自作1月/追憶 「走馬灯」 後編
- カテゴリ:自作小説
- 2018/01/31 23:08:44
「おまえのせいだ!」
家の敷地に入るなり。おれはおじさんにぶんなぐられた。
「ロミナはおまえとの結婚のために銀狐の毛皮をとりにいった! そんでグライクライにやられちまった!」
銀狐はめずらしい生き物だ。その毛皮はおそろしい価値がある。ロミナはおれにそいつのえりまきを贈ると言ってきかなかった。それが嫁入りの持参金の代わりだって。
そしてグライクライは最近、村の周辺に出るようになった生き物だ。
熊みたいなやつだが、冬眠しない熊なんてまったくもって異常なもの。きっと魔物にちがいないとみんな警戒してた。
ロミナはそいつの、初めての犠牲者になってしまった。
銀狐をとりに裏森に潜って、そこで――
彼女の不幸を知らせたのは賢い猟犬。狩りのときいつも連れていた頼もしい相棒だ。家族に急を知らせて、主人が倒れたところまで案内したらしい。
百人ぽっきりの村はそれで九十九人になり。おれはロミナの家族にえらく恨まれた。
「だからわしは結婚に反対したんだ! 赤毛のもんなど、不幸を呼ぶってな」
「赤毛、あんたしばらく姿を見せないでおくれ」
おれは、名前でよばれたことがほとんどない。
百人ぽっきりの村で赤毛なのはおれひとり。あとの九十九人はみんな金髪だ。
半分他の土地のやつの血が入ってるおれは、村では異端児。土台、ロミナとの付き合いはロミナの家族には歓迎されてなかった。
恋人のなきがらを見ることも許されず、おれはこれで完全に村八分。
ここで生きていくには名誉を挽回しないといけない。
ロミナの仇をとればきっと。グライクライをやっつければきっと。
みんなはおれを許してくれる――
おれは走った。
泣きながら走った。手には槍。背中には弓矢。腰にはナタ。持てる限りの武器をもって、雪道を走った。グライクライが徘徊する裏森へと、がむしゃらに。
敵はすぐに見つかった。
おれはおもいきり、黒い毛むくじゃらの魔物に槍を投げた。でもそれははずれた。
おれは次に弓矢を放った。でもそれも、ぶざまにはずれた。
最後にナタで切りかかったけれど。でもそれも、魔物の腕であっけなく弾かれた。
武器を全部失った瞬間、おれは相手の大きな腕で薙ぎ払われてすっ飛んだ。
痛い。
痛い。
死ぬ。
腹から何か出てる。ああ、切り裂かれたのか。
でも死ねない。仇を取らないと。倒さないと。
ロミナ。ロミナ。
好きだった。
あいつだけはおれのことを、あだ名でよばなかった。
ちゃんと名前をよんでくれた。
だからおれはこいつを殺す。ぜったいに殺してやる――
「うあああああああ!!」
頭を抱えて跳ね起きると、おれはまっしろな寝台に寝かされていた。
周りは本。本。本。本がぎっしりつまった棚がひしめいている。
ここは……百人ぽっきりの村じゃない。
「戻って、きた?」
かたわらに、赤胴色の衣をまとった男がいる。
「ここに運び込んで十分。蘇生にかなり時間がかかりましたが。記憶は見えましたか?」
無表情なその顔がおれを冷たく見下ろす。
「あ……はい……生まれ故郷の村が……見えました……」
すっぱだかの体には、傷が癒えた跡がいくつもある。筒を刺されて穴があいたはずなのに、今はもうすっかりその傷が埋まっている。首はまだ傷とおぼしきものかぽっこりついているが、まったく痛くない。
「おさななじみが殺されて……おれはその仇をとりました。魔物を倒して……」
「ほう? どうやって?」
「武器もなんにも効かなかったので、おれは……敵と同じものに……」
「なるほど」
そのときはじめて、おれを見下ろす男は口元をゆるめて。目も山のようにして微笑んだ。
「敵の力を複製したのですね」
「え……そうなんでしょうか」
「では、あなたが見た記憶を、見せていただきましょう」
「う? うあああ?!」
男の手が、おれの顔に伸びてきて――
「うあああああ!!」
おれの目をえぐった。ぶちりと、何かが切れる音が目の奥で響く。
「心配はいりません。あなたの左目は義眼なのです。これはあなたが見たものをすべて記憶する、情報集積回路。ルファの瞳と呼ばれるもの。韻律を唱えてのぞきこめば……」
男の顔がほころぶ。まるで花が咲いたように。
「あなたの本体から採った血で培養生成されたあなたには、本体の記憶がちゃんと残っている。情報は遺伝子の中にも伝達されるのです。ふふふ、じっくり見せていただきましょう。金槌遺伝子の複製能力を――」
おれは片目がなくなった顔をおさえて、寝台に倒れた。
ずきずきと頭が傷んだ。目の奥が焼けているようで、とても起きてなどいられなかった。
踵を返して、男は本だらけの部屋を出て行く。
おれに背を向けたまま、そいつはおれに冷たく言葉を投げた。
「これから存分に働いてもらいます、我が子よ。その力をもってして、世を正しなさい」
満足げな笑いが漏れると同時にばたんと閉められた扉にむかって、おれは呻いた。
返事をしないといけないと思ったからだった。
「はい……」
なぜならあの男はおれの創造主。おれはあの男に造られたモノ。
だれかの血によって培養され、たった数ヶ月で作り出されたしもべ。
だからおれは答えた。扉の向こうにいるだろう主人にむかって。
「わかり、ました……おとう、さま」
それからひと月たたぬうち。おれは男の住まう塔から出された。
父たる男から命じられたことを果たすため、おれは大陸へ渡る船に乗った。
『その力をもって、世を正しなさい』
力。
あれを使うのか。
白い塔がそびえる島を背にするおれの脳裏に、記憶がのぼってきた。
おれのものではない。おれの本体のものである情報が。
おれの本体は島にしばらく滞在したが、つい先月、エティアという国へ帰ったそうだ。今はそこの王宮にいるらしい。
おれの行き先はそこだ。そこに、標的がいる――
潮風がみるみる、船の帆を押す。
かもめがたくさん、けたたましく鳴きながらついてきた。
旅立ちを祝福してくれるかのように船の両脇につき従い、次々海面に降りて波を裂く。
中の一羽が鉤型の口でみごと、魚をとらえた。あわれな獲物が銀のきらめきを放つ。
その光がおれの目を刺した。
ずさりと深く。心の臓に届くほどに。
――走馬灯 了 ――
つくり出された人が二代目?
主人公は「n」代目……
魔導士と戦って、ぜひ、勝って欲しいです
コピーがオリジナルを襲う。
オリジナルといっても改訂版ですが^^;
命を狙われるまでになったおばちゃん代理。
もう、原型は無いのかもしれません^^;
この間の月食は暗い赤銅色でした。
寒かったけれど良いものを見られました^^
エティアの王宮にいる主役の本体、この先自分の分身に命を狙われるんですか。
なかなか痛そうな表現が多くてちょっとドキドキでした。
本当にそれが目的なのかなぁ。
自作の紙飛行機がどこまで飛べるかのか投げてみる、みたいな
そういう学術的好奇心のような気がするのは、うがち過ぎだろうか。
おばちゃん代理の話……?
それにしても、
なにやらオドロドロしいにゃあ
でもこれどう言うお話に成ったのかな?