銀の狐 金の蛇 20話 導きの夢(前編)
- カテゴリ:自作小説
- 2017/08/14 14:11:12
桜の花びらかと思ったら違った。
白いふわふわした綿蟲が天から散り落ちている。
風に揺られて雪のように、ふうわりふうわり。
蒼い湖の上に降って、ゆっくりゆっくり沈んでいく。
(ここは舟の上?)
小さな舟。船べりにいる自分は……とても小さい。見れば白い死装束を着ている。
思わず胸元を抑える。
なぜだろう。とても悲しい。
一緒に舟に乗っているのは、同じ白装束の子供たち数人と、黒い衣をまとった大人たち。
『あの子がスメルニアの極東州から送られてきた、花散君《ハナチルキミ》ですな?』
舟のへ先にたまっている黒い衣の人たちの、囁き声が聞こえてくる。
『ええ、別名、散華《さんげ》の君とは、まさしくあの子のこと。凶事を引き寄せるというあの子の噂は、かの地ではひどく有名だそうで』
『なんでも宿星が最悪。なのに座敷牢に入れて生かしておいたせいで、お家の方々が次々亡くなったそうですぞ。父君に母君、兄弟姉妹、合わせて十数人の死因はすべて、あの子が呼び込んだ病や事故によるものだそうな』
散る。散る。
まっしろふわふわ。ぼた雪のようにふわふわ。
綿蟲が水面に散る。
『まぁ、反乱軍の指導部が、やんごとなき方々を内々に処刑しまくった、というのが真相でしょうな』
『そんなところですな。しかし殺せば祟ると民に騒がれたゆえ、寺院送りにされるとはのう』
『ふん、我が寺院は人間を封印するところではないというに。迷惑じゃわ』
散る。散る。
蒼い鏡に……
『周囲の者に死を呼ぶ宿星のふれこみつき。さて、だれが引き取りますかの?』
『面白いが、私はいらぬな』
『私もいらぬ。顔はかわいいが、魔力は低そうだからな』
嫌われるのは慣れているけれど。心に傷がつかないわけではない。
ため息ひとつ。胸を強く押さえて割れるのを防ぐ。
岩壁そびえる寺院。
ここが目的地? なんと高い崖。天に届いているんじゃないだろうか。
舟が音もなく埠頭につく。
黒い衣の大人たちに続いて、舟から降りたら。
――『来たぁあああ!』
誰かが黒い衣のすそを翻して、ものすごい勢いでこちらに走ってきた。
『来た来た来たぁあああ!!』
まるで突風。なんだろうあの人は。なんて威勢のよい……。
『おおおお! この子だこの子! 最長老さまに長老さま、おひろめなどしなくてよいですよね? 死を呼ぶ悪魔の子! ですからねえ。いや本当に、だれもほしがらんでしょう? だからもう、今ここで私の子にしますね! いやもうね、何十年も前からそうと決まってるんですよ。だって何度も何度も夢で見たんですからね。百発百中のこの私が! 何度もですよ!』
熱に浮かされたようにまくしたてるその人は。
『しかしだな、夢見のヒュプノウス』
『いちおう、会合の広場でその子をみんなに披露せねば』
『それがしきたりなのだから』
目に鮮やかな栗色の髪で、なんとも見目良くて。しかも押しが強かった。
『いやぁ、それは無理でしょう。だって大変危険なのですよ? この子は凶事を吸い寄せて周囲に放出するんですから。この子を目にしたらみなさん、絶対とばっちりを喰らいます!』
舟に乗っていた黒き衣の長老たち。留守番の長老たち。そして、最長老レヴェラトール。
集まってきた寺院の七人の支配者たちが軒並み押し黙ったのは……その人がたぶんこう言ったからだ。
『だってこの私が百発百中の夢で見ましたからねえ。この子を他の人に見せたら、不幸がどんどこ降ってくるって。なので私が回収して、しまってしまいますね!』
転瞬、あたりに降りたのは。水を打ったような静寂。
『……』
『……』
『……』
『……』
『しまう……』
『言い切ったぞこやつ……』
『ヒュプノウス……そなた、箱でも用意してるのか?』
栗色の髪の人は満面の笑み。こっくりうなずき、胸を張っていた。
『はい、最長老様! 箱の外側には護符を百枚貼ってますので、凶星の気が外に漏れることはありません。中には真っ白いテンの毛皮を敷きましたし、お菓子もおもちゃも準備万端完備しました。今日この日、この子が来ると、百発百中の夢で見ましたからね!』
『……』
『……』
『……』
『……』
『……毛皮箱だと……?』
『……ほんとに用意しているのかこやつ……』
皆呆れ返っている中で。あの最長老がくすくす笑った。
夢見を馬鹿にしているあの人が。
『ふん、上等だ。特別に我が権限で許してやろうぞ! 今すぐその子をしまうがいい!』
『おお! ありがとうございます、最長老様!』
百発百中。
微妙にあとずさる長老たちの誰も、その点についてはひとことも反論しなかった。
だから本当にそうなのだろう。
両手を広げてその人が近づいてきたと思ったら。
次の瞬間、きつくきつく抱きしめられていた。
『さあおいで、私のチル!』
ご高覧ありがとうございます。
陰陽師が何かに星辰占いか何かで見てもらった結果、
超最悪な宿星に生まれていることがわかったようです・・;
でもたぶん迷信なのです…・ω・`
ご高覧ありがとうございます。
もうほんとに( ゚д゚)←これですよねえ……
寺院の導師さまは大陸法もなにも通用しない無法地帯で純粋培養的に飼育されてるので
人を尊重するとか忖度するという概念はたぶんないのではなかろうかと。
ていうかヒュプさまがこんなオカシイ奴なのは、ヒュプのお師様のせいな気がする昨今です。
(負の連鎖w)
いや、なんかもう、こんな勢いで「不吉ですよっ!」って
明るくまくしたてる……いや、これ、明るいって言って良いのか?
幼子とは言え、もう言葉も理解しているだろう子供の前で、
愚痴をこぼす大人も大人げないけど、ヒュプノウス様はなんか、こう、別軸方向に大人げないですね。
いきなり、こんな相手に「さあおいで、私のチル!」とかハグされてしまって
ソムニウスさん、さぞかし面食らったことでしょうねぇ( ´艸`)
きっと、当時の最長老様以外の面子も( ゚д゚) だったでしょうねぇw