童話 サンタさんのお嫁さん (メリクリ・コーデ)
- カテゴリ:自作小説
- 2016/12/07 02:45:18
その日。わしの家の郵便受けに、北の果ての果てのお屋敷からの手紙が入っておった。
雪の結晶で封印されていたから、ひと目でそこから投函されたんだとわかったよ。
手紙を開いたら、真っ白な結晶が一瞬あたり一面にいくつも飛び広がって、輝きながら消えていった。
ふわふわ浮いて透けとる氷色の紙をいろどっているのは、なんとも流麗な飾り文字だ。
『十二代目ルドルフ様
ごきげんよう。お元気ですか。引退なされてちょうど十年、お変わりありませんか』
それはサンタさんと一緒に住んでいる、妖精たちからの手紙だった。
毎日毎日、世界中の子どもたちのためにプレゼントを作っている、あの妖精たちだ。
サンタさんの広いお屋敷に何千人といるもんで、そのためあそこはいつもにぎやかだ。
『十三代目ルドルフさんはとても元気です。今年もクリスマスが近づいておりますので、とてもはりきっておいでです』
十三代目はわしの息子で、かなりなやんちゃ坊主。幼いころはいたずらばかり。いわゆる反抗期にはサンタ・ジュニアとつるんで悪さばっかりして、ほとほと手を焼いたもんだ。
だがいよいよ世代交代となったときには、その真っ赤な鼻がわしよりもカアッと赤く力強く、輝いた。
まるでまぶしい太陽のように。
『オヤジ、俺がんばるよ』
なんのことはない、一緒に十三代目を継いだヴィクセンが、ばちっとかわいらしくウインクして、「これからよろしくね」と息子に微笑んだせいだった。
あの娘っこは親に似てかなりおしゃべりだと思うんだが、息子にはちょうどいいらしい。
さて、妖精からの手紙の本題は。
『イブの日に結婚式をしますので、どうぞお越しください』
なんと?
まさか息子はもう、十三代目ヴィクセンとそんな仲に?!
いやいや、いくら代がわりしたからって、二人はまだそんな歳じゃないだろう。
あわてふためきかあさんを呼べば、かあさんもびっくり仰天。
「どうしましょう! 何をお祝いにあげたらいいかしら?!」
いや悩むのは、そこじゃないだろう。
ずれとるかあさんをせっついて、わしらは急いで空を駆けた。
北の北の、北の果てへ。
オーロラたなびく地の果てへ、一目散。
「サンタひゃん! うちの息子を止めてくだひゃい! いやまだひゃやいですよ、うちのばか息子がへっこんなんて!」
真っ白い雪と氷の大地の下の、穴だらけのお屋敷につくなり。
手紙をくわえるわしは、サンタさんに訴えた。
あの息子のこと、面と向かって「結婚やめろ」なんていおうものなら、怒って後ろ足蹴りをかましてくるにきまっているからな。
久しぶりに会ったサンタさんは、しかしきょとん。
いったいなんのことかね、十三代目ルドルフがどうしたんだね、というか「へっこん」って何かねと、首をかしげて聞き返してきた。
「へっこんはへっこんですよ!」
手紙をくわえているわしの隣で、かあさんがおろおろ。
「とりあえず、ヒイラギのリースと金のベルを贈ったらどうかしら」
いやだから悩むのは、そこじゃないだろう。
まあまあ落ち着きなさいと、サンタさんはわしらにおいしい塩をひとにぎりずつくださった。
わしらは喜んで、昔のようにサンタさんのあったかい大きな手から、塩をもぐもぐ。
そうしたらくわえていた手紙がふうわり飛んで――。
「あれえ先代ルドルフさんに先代コメットさん、もういらしてくれたんですか!」
穴のひとつに飛んでいったと思ったら。
妖精たちがうじゃうじゃわらわら、わしらのもとにやってきた。
「いらっしゃい」「いらっしゃい」「ほんとおめでたいですよね」「いやよろこばしい」
待ってくれ。
みんなに祝福されるのはうれしいが、わしの息子はまだまだ若い。結婚なんて――と言いかけたら。
「これでサンタ・ジュニアも、一人前ですね!」
目を輝かせて、妖精のひとりがそう言った。
「サンタ・ジュニア?」
そういえば。わしの息子の悪友は、父親であるサンタさんから、かつてこう申し渡されていたんだった。
『おまえがお嫁さんをもらったら、世代交代じゃ』
わしはてっきり、めんどくさがる息子の代わりに妖精が手紙を書いたと思ってたが。
どうやら妖精が書いたあの手紙は、少々舌足らずだったようだ。
「あらそれじゃ、うちのルドルフは十三代目ヴィクセンと結婚しないの?」
目を丸くしてかあさんが言ったと同時に、ちょうど息子がサンタさんの部屋に入ってきたもんだから、わしらは大慌て。
「あ、オヤジにオフクロ。ちーす。だれが結婚するって?」
いやなんでもない! なんでもない! とわしらはわたわた息子の肩に首をこすりつけて挨拶した。
「元気でやってると聞いてなぁ」
「私たち、結婚式によばれたのよ」
「ああ、サンタ・ジュニアのか」
やんちゃな我が息子はにやり。
「ほんとあいつのお嫁さん、超かわいいんだぜ」
「まあ、だれなの? 会える?」
かあさんは自分の息子の祝い事のようにウキウキ。
「ほっほ。息子の嫁は、百八十八番地に住んでおるぞ」
サンタさんが嬉しげに教えてくれたので、わしらはこっそり穴だらけのこのお屋敷の、百八十八番地にいってみた。
案内してくれたのはわしの息子だ。こいつは、こういうことは率先してやりたがる。
「エレナちゃんが笑顔になりますように。ユキネちゃんが喜んでくれますように」
そこはお人形を作る工房で。
「アイシャちゃんが幸せになりますように。メイちゃんが……」
小さな妖精がひとり、人形を作りながら、呪文のように願い事を唱えていた。
人形が欲しいとサンタさんに願った子たちが、クリスマスの朝、にっこりするようにと。
「ひと目ぼれだったらしいぜ? サンタ・ジュニアもすみにおけないよな」
うしし、と息子が歯をむき出して笑う。
戸口からこっそり、一つ一つ丁寧に作られていく人形を見るなり。かあさんが感嘆のためいきをついた。
「なんてかわいいお人形なの!」
いやほめるのは、そこじゃないだろう。
そう突っ込みかけたわしに、かあさんはうっとり囁いた。
「あの人形の顔をごらんなさい。あんなに幸せそうで愛らしい表情、みたことないわ。あの妖精の娘は、本当にすばらしいわね」
それから一週間後のクリスマス・イブ。
わしらはサンタさんのお屋敷で開かれた盛大な結婚式に参列した。
妖精の娘は雪色のドレスに雪色のブーケ。きらめく雪の結晶と、輝くばかりの笑顔をまとっていた。
サンタ・ジュニアは真っ赤なあの服をサンタさんからもらって着こんでいて、それはそれは誇らしげだった。
サンタの正装といえば、この格好しかあるまい。まだ白いひげは生えていないが、何十年かしたら、きっともふもふになるだろう。
「おめでとう!」「おめでとう!」「幸せに!」
はにかむ本人たちを尻目に、サンタさんも妖精たちも、わしらトナカイたちも大はしゃぎ。
花火がぽんぽん、オーロラ波打つ空にいくつもあがり、踊りの音楽が絶え間なしに演奏されていた。
ひとしきりみんなで踊りたおして、お祝いのごちそうを食べたあと。
新しいサンタさんはわしらの息子を先頭にしたそりにたくさんのプレゼントを乗せて、出発した。
自分の隣に、雪色のドレスを着たお嫁さんを座らせて――。
二人は仲良く一緒に、子どもたちの家にプレゼントを置きに行くのだ。
しゃんしゃんと鈴が鳴り。そりが夜空に舞いあがる……。
「すてきねえ」
そりを見送ったかあさんは、目を細めて微笑んだ。
「新婚旅行は、世界一周だなんて」
だからわしは、ふふんと笑って答えたもんだ。
「わしらだって、そうだったじゃないか?」
―― サンタのお嫁さん 了 ――
(‥)
( : )【メリクリ・コーデ】企画にご参加ありがとうございました
クリスマスブック、コーデ動画が無事アップされたのでご案内状をお届けに参りました(^^♪
詳しくはこちらをどうぞ
カルシファーさんのブログ
http://www.nicotto.jp/blog/detail?user_id=1046108&aid=63370769
(動画のURLが記載されております)
お忙しい中にも関わらず、企画へのご参加、本当にありがとうございました
誰かが繋ぐ御縁で再び巡り会えますように(ノ´∀`*)
北欧風…
かわいく決まりました
ご参加ありがとうございます~
素敵なお話もありがとうございました☆
この様なお話が私にもあれば良いなあと思います。
この度は【メリクリ・コーデ】企画にご参加ありがとうございました
可愛いらしい…
妖精のお嫁さんコーデなのですね^^
一緒にプレゼントを配りながら
新婚旅行!
オーロラも夕焼けも朝もやをくぐって
楽しそう~
コーデだけでなく
素敵なお話をありがとうございました^^
なんだか
私が贈り物(クリスマスプレゼント)を頂いてしまった気がします(感謝
せっかくなのでお話もつけました。
コーデを見て思いついたお話です。
はにさん、本当にありがとうございます。