自作小説「7月7日」
- カテゴリ:自作小説
- 2018/07/05 19:24:41
「7月7日」
かあさんの命日が自分の誕生日とはねえ、
そう言ったのは、3人の子を持つ娘。
おやじも7月だったし、同じ月で良かったじゃないか。
黒ネクタイをゆるめながら答えたのは、兄である息子。
告別式、初七日を済ませ、
懐かしい家の居間で、2人はくつろいでいた。
あけ放たれた窓から、心地よい風が吹き込んでくる。
ここの景色も変わらないなあ、と息子が言うと、
よくこんな田舎で暮らしていたわよねと、娘が答える。
この家を訪れるのは、久しぶりのことだった。
田舎で暮らすことを嫌がり、都会へと出て行った子供たち。
自分たちの両親が、どんな出会いをし、どんな風に毎日を過ごしていたのか、
興味も持たなかった。
父親が亡くなって、息子は一緒に住もうと言ったが、
母親は、この家を離れなかった。
息子も娘も、それ以上無理強いすることはなく、
母親はこの地の病院で息を引き取った。
母親は夫の三回忌を終えると、急に老け込んでしまった。
肩の荷が下りたのだろうと、近所の人たちは言い合った。
そして、後を追うように、同じ月に逝ってしまった。
仲の良い夫婦だったから、と噂しあった。
*********
ベッドに横たわり、
寝ている時間が増えていくことで、
母親は自分の死期を悟った。
特別な人生ではなかった。
親の決めた相手と結婚し、子供を育て、
夫を見送った。
普通の当たり前の人生だったが、母親に後悔はなかった。
ふと、目が覚めた。
まだ生きているのだな、と母親は思った。
目の前にもやのようなものが広がり、それが次第にある形に変わっていく。
驚いてみつめていると、それは、人の形となった。
「おかえり」
目の前に、背の高い若い男性が立っている。
顔をみつめているうちに、だんだんと記憶が蘇ってくる。
「思い出した?」
身体に響くような低く優しい声。
「…あなた」
どうして今まで忘れていたんだろう。
こんなにも大事な人のことを。
愛してやまなかった彼。
そして、彼女は自分が生を終えたのだと知った。
生きていては会えなかった人。
大切な大切な、赤い糸で結ばれた相手。
「人の一生は短いというけれど、一年どころか、
待ちくたびれたよ」
そういえば、この人と別れたのは七夕の日だったわね、
と彼女は思い出す。
「ただいま戻りました」
おかえり、もう一度彼はそう言うと、
彼女のことを思い切り抱きしめたのだった。
著:李緒(natu)

























少し違う七夕のお話にしてみたくて書いてみました。
読んでもらう人に伝わるように書くのは、とても難しいです。