた技師なんだろうなぁ……。
「よし、テル。休憩終わり。引き続き、修行に戻るぞ。僕にハンダ付け裏技術その3を伝授しろ」
「うっしゃ! アムルは筋がいいからな。すぐに俺やじっちゃんみたくなれるぜ! そうそう、今度遺跡に発掘しに行こうな」
「うむ。それは楽しみだ」
『い、いいい嫌だロッテ!』
ミッくん。腰にしがみつかれたら、動けねえよ。おい。
『こいつらまた私に、何か変なものをひっつけようというのかっ。しかも未熟な手でっ』
「失礼な。僕は生まれながらに言葉を喋れたほどの完璧なる者。すごく器用なんだ。さっきもちゃんと、部品をつけてやっただろう」
『ひいいい!』
新米助手が片手のスパナ示してすごんでくる。技師ルックいいなぁ。
オレもいいかげん女装止めたいよ。
ん? 融合型が進化して分離型と統合するなら、男の機貴人が復活するんじゃねえか?
おお! いつかこの女装生活、終わりにできる未来が来るかもしれねえ!
オレも革ジャンジーンズで、びしぃとかっこよくキめられる日が。
未来は。
オレの未来はきっと、明るい――!!
背中のミッくんを地下に連れて行くにはちょっと骨を折った。
怖いを連呼する情けない機霊に、オレはやむなく伝家の宝刀を使用。
「いい子にしたらご褒美をやる」
ため息混じりに人差し指でおのがほっぺたをつつんと突いて見せたら、ミッくんは小躍りして歓喜しやがった。
『おおおお! そこに口づけていいのか? で、ででででは! がんばるしかあるまい!』
ふん。現金な奴め。
ていうかこれ、ミッくんの作戦じゃねえかって気がしてきたよ。
ごねまくって、オレが仕方なく譲歩するのを待ってるんじゃないのかこれ。
先祖だろうがなんだろうが、遠慮しないでこれから厳しくしつけないとだめだなぁ。
それにしても。
シング老の地下工房はかなり広い。天井も高い。
この鍾乳洞の洞窟のような工房にいたる階段の段数は結構ある。
渋々言うことを聞いたミッくんがここぞとばかりに甘えてしなだれかかってくるので、オレはテルと新米助手からだいぶ遅れて、工房に入った。
工房の中には、培養液が詰まったカプセルがずらり。炉も機材も、何でもそろってる。
モグリにしちゃあ、すごすぎる設備だ。
「……」
そのかなり広大な工房の、右奥で。新米助手が、ギヤマンの小さなケースをじいっと見つめていた。
ケースにそっと、右手をあてて。
中には。金枠に縁取られた、銀色の円く平たい結晶が入っている……。
「アル……」
新米助手くんは、少し前までおのが体に埋まっていたその結晶に話しかけた。
やさしく、微笑みながら。
「いつかきっと、君を復活させる」
そいつは。一度死んだ新米助手の体から取り出された、古い機霊。
凍結封印で保存されている、日輪のアルゲントラウム。
「僕がこの手で、君を生まれ変わらせる。古いものだって、新しくなれるんだ。だから……もう少し待っていて」
「猫型いいぜ猫型。犬型も捨てがたいな」
隣でテルが、機霊機の型が何がいいかってお奨めしたが。
「はぁ?」
目つき悪い新米助手は、じとっと横目で隣の先輩技師を睨んだ。
「何を言っている。当然、可憐な少女型の機霊機を造るのに決まってるだろう」
「え? し、少女? こ、恋人にするならイケメン機霊……い、い、いや、機霊が恋人? そそそそれはちょっと……健全に、ふつーの男の子とおつきあいした方が――」
「はあ?! なんで男と付き合わないといけないんだ。僕は男だと言ってるだろうが!!」
ああ……あわれ新米助手にスパーンと頭はたかれる先輩技師。
が、がんばれ黒髪少年。オレもがんばるよ。
『ロッテ……愛してる』
「ぐふ。抱きつくなこら!」
その道に。墜ちないよーに……。
ご高覧ありがとうございます><
応募サイトにあげたこのお話のキャッチコピーは「古きものは滅びねばならないのか?」でした。
アムル自身も生まれ変わってリニューアル、そしてアルゲントラウムも……
それにしてもほんと、ココア飲みすぎ注意ですよね^^;
今回は推奨四万字という字数を気にしながら書いたので
ものすごくざざっとで情報をわんさとつめこんでいる感じです。
改稿で舌足らずなところ、情報のそぎおとしなどなどやってみたいと思います。
ご高覧ありがとうございます><
ほんとにそうですよね。
まさに「生まれ変わった」アムルくん。
無事にものづくり系へのジョブチェンジですね^^;
カカオと仙丹の混合物だと、若返る前に
鼻血で倒れそうです^^;
続きがあるようでちょっと安心しました。
楽しみに待っております♪