薔薇園へようこそ 「ティリンの竪琴」1
- カテゴリ:自作小説
- 2017/12/16 01:42:19
#薔薇園へようこそ
https://shindanmaker.com/763378
さらわれてきたのは薔薇園だった。
誰かの白い手が唇にそっとふれたとたん、ティリンは新雪の色の薔薇に変わってしまった。快活なつぼみ、そのいくえもの花弁の奥にひそむ誠実さ、そして悲観主義。よい夢を、と誰かが微笑した。
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えー……
実際に薔薇園?を持っている人のお話(数年前に書いた)の犠牲者(?)の名前を入れてみましたら見事にばっちりそのお話に合うのがでてきました(呆然)
これはすごいです……
ということで、白薔薇のお話「ティリンの竪琴」をどうぞ。
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南風過ぎて 北風が来た
砂の嵐が埋めてゆく
死んだ私を埋めてゆく
「おやめよ」
天幕の家の中で糸を紡いでいる女が眉をひそめ、片隅で歌う子どもをたしなめた。その子は爪弾いていた竪琴から一瞬手を離したが、反抗するようにまた弦をはじいた。
薔薇が咲いたら 涙がかれる
白の花なら 涙がかわく
「ティリン! 旦那様が帰ってくるよ」
「歌わなかったら、いいでしょ」
赤銅色の髪の子はそれきり口を閉じ、竪琴で物悲しい節を奏でた。片手だけの単純な爪弾きだが、その動きは滑らかだ。
女は呆れたように肩をすくめ、縒り糸の束山に作った糸を放り投げた。
そのとき。天幕の入り口が巻き上げられて、頭と口に布をぐるぐる巻きにした男が入って来た。全身砂ぼこりで真っ白い。びゅおうと、天幕の外からものすごい突風が吹き込んでくる。外はひどい砂嵐だ。
「おかえりなさい、旦那様」
女は身をかがめて水の入ったたらいを男の前に置き、男の汚れた足を洗い清めた。
ティリンはパッと手を止め、竪琴を床敷きの毛皮の下に隠した。だが口から巻き布をとった家の主人は見逃さず、その顔はとても険しかった。
「また弾いてたのか」
女がかばうようにおずおずと言う。
「でもこの子は、片身が動かないし」
「走れはしないが歩けるだろう。外に出て一緒に牛追いをしろ」
「でもこの子は、まだ小さいし」
「もう九つだろう。アスハルのところの子は、ひとりでヤギの世話をしているぞ。だれの役にも立たんことなど、もうするな!」
男は怒り顔で毛皮の下から竪琴を取り出し、びゅうびゅう風が吹きすさぶ天幕の外に投げ捨てた。
「だめ!」
ティリンは血相を変えて天幕から這い出して。砂降る地に落ちた竪琴を拾い上げ、ぎゅうと抱きしめた。
「母さんの形見だよ? 投げるなんてひどい!」
「だからいらないんだ!」
男は吐き捨てるように言い、天幕の入り口を下ろした。
ごうごうと砂の嵐が吹きすさぶ中、ティリンはぐすぐす泣きじゃくった。
「父さんのばか! 大っ嫌いだ!」
砂が口にたくさん入ってくる。ティリンは咳き込みながらずっと泣いた。
竪琴を抱きしめながら。
ティリンの父親は、砂漠のオアシスを拠点に牛とヤギを放牧して生計を立てている。牛百頭とヤギ三百頭、馬二十頭とかなりの財産持ち。若い衆を何人も雇えるぐらい裕福だ。
ティリンの母はかつて旅回りの楽師で、踊り子の妹と一緒に名の知れた一座に入っていた。母は巡業先で父に出会い、大恋愛の末に結婚をしてティリンを生んのだが、五年前に病で死んだ。
躯が麻痺する恐ろしい病で、その毒牙は生まれたばかりの息子にも襲いかかった。ティリンは奇跡的に命をとりとめたものの、躯の半分がろくに動かなくなった。以来、天幕に引きこもり、母の形見の竪琴を片時も離さないでいる。
父親はほどなく、もと踊り子であるティリンの叔母を後妻として娶った。
叔母は実の甥をかわいがってくれたが、ティリンは母が忘れられなくて、四六時中竪琴を爪弾いた。母の子守唄には、必ず竪琴の音色がついていたからだ。
父親はそれを露骨に嫌がった。愛する人に先立たれた者にとっては、その遺品など見るだけで辛いものだったのだろう。しかし子供のティリンには、そんな父の気持ちが分からなかった。
父と子の間にはこうして溝ができ、その溝は、叔母が身ごもったことで埋めがたいものになった。
ティリンが十になった月に生まれてきた腹違いの子は、珠のような男の子。父も継母も、赤子に夢中になった。
五体満足、元気な子だ。当然、家の跡継ぎはこの赤子に決まりだろう。
赤子が眠れないからと、それまで大目に見ていた継母は、ティリンの演奏を嫌がりだした。本当はその反対で、赤子は竪琴の音を聞くとすやすやよく眠るのだったが。
居場所がなくなったティリンは、オアシスの岸辺で竪琴を奏でるようになった。
少年はうつむいてばかりで、少しも気づかなかった。
熱砂の砂漠のはるか空の上で、鳥たちが群れて、一緒に歌っているのを。
雨季に入るかというころ、都からはるばる王の使いがやってきた。
その使いは偃月刀を背に負う軍人で、銀の頭輪に白い頭巾を被っており、ラクダに乗ってやってきた。彼は厳かにティリンの父に王からの布告を伝えた。
「陛下は十歳ぐらいの、魔力のある子供をお望みだ。献上してくれた家には、年に一千ヂリルを年金として与えるとのことである」
十歳ぐらいの子はいるのだが、と父は苦虫を潰したような顔で言い。
赤ん坊を抱く継母が、きっとあの子には魔力があるわと断言した。
「だってあの子の母親は、男を惑わす歌をよく唄ったものよ」
王の使いはオアシスで歌を歌っている子のところに行ってみた。
空を仰げば、鳥たちがぐるぐる旋回している。オアシスの木にとまっているのもたくさんいる。一緒に唄っているのか、ぴいぴい鳴いているのもいる。
しかし子供はずっとうなだれ地面ばかり見て歌っていて、周囲の驚くべき光景にはちっとも気づいていないようだった。
王の使いはすぐさまティリンを預かって、ラクダに乗せて都へと連れて行った。
継母は嬉々として、ティリンに晴れ着を着せて送りだした。父親は口を引き結び、何も言わずに見送っただけだった。
居場所のない家から出るのは抵抗がなかったし、むしろホッとしたけれど。ティリンは不安でたまらなくなった。
「ぼく、これからどうなるの?」
王の使いは期待満々の顔で答えた。
「陛下は、岩窟の寺院に捧げる子を探しておられるのだ」
「寺院?」
はるか東の果て、エティア王国の北の辺境には、黒の導師の寺院があるという。
「そこの大賢者が、南の覇王に予言を与えた。そうしたら覇王は、破竹の勢いで多島海を平定したそうだ。ゆえに大陸中の王家はこぞって、その大賢者とつながりを持ちたがっている。将来寺院の導師となる捧げ子をたくさん差し上げれば、大賢者はありがたいお告げをくださるだろうとね」
「導師って、体が動かなくともなれるの?」
「魔法は口から出るものだ。喋れればきっと大丈夫さ」
ティリンは王の宮殿に連れて行かれた。王は国中にお触れを出して子供を集めたらしい。蒼い焼きタイルが敷き詰められた大広間には、すでに「魔力のある十歳ぐらいの子」が何百人も集まっていた。
「これから選抜試験をするのだ。受かってくれよ、小さな詩人。おまえさんが選ばれたら、連れて来た俺も褒美がもらえるんだ」
王の使いはティリンの肩を叩いて子供の群れの中に送り出した。
子供たちは大勢いた。肌色はさまざま。髪の色もさまざま。みな賢そうだ。
ティリンはどきどきする胸を抑えるように竪琴をぎゅっと抱きしめた。
ああ、選んでもらわなければ。自分には、帰るところがないのだから。
のちほど、ゆっくり、読みに伺いますね
リンクチェックでお邪魔しました。
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麗しい薔薇たちをご堪能くださいピヨ♪
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ロワゾーさんところの小鳥です。
薔薇名鑑のページを作っていますので
画像とURLをいただいて参ります。
のちほどチェックは別の小鳥さんが参りますので
宜しくお願いします❤
ご高覧ありがとうございます><
薔薇は素晴らしいモチーフですよね。
花言葉も色や本数によってたくさんありますし^^
ご高覧ありがとうございます><
そうなのです・ω・
導師のお話、いっぱいあるのです。
ご高覧ありがとうございます><
もうなんというか、こんな遠くに生まれたのに…
ご高覧ありがとうございますノω;
ってなんていう透視力w
薔薇に転生 なんてファンタジーにぴったりだね
砂の国から摘み取られた彼は、いったいどんな花になるのか、或いは花にならないのか。
楽しみだなぁ。