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政治は倫理ではないというお話

「マリアビートル」伊坂光太郎著 角川書店 平成二十二年九月二十四日初版

国とか政府はいざとなったら国民を守ってくれるって思っていない? 税金が上がったり、憲法の解釈が変わったり、テロ対策の法律ができたり、総理のお友達が優遇されたり切り捨てられたりしているけど、いざとなったら国民は守ってもらえると思っていない?

伊坂光太郎はシニカルな視点で社会を描く作家だ。社会悪はいつでもあって容認されたり許容量を超えたり、正義はなにかを問いかけたりするが、軽妙なタッチで、重いテーマを思いもしない角度から斬っていく。

「マリアビートル」の悪役は中学生の少年。彼の口癖は「どうして人を殺したらいけないんですか?」大人たちは困ったりあきれたりしながら、正確な答えを出せない質問だ。

東北新幹線を舞台に進行する物語の登場人物は殺し屋ばかり。鈴木だけは学習塾の講師で殺し屋ではない。

「人が死ぬのは、死なないまでも誰かが誰かを攻撃するのは、とても切ないからだよ」と答えるが、中学生は「切ない感情がない」人間は殺していいの?と食い下がる。もちろん、中学生は悪人だからね。

「世の中は、禁止事項で溢れているんだ」鈴木は中学生が大人を困らせるための質問だと疑っている。だから、殺してはいけないの?だけでなく、殴ったらいけないの?、他人の家に勝手に寝泊まりしたらだめなの?、学校で焚き火をしたら駄目なの?ってことも同時に質問すべきだという。命とマンガは同等に思えないけれども、世の中に一冊しか存在しない希少なマンガ本を燃やした場合も取り返しがつかない。どうして超レアなマンガ本を燃やしたらいけないの?とも質問すべきだと続ける。

そして、鈴木は結論をいう。おそらくは伊坂光太郎が考えてたどり着いた答え。

「殺人を許したら、国家が困るんだよ」と。

所有権を保護しなければ経済活動は成り立たないから「命を保護しなくては、少なくとも命を保護するふりをしなくては、経済活動が止ってしまうんだ。だからね、国家が禁止事項を作ったんだよ。殺人禁止のルールは、その一つだ」そして、「それは国家の都合で、行われるものだからだよ。国家が、問題なし、と認めたものだけが許される。そこに倫理は関係ない」と結ぶ。

今、日本の政治で行われているのはすべて国家の都合で決められている。国民を守るための働き方改革とか、インバウンドを目的としたカジノとか、改憲とか。国民のことなんてどうでもいいんだ。経済界すらどうでもいい。国家が国家として成立するための経済活動を維持するにはどうしても必要だったんだよ。だから、倫理に訴えても彼らは聞く耳がないんだね。

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2018/07/10 15:26
>みくあさん
コメントありがとうございます^^
民主主義がいいのか悪いのかって議論もあって、ソクラテスの弟子のプラトンは哲学を学んだ者が私心なく政治を行わせる独裁がいいと考えていました。
民主主義の一番の利点はいやだったら離脱できるなのですが、保証されているかどうかはわからなくなっていますね。
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2018/07/09 16:41
日本の民主主義は戦後、アメリカの指導のもと政府が急いで作ったものであって、ヨーロッパのように市民革命によって獲得したものではない、という話を思い出しました。
私は生まれた時から今の民主主義を当たり前に感じていて、いろんなものが政府の都合の良いように作られても、それに疑問すら感じずに暮らしていました。
ですので、こういうことに気が付く人は凄いなぁと思います。





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