Nicotto Town



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「景勝さま」

「何だ」
「ご承知のように、私の性格はあまり過去をふりかえりませぬ。”なぜこうなったのか”を詮索するより、”こうなった事実をどうするか”ということに主眼をおきます。今日の話は、いたずらにあなたに古い事を思い出していただくためではありません」
「それはわかっている。たしかにおまえのいうとおり、上条からみれば、上杉家は上田衆に乗っ取られたと思うだろうな?」
「上条殿だけではありません。そう思っているものは、まだまだ沢山おります」
「それにしても」
 急に景勝は苦笑いして兼続の顔を見た。
「おまえという奴は実にわからぬ。まさに怪物だ」
「そうでしょうか。たとえそうだとしても、ただ」
「ただ、なんだ?」
「その怪物は、いつも生命がけであなたを支えますよ」
「うむ」これには景勝も素直にうなずいた。





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