Nicotto Town



オリジナル小説第一章第2話

 街の象徴と言われている噴水のある広場を通り抜け、その先の門も通り抜ける。門番の人は居眠りをして
いた。あとで怒られないのかな?気づかれないように行こう。
 街を一歩出ると、もうそこは荒れた荒野だ。冷たい風が吹き抜け、心なしか不穏な気配までする。この世
界には、「魔物」と呼ばれる怪物がいて人を襲ってくる。だから普通の人はほとんど自分の生まれた町から
一歩も出ずに生涯を終える。町を出て生活するのは、冒険者か兵士か吟遊詩人か町から町へと品物を売りに
行く商人くらいなものだ。町が魔物に襲われないように、危険な町の外へと誰かが行かないように門番がい
る。といっても、この町はちいさな街だからめったに誰かがくるようなことはなかった。だから、門番の人
も暇だったのかな?
 街を身一つで出てすぐ死なないのか、不思議に思う人もいるだろう。しかし私は、この世界では一番大き
い「王国」の「貴族」しか使えない、使ってはいけない「魔法」を独学で習得している。といっても、使え
たのは本当に偶然のことで、それから勉強し始めたのだけれど。私が得意な魔法は、精霊を召喚する「精霊
魔法」とありとあらゆるものを浄化するーー清める「浄化魔法」だ。ほかの魔法もある程度のレベルは使え
る。本当はこれくらいの力があるのだったら「王国」に申請して魔導士になることもできたのだけれど。
魔導士になったら一生王国の王族たちが住む屋敷の隣にある魔導士専用のお屋敷に住まなければいけない。
そこでは外出もできずに、ただ魔法の研究だけをし続けなければいけない。そんなの嫌だ。だから私は王国
には申請せずに、冬亜だけにこのことを話して二人の秘密にしてきた。黙っていればわからないから。見た
目は普通の魔法も何も使えない人と同じだから。
 ああ、でも普通の人と決定的に違うところが一つだけある。それはこの色素の抜け落ちた真っ白な髪だ。
冬亜は「きれいだ」って言ってくれたけれど、小さいころはこの髪のせいでとても気味悪がられていた。私
の両親も、このような髪の私を気味悪がって路地裏に捨てた。両親のことは恨んでいない。仕方ないよね、
二人共と違う髪の子供が生まれたら気持ち悪く思うよね。もう私はこのことはあきらめている。私がここに
いるのは、すべて冬亜のおかげだ。何年か前の冬に、路地裏で凍えている私を見て、連れ帰ってくれた。渋
る冬亜の両親を説得して、私をここにおいてくれるように頼んでくれた。冬亜の両親やほかの人からの嫌が
らせから守ってくれた。食事が与えられなかったときに、こっそり持ってきてくれた。冬亜には感謝しても
感謝しきれない。
 初めて優しくされて、あの時にうれしかった。小さいころから「愛」をもらったことがないから、初めて
の感情に驚いた。生まれて初めて、大切だと思う人が現れたんだ。
 もう今は冬亜の両親はいない。私が住み始めてから2年がたったときに、いつの間にか家を出て行っていた。
それからは、ずっと二人で生きてきた。支えあって、大変なこともあったけど、それでも楽しく。幸せだっ
た。
 少し感傷に浸っていたところで、ガサガサと物音がした。音のした方に目を向けると、そこにいたのは魔
物だった。醜い豚の怪物、オーク。こいつは人を凌辱してから食べる、最低な魔物だ。でも、出てきたのが
オークで本当に良かった。オークは魔物の全体のランク付け、E~Sランクの6段階の中で一番弱いEランク
魔物だ。弱いからさほど魔力を消費せずに倒せる。この先何があるかわからないから、魔力はあんまり使え
ない。もっと強いAランクやSランク級の魔物に襲われることだって、確率は0%ではないのだから。それに
王国の兵士や魔導士などの人との戦闘だって------あるかもしれないのだから。魔法が伝えることを隠して
いるのは、この世界では重罪だ。最悪、死刑の可能性だってある。見られないように、気づかれないように
しなくちゃ。
 …まあ、もし「そんなこと」があったらそいつらをまとめてつぶせばいいか。私と冬亜だけが生きていら
れれば私はもうそれでいいんだから。
 さあ、とにかくこの魔物を倒さないと。私は、自分の手のひらに力を込める。今回使うのは、無詠唱の魔
法だ。無詠唱の魔法は、相当訓令された魔法使いでないと使えないらしい。それも、詠唱を必要とするくら
いの規模の魔法を出そうとするとなおさら。ただ、私は初めから簡単に使えていたからこの事実はあんまり
気にしていない。この世界には、魔法に五つの「属性」というものがある。その属性は、光、闇、水、木、
火だ。光と闇は互いに強く、水は火に、火は木に、木は水に強い。私の得意とする浄化魔法は、光属性に分
類される。ちなみに、ごく一部の例外が魔法の中にもあり、その一つが召喚魔法だ。この例外は魔法使いの
間では「異端」とされ、使ったものやこの魔法を使えるものには厳しい処分や拷問が行われるらしい。ただ、
私はそれでもよくこの魔法を使うが。オークは闇属性だ。光属性の、一番簡単な攻撃魔法、「ルークス・ス
テッラエ」(ラテン語で、星明りという意味)でいいだろう。この魔法は、発動すると光の玉が対象物に向
かって飛んでいき、敵を内部から爆発させるという意外とえぐい技だ。まあ、オークくらいが死んだところ
で、私は何も感じないのだけれど。ほら、オークは最期まで汚い。内臓が、血の雨があたりに飛び散ってし
まった。…威力、間違えたかな。浄化魔法をかけないと。
 浄化魔法はさすがに詠唱があった方が使いやすい。無詠唱でも使えないことはないが、魔力が大量に消費
されてしまう。
 「…呼び覚ませ我の真なる力、カタルシス・フォス・ポースよ。この場を清め、清純へと導き給え…」
 そう唱えると、たちまちあたりからは光が湧き出て、あっという間に「浄化」されていく。私はこの光景
が好きだ。冬亜も好きだった。ちなみに、「浄化」されるとその存在からは悪の元、闇属性がいっきに取り
払われる。とても便利だ。まあ、単に掃除のときに使ってもいいかもしれないけれど。現に、私たちは実際
使って家事を楽にしていたわけだし。
 さあ、進んでいこう。私と、冬亜の未来のためだけに。




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