銀の狐 金の蛇 2 しるし(後編)
- カテゴリ:自作小説
- 2016/12/06 12:09:10
「……!」
ぴんときて、弟子が飛びつくようにして指示されたところを開ける。
とたんに淡い色の眼が輝いて、顔にぱぁっと薔薇色の紅潮が走った。
「ソム! これ……アマルサの顔料?」
「そなたのものだ。使いなさい」
弟子はうっとりと、紅色の顔料が入ったギヤマンの瓶を手に取った。
「爪に塗ると光沢が出て本当にきれいで……ああ、ずっと欲しかったものです」
「細手のテスタメノスが一番弟子に贈ったのを、ずいぶんうらやましがってたろう?」
「ええ。テスタメノスのミメルは最終試験に受かって、来月晴れて導師になるんです。そのお祝いとしていただいたんですって」
「ああ、よーく知ってる。
『卜占棒を握るあのすばらしく長くて細い私の子の指をごらんなさい、ソムニウス! あの輝く白魚のような私の子の手に、あの彩りはすばらしく映えておりますでしょう?』
「待って……」
弟子の唇がフッと浮き、白い体が離れた。
「どうした?」
「つけて……おねがい、つけて。印……花の印を。たくさん……」
「ああ、いつものか」
ソムニウスはせつない甘え声でねだる弟子を胸に引き寄せ、その白い首筋に吸いついた。
強く唇ではさみ、赤いうっ血を作る。
「ソムのしるし……もっとつけて。もっと……」
弟子は印をつけられるのが好きだ。床を共にすれば必ず、つけてくれとせがんでくる。いつも、ひとつになる直前に。まるで何かを確認するかのように……。
「夜にもたくさんつけたのに。もう花畑になってるぞ?」
「いいの。たくさんあった方がいいの」
ニ、三個増やしたところで印をつけるのに飽き、わざと乱暴に引き倒せば。弟子は無体に開かれることを期待してか、足をぴたりと閉じてきた。
ソムニウスは無言で無理やり、そのすらりとした白い足を膝で押し割った。
「私のカディヤ……」
囁いてやれば、熱くうるんだ瞳が誘ってくる――。
――って、テスタメノスが鼻たっかだかに自慢してたからな」
弟子がぷっと吹き出す。ソムニウスがくるくる両手の指を絡ませて、完璧にあの細手の人のもの真似をしたからだ。
「しかしあの色合いは上品すぎる。そなたに合わせて、もっと濃い色のを買った」
「ええ、とても美(よ)い色です。でもどうやって手に入れたんです? うちにお金なんてありませんし。葡萄酒の権利は誰にも譲ってなかったでしょう?」
「先週地下のへロム鉱採掘場で、落としものを拾っただろ。あれは長老ナイレウスどのの護符だった。お礼に銀をいただいたから、それで供物船に頼んだのだ」
「ああ……ソム!」
歓喜のため息をついた弟子はさっそく瓶に筆をいれ、小指の爪に淡い紅を乗せた。
「きれいだ」
その紅映える指を眺めてうっとりつぶやくと、弟子はにこにこ顔でするりと褥に滑りこんできた。白い手がすうと伸ばされて、白魚のような手がソムニウスの匂い袋に触れる。
「まだ寒いですか?」
「ああ、寒いなぁ。特にここが」
弟子の白い手がすべらかに、胸から下腹部へと這っていく。
火鉢の熱にしばし炙られていた白い手が、ソムニウスが指さすところを暖かく包む。
「本当に寒いんですか? とても熱いですよ?」
「おや? さっき太くて大きいと、そなたに言われたからかな?」
「太いとは、言ってません」
「そうだったか?」
とぼけた貌でうそぶいてやると、一番弟子の艶めいた唇の端がくいと上がった。
「もっと熱くしますか?」
「ああ頼む。今朝は寒くてかなわない。ああ寒い。寒いなぁ」
笑い声を漏らしながら薄紅色の唇がそこに近づく。
弟子がぷっと吹き出す。ソムニウスがくるくる両手の指を絡ませて、完璧にあの細手の人のもの真似をしたからだ。
「しかしあの色合いは上品すぎる。そなたに合わせて、もっと濃い色のを買った」
「ええ、とても美(よ)い色です。でもどうやって手に入れたんです? うちにお金なんてありませんし。葡萄酒の権利は誰にも譲ってなかったでしょう?」
「先週地下のへロム鉱採掘場で、落としものを拾っただろ。あれは長老ナイレウスどのの護符だった。お礼に銀をいただいたから、それで供物船に頼んだのだ」
「ああ……ソム!」
歓喜のため息をついた弟子はさっそく瓶に筆をいれ、小指の爪に淡い紅を乗せた。
「きれいだ」
その紅映える指を眺めてうっとりつぶやくと、弟子はにこにこ顔でするりと褥に滑りこんできた。白い手がすうと伸ばされて、白魚のような手がソムニウスの匂い袋に触れる。
「まだ寒いですか?」
「ああ、寒いなぁ。特にここが」
弟子の白い手がすべらかに、胸から下腹部へと這っていく。
火鉢の熱にしばし炙られていた白い手が、ソムニウスが指さすところを暖かく包む。
「本当に寒いんですか? とても熱いですよ?」
「おや? さっき太くて大きいと、そなたに言われたからかな?」
「太いとは、言ってません」
「そうだったか?」
とぼけた貌でうそぶいてやると、一番弟子の艶めいた唇の端がくいと上がった。
「もっと熱くしますか?」
「ああ頼む。今朝は寒くてかなわない。ああ寒い。寒いなぁ」
笑い声を漏らしながら薄紅色の唇がそこに近づく。
刹那。ソムニウスは至福の貌を浮かべて、一番弟子の巻き毛に指を掻き入れた。
「いい子だ……カディヤ」
弟子と同衾すると、ソムニウスはいつも翻弄されて、支配されている気分になる。
つまりひどく焦らされるのだが、それが悔しくも実に心地よい。
よすぎて思わず弟子の肩に爪をたててしまうおのれは、情けなくもひよわな子猫。対する相手は噛み付いてくるような勢いの、獰猛な獣――まるで豹だ。
少しでも声をあげれば、勝ち誇った顔をされる。
「いい子だ……カディヤ」
弟子と同衾すると、ソムニウスはいつも翻弄されて、支配されている気分になる。
つまりひどく焦らされるのだが、それが悔しくも実に心地よい。
よすぎて思わず弟子の肩に爪をたててしまうおのれは、情けなくもひよわな子猫。対する相手は噛み付いてくるような勢いの、獰猛な獣――まるで豹だ。
少しでも声をあげれば、勝ち誇った顔をされる。
「そなた、飢(かつ)えているな」
悔し紛れに言えば、弟子はくすりと不敵な笑みをうかべ、紅の唇を開いて牙をむいてくる。まったく、容赦ない。
ああ。喰らわれる――。
しかし。
ああ。喰らわれる――。
しかし。
熱い波に完全に呑まれると思った寸前。
「待って……」
弟子の唇がフッと浮き、白い体が離れた。
その貌はさきほどまでの猛獣顔はどこへやら。なんともかわいらしくあどけない少女のようになっている。
「どうした?」
「つけて……おねがい、つけて。印……花の印を。たくさん……」
「ああ、いつものか」
ソムニウスはせつない甘え声でねだる弟子を胸に引き寄せ、その白い首筋に吸いついた。
強く唇ではさみ、赤いうっ血を作る。
「ソムのしるし……もっとつけて。もっと……」
弟子は印をつけられるのが好きだ。床を共にすれば必ず、つけてくれとせがんでくる。いつも、ひとつになる直前に。まるで何かを確認するかのように……。
「夜にもたくさんつけたのに。もう花畑になってるぞ?」
「いいの。たくさんあった方がいいの」
ニ、三個増やしたところで印をつけるのに飽き、わざと乱暴に引き倒せば。弟子は無体に開かれることを期待してか、足をぴたりと閉じてきた。
ソムニウスは無言で無理やり、そのすらりとした白い足を膝で押し割った。
「私のカディヤ……」
囁いてやれば、熱くうるんだ瞳が誘ってくる――。
求めに応えて熱波の中に身を投じたとき。
「ソム……愛してる……愛してるわ!」
弟子の声に酔うソムニウスはすっかり忘れてしまった。
寝覚めに視た、縁起の悪い夢を。
寝覚めに視た、縁起の悪い夢を。
えー 全然これ男性同士でよろしいと思いますのに。
もとはBL版ですが、今回は試験的にカディヤは女の子にしています^^
数は少ないけれど女子もいて、お薬で生殖能力を抑えている、という設定です。
寺院には女子がいないというアスパの設定を覚えていてくださってとてもうれしいです。
ありがとうございます;ω;
で、男の弟子を愛してどうするのでしょうというご質問ですが、
中世の修道院と同じくお稚児さん趣味という理由の他に。
ソムニウスの親友のテスタメノスがいうには、
「父親として弟子に接するのは敗北の道。育ての親に勝つには、恋人にするしかない」のだそうです。
アドバイスありがとうございました><!
一般の方のご感想・ご見解は大変に参考になります。
R15・R18の境界も悩むところですが、一般文芸の表現もまた非常に難しく悩ましいものです。、
おかげさまでひとつ理解が進みました。
指摘箇所、早速訂正させていただきました。
なるほど、無意識に逃げておりまし;
ずばっと書かないとですね><
まだまだ思い切りが足りないので精進せねば……。
本当にありがとうございました><!
(ご意見私が読みましたら削除ご希望とのことですので、消させていただきました)
それよりも導師が、男の弟子を愛してどうするのでしょうかね・・・。
BL版もなおしたいところですが……
「いい子だ、カディヤ」のあとは全部切ってもいい構成なのですが、
「キスマーク」がこのお話の最重要項目なので書かんわけにいかないという……;
一般文芸でどこまで描写OKなのかちょっとよくわかりません。
私がこれまで読んだ探偵ものや一般小説とかでは、濡れ場シーンて、かなり赤裸々な感じが……。
R指定ないのに、具体的なSMシーンとか、ラブシーンとか結構あります。
(いやほんとに官能小説じゃなくて、全年齢が読める一般もので、です)
おしもの毛の色とか描写してるのあったり、女主人公が娼館に入ってお相手する様子とか;
洋画でもさしはさまれるお楽しみラブシーンて、かなりきわどかったりしますが;
極力婉曲な表現を心がけますが、
書いてOK!な線がどこらへんなのか、そこのところをご指摘くださるとうれしいです。