銀の狐 金の蛇21 精霊刀(中編)
- カテゴリ:自作小説
- 2017/08/23 08:13:03
たちまち魔法の気配が降りてきて、二人の右手に魔力が集まった。
『虚空に在りしは 黄金《こがね》のつわもの
かかげし御旗は烈空の怒り』
弟子の精霊は契約済みで召喚詠唱が短縮されているとはいえ、それでもかなり長い。
師が士長に初歩の結界を投げてその体をくるんだあとも、弟子は澄んだ声音で歌い続けた。
『きたれよきらめき ほとばしるもの
閃光まばゆき 雷《いかずち》の精鋭!』
美しい声だと、師は思わず微笑んだ。今すぐついばみたいのをこらえねばならぬほど、薔薇色の唇はなんとも艶めかしい。
弟子が精霊の玉を右手の先に呼び出したとき。
ぐわりと大きな口を開けて、巨大魚が波たてながらせりあがってきた。
白子を背後に押しやってかばう士長が、おのが背にある刀を抜きはなつ。
「なんという輝き!」
刹那、その鉄面皮の顔が驚きで崩れた。銀色の刀身に、太陽の光を浴びたかのような燦然とした輝きのかたまりが飛んできて、みるまに巻きついたからだ。
「その刀で捌け!」
いまや士長の全身は結界で淡く光り、刀はそれ以上に光り輝いている。
しかし。
叫んだ夢見の導師はまばゆい刀身を眺めるなり、ウッとたじろぎ目をすがめた。
「あれは……?!」
巨大魚が水面にせり上がり、獲物を食わんと口を開ける。
白子がキュウと鳴いて、師弟の方へ逃げ寄ってきた。
「クラミチヒトツミチ!」
身軽になった鉄面皮の男は横に退き、おぞましく並び立つ歯を避けつつ刀を薙いだ。
ぬるっとしたその大きな頭部に、光り輝く刃が食い込んだ瞬間。
黄金色のまばゆい放電が刀から放たれ、魚の巨体を包みこむ。
目を焼く閃光。
鬼神のごとき表情を浮かべた士長の顔と。いきおいよく噴き出す魚の血潮が、くっきり浮かびあがる……。
「し、ししし、しびれ、る!」
緑の液体が、びりりと泥水を伝う光の波動とともに水面に広がってくる。
波動に揺さぶられたソムニウスはあわあわしながら、弟子と白子をきつく抱きしめたが。その目はじっと、光り輝く士長の刀から動かなかった。
なぜなら……
なぜなら……
「緑の体液! なんてすごい色」
弟子が顔をしかめるそばで、ソムニウスは呆然とつぶやいた。
「そうだな。あの刀……今度は緑に染まるか」
「今度は?」
弟子が小首をかしげる。しかし師は黙ってそれ以上言葉をつがなかった。
胸中に満ちるのは、とまどいと疑問だった。
士長はみごとあの魚をしとめるだろう。あの魚はじきに動かなくなるだろう。
だが、背中がひどくざわつく。
なぜなら……
なぜなら……
(なぜに?!)
精霊宿る輝く刀には、抜かれる前から、すでにおそろしいものがついていた。
真っ赤な血のりが、眉をひそめるほどにべったりと――。
2.緑の体液と金属が反応して赤くなった
3.魚の中にある別のものの体液が赤かった
しかし、士長さんかっこいい。
そして、ソムニウスさんたちの方へ逃げてくる白子。
咄嗟のこととは言え、夢見の導師とその愛弟子を安全な相手と判断するようになったのですね(*'ω'*)