自作11月 樹木 「センニンソウ」 4/4
- カテゴリ:自作小説
- 2016/11/30 10:52:39
こうして。
赤毛の少女は去っていきました。
人間たちとウサギと、なんとか息を吹き返した狼と。そして促進剤を乗せたポチ七号はなんと大きな鳥型に変じて、空に舞い上がったのです。ぼろぼろの鉄の竜だけが、私たちのすそ野に残されました。
その出来事はまるで春の嵐のようで、あっという間のことでした。
――いってしまった。
桜の若君は呆然とつぶやきました。
――あの男、覚醒したとなればゆゆしきことぞ。一度そうなれば……
大杉の翁さまはうめきました。
若君は、赤毛の少女を。
翁さまは、赤毛の男を。
それぞれ、案じておりました。
私たちは、桜の若君はもうすっかり、失恋してしまったものだと思っておりました。
若君はひがな一日切り株に座り、鉄の鳥が去っていった方角を眺めるようになり。月日がこんこんとたちました。
――あの子はもう帰ってこない。
赤毛の少女だけではありません。
ほかのだれも、帰ってくるそぶりなど、ありませんでした。
――あの子は帰ってこない……
――あの子は……
私たちがひどく同情するほど、桜の若君はしなだれてしまいました。
なんとも哀れに。
せっかく芽吹いた芽が枯れかけるぐらいに……。
だれかれとなく、彼を励ましました。きっと少女は帰ってくると。
――まさか。帰ってなどくるものか。
若君のつよがりは弱弱しく。
私たちは、このままこの方は枯れてしまうのではと心を痛めました。
でも。
きっとその想いが通じたのでしょう。
その夏。ふわふわ白い綿蟲が降ってくるころ。
私たちは、あの鳥が飛んでくるのを目撃したのでした。
ポチ七号とかかれた、あの鉄の物体が、みるみる私たちのすそ野にやってくるのを。
その鳥はぴかぴかに輝いていて、中から降りてきた人たちの顔もそれ以上に輝いておりました。
――スオウ!
だれよりも喜んだのは桜の若君で。
――ことなきをえたか!
だれよりも安心したのは大杉の翁さまでした。
「ここがすっかりもとどおりになるまで、監督する約束ですから」
「――ってうちの娘がいうもんで、またぞろ促進剤いっぱいつくってきたわー」
鳥から降りてきたのは赤毛の少女と白いウサギ。そして、赤毛の男と黄金の狼。
それから、黒髪の男。
銀縁取りの騎士たちは、いまだ「塔」と呼ばれるところにいるとかいないとか。
そのあたかも勲詩のようなてんまつを、私たちはそれからえんえん、黒髪の男からきかされる(自慢される?)ことになったのですが。それはまた、別の長い長いお話なのでございます――。
こうして赤毛の娘はまた、私たちのすそ野に水をまいてくれるようになりました。
「芽吹いてきますように。緑の森に、なりますように」
祈るように言葉をつむぎながら、緑一面となった野に、毎日。毎日
広い広い山のふもとには若芽が芽吹き、私たちはみな、見違えるほど伸びています。
赤い髪の娘は、今日もにっこり私に微笑みかけます。
「もっと大きくなってね」
ああ……なんてかわいらしい。
いったいだれが、こんな幸せを手に入れられると想像したでしょうか。
私はいま、幸せです。
とても幸せです。
この少女の笑顔を、毎日見られるのですから。
それにしても桜の若君はいつ、この少女に告白できるのでありましょうか。
あれからなかなか、よい時宜にめぐまれておりません。まったくじれじれもよいところです。
もしあと三日のうちにだめでしたら、私、また名乗りをあげようかと思います。
そして再び精霊じゃんけんをするよう若君に申し込み、果敢に告白権を勝ち取りたいものです。
なにしろ促進剤のおかげで今の私は。
この夏、私は――。
「もう、つる草じゃないわね。とてもりっぱだわ」
赤毛の少女がほれぼれと私を見上げてくれます。
いとしい人よ。あなたには、感謝してもしきれません。
おかげさまで、私はなんともりっぱな木のようになれました。
もちろん、この木霊の姿も劇的に変わっていますでしょう?
すばらしく、二枚目にね。
ふふふふっ。
――了――
ご高覧ありがとうございます><
緑のすそ野や青い空、感じていただけてとてもうれしいです><
精霊じゃんけん、ほんといったいどんな戦いなのか。
かなり熾烈らしいので、ちょっと詳しく書いてみたい気もします。
たぶん三種類の眷属をつかう、陣取りゲームみたいな要素があるのかなと思います。
ご高覧ありがとうございます><
長期計画で芽生えた恋。若君がんばれ^^;
そうなのです。
おばちゃん代理は暗黒面に落ちる可能性のある人……
ってこれからヨーダさんに弟子入りしないといけないですね(違)
赤猫が選ぶぐらいなので、何かはあるのでしょうか、
なんだか塩基配列的に変な人みたいです。
次回は、赤猫の大愚痴り大会になりそうです汗汗
ご高覧ありがとうございます><
この夢のような幸せな気分がいつまで続くのでありましょうか……>ω<
ライバルいっぱいじれじれラブストーリーになりそうな予感です。
ご高覧ありがとうございます><
いやいや愛は奇跡を呼ぶと申しますので、
異界異種恋愛も成就してしまうのかもしれません。
でもこんど告白権を獲得するのは若君じゃ……ないかもしれない
可能性がががが^^;
恋愛ファンタジーに書き直してみたい題材です。
ご高覧ありがとうございます><
これセンニンソウさんが力つけてますし、ほかの木霊さんたちも
またぞろ参戦しそうですよね;
若君、ふたたびしゃんけんに勝てるのか^^;
まずそこからでありますね^^;
ご高覧ありがとうございます><
若君、いつか告白できるときがくるんでしょうか。
ハッピーエンドになればいいですよね^^
桜の若君のじれじれが可愛いし、精霊じゃんけんが興味深いです(^-^)
とても色の綺麗な作品ですね!
森林地帯回復の長期プロジェクトと、桜の若君の片思い^^;
と、その裏でペペさんたちの総力戦・・・
えっ?おばちゃん代理が暗黒面に?
こちらのお話も気になります^^
楽しいお話をありがとうございます♪
いまは夢心地のまま
しかし結局、別世界の姫君……
田舎の産神調査をしていた私
木に宿る女神の神木をみつけました
何時告白出来るかがですね。
根本的に解決していないのが憐れではあります
しかしこれも幸福の一つだとおもいます うに