銀の狐 金の蛇22 看破(後編)
- カテゴリ:自作小説
- 2017/09/13 21:49:12
その隠れ道は細く狭く真っ暗だった。
ばしゃしゃと水をはねちらかし、ウサギの耳をゆらし。
白い子はぐいぐい士長をひっぱりながらしばらく進んだあと、けらけら笑って道から消えた。
急いで追いついてみれば、道は急な下りの坂道になっていた。
白い子と士長は、ぎゅんぎゅんするする道を滑り降りている。
「クラミチヒトツミチ! ミチヒトツ!」
「ああ、そうか。クラミチヒトツミチとは……」
弟子を従え、尻をつけて穴道を滑り降りはじめたソムニウスは、そうかと目を細めた。
「みんなあの世へいく、と言う意味ではないのだな」
「もしかして、言葉通りにとればいいのでしょうか」
「そうなんだろうな。くらいひとつの道。暗闇の一本道。ああもう!」
穴を滑り降りるソムニウスはがっくりうなだれた。
「予言術を扱う我らの悪い癖だ。なんでも婉曲に表現されていると取って、小難しく解釈しようとするから……」
「回り道をするわけですね」
またレヴェラトールに呆れられますね、と弟子がくすくす笑う。
「でも行きつく場所が同じなら、多少の遅延は許されると思います」
「間に合うといいのだがな」
「難しいと思いますよ。すべてを見通す方の予言は、決して外れません」
『多くの舟が浮かぶだろう』
岩窟の寺院の最長老の親書。そこに記されていた予言。
ソムニウスは呻いてこめかみをおさえた。
(これは九割方、ユインに湖ができる、ということか)
しかし、夢の中に現れた師は希望を与えてくれた。
『大きな水樽の栓を閉めるんだ。天使が閉めなければ、君の望み通りになる』
「カディヤ。私はおのれの夢見の方を信じるよ」
「私も、星より夢の方を信じます」
刀を抱えてすぐ後ろを滑りおりる弟子が、ぶつぶつ韻律を唱え始める。念のためにと刃をなまくらにする結界をかけているようだ。士長の暴走を警戒しているのだろう。
(黒幕が誰か確定したら、速攻で殺しにいきそうだものな)
気持ちは分かる。
おのれとてカディヤが殺されたら、真っ先に仇をとるだろう。
|何人《なんぴと》も、自分の子供はかわいいのだ。この世のだれよりも、いとしいのだ。
ソムニウスはカディヤを心底愛している。
ヒュプノウスは、チルを溺愛した。
士長とその妻は娘二人がかわいくてならない。
毛皮神官は、おのが娘を世継ぎにしたがっていた。
蛇のハオ婆は一人娘を失って狂いが入った。
狐の国主もしかりだ。子を失って、今はたぶん普通の状態ではない。
だれもが、おのれの子をなによりも誰よりも愛している。
そのためになにをしても厭わぬほどに。
「ああ、そうか」
ソムニウスはそこでようやく気がついた。
黒幕が、一体誰なのか――。
狭い滑り台のごとき道が終わり、夢見の導師はすぽんと暗い空洞に落ちた。
小精霊を飛ばしてみれば、その地べたには一面、おびただしい円形の浅い穴があいている。うっすら水を被ったそこには、典型的な鍾乳洞の鍾乳石が垂れ下がっていた。
尻もちをついたのだろう、白い子が尻をさすりながらけらけら笑っている。
華麗に着地した士長が、驚きの目で辺りを見回している。
「士長どの。ひとつ確認したいことがあるのだが」
自身も尻をさすりつつ、ソムニウスは士長に近づいた。
心中、おのれの推測に動かぬ確信を得ながら。
「その白子の父親は、一体だれだ?」
お読み下さりありがとうございます><
ソムさん、とりあえずいろいろ考えてこれが真犯人?と推理した模様です。
次回謎解き編、見事に犯人を当てられるかどうか。
そしてカディヤを守れるといいなと思います・ω・
お読み下さりありがとうございます><
導師は物に宿る御霊、精霊のようなものを感知・使役できるみたいですね。
上級になるとアイダさんみたいに星の力を持ち出すレベルになりますが
ソムさんはそんなに優秀じゃないので、ちっちゃな光玉の獅子犬をしもべにするのが精一杯^^;
カディヤはもっと優秀で精霊感知能力にくわえて、そこそこの契約精霊をいくつかもっていそうです・ω・
お読み下さりありがとうございます><
ソムさんは白子ちゃんのお父さんをどうやって割り出すのでしょうか。
ユインならではの慣習とか関わってきそうです。
さて星と夢と、どちらが成就するのか。
天使よりも先に栓をすることがソムニウスさんに出来るのか。
佳境ですね。
推理小説の謎解き編^^
精霊の記憶を証拠に使えるのが、他の名探偵さんと
違うところですね。
神様が一人でなんでもこなすワンオペ世界より
無数の精霊が働いている世界のほうが私は好きです^^
予言の成就まであと少し。
どんな光景が待っているのでしょうか。
続きが楽しみです♪